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「作詞家・阿久悠の軌跡 」~待ち望んでいた宝物に出会えたという感慨

2017.11.17

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「作詞家・阿久悠の軌跡 没後10年、生誕80年 完全保存版」というデータブックが発売になった。
そこにはシングルのみならず、アルバムで発表になった曲、B面収録曲、非売品、校歌、社歌、記念曲の情報まで記載されている。

タイトルにもある通り、作詞家としての阿久悠が残した作品情報を可能な限り、すべて網羅しようという思いがカタチになった労作だ。

この本が出るという情報を知った時には、「そんな大変なことを考えて、しかもほんとうに実行してくれる人がいるんだ」と驚かされたが、実際に288ページを1週間かけてくまなく読んでみて、「待ち望んでいた宝物に出会った」という感慨が湧いた。




第1章には阿久悠が作詞した楽曲のなかから、A面として発表されたシングル盤のレコード・ジャケット、およびタイトル曲となったCDが掲載されている。
その数は約1300点、全体の半分以上のページを使った分量がある。

そこには発売日やレコード番号などのほか、オリコン・チャートにおける最高位やタイアップ情報のほか、おざなりにされがちなB面(CDはカップリング曲)についても、正確なデータが付記されている。

発表順に並べられたそれらの画像と文字を1曲ずつたどっていくと、ひとりの表現者が自らの存在をかけて挑んだ超人的な仕事を成り立たせていた情熱が、冷たいデータの下から立ち上ってくるようにも思えた。

阿久悠が放送作家という仕事を通して、必要に迫られて”うたづくり”を始めたのは1960年代後半だった。
そうしたいわばよちよち歩きの試走期間は、まだ作詞家になる前の段階における手さぐり感が見えている。


作詞家・阿久悠の軌跡


そして1970年代に入って大ヒット曲が出始めると、依頼された仕事は基本的にすべて引き受けていたという、奮い立つような意欲が伝わってくる。

あらゆるジャンルの歌を自分の手で刷新してみたいという野心を秘めて、まさに全精力を傾けてヒット曲づくりに驀進して、ついにはカリスマにまでなっていく1970年代の後半は圧巻だった。

とはいえデータを深く読み進めていくと、昭和における最大のヒットメーカーといわれた阿久悠でさえも、実はその大半がヒットしていなかったという事実にも気付かされる。

作詞家・阿久悠の軌跡

ひとつの歌が生まれて世に出るまでには、それぞれの楽曲ごとにさまざまなドラマがあったに違いない。
そこではたくさんの人の夢が描かれていただろうし、多かれ少なかれ野望が込められもいただろう。

だが、それらの多くは実現することなく、時間とともに忘れられた夢になってしまったのだ。
しかし時流に乗ってヒットしたことによって多くの人に愛された楽曲ばかりでなく、発表当時はさほどヒットしなくても歌い継がれていった「時代おくれ」のような作品も生まれた。

歌に生命力を与えてくれるのは、それを選んでくれた聴き手である。
彼らが愛聴したり、愛唱したりしてくれるから、受け継がれて行く機会も増える。

この「作詞家・阿久悠の軌跡 」のなかから、新たな歌が発見されることに期待したい気持ちが湧いてくる。

なお監修した濱口英樹氏は「自分が欲しい本を作りました!」と述べていたが、ソングライティングのコンビを組んでいた作曲家の大野克夫、「スター誕生!」から発掘されて秘蔵っ子として育った桜田淳子、2人へのインタビューもまた、実に貴重なものだった。



『作詞家・阿久悠の軌跡 没後10年・生誕80年 完全保存版』(単行本)
リットーミュージック


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