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片岡義男の小説集『ロンサム・カウボーイ』とエルヴィスのlonesome、そして佐藤秀明の写真集『LONESOME COWBOY』

2019.03.20

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写真・佐藤秀明


作家の片岡義男が”lonesome” とは何かについて、英語で教えられたのは子供の頃のことだったと、最新のエッセイで述べている。

そこにいるのは自分だけで他に人のいない状態を寂しいと言うなら、それはlonesomeだよと、英語で説明されたのは僕が六歳くらいのときだ。この説明を聞いて lonesome はよくわかったが、自分では使うことのない言葉だろうな、という思いもすでにあった。
(片岡義男LONESOME COWBOY・風がそこに吹いている」Coyote No.66 Switch Publishing)


大人になるにしたがって片岡はカントリーの名曲やエルヴィス・プレスリーのヒット曲などによって、”lonesome” を理解していった。
エルヴィスは1957年に映画の世界に進出して2本目の主演作「さまよう青春」のなかで、挿入歌として「ロンサム・カウボーイ(Lonesome Cowboy)」を歌った。

しかしエルヴィスが歌う”lonesome”が世界的に有名になるのは、2年間の陸軍生活を終えてドイツから帰国した1960年の晩秋からだ。
カントリーの聖地と呼ばれたナッシュビルのミュージシャンたちと行ったレコーディングで、4月にまとめてセッションした楽曲のなかにあった「 今夜は一人かい?(ARE YOU LONESOME TONIGHT?)」が、11月になってシングルで発売されると大ヒットしたのである。



アメリカでは12月から1月にかけて6週連続で全米No.1を記録し、イギリスでも1961年1月26日から4週間トップの座についた。
そして女性歌手やヴォーカル・グループによって、「Yes, I am Lonesome Tonight」といったアンサー・ソングも数多く生まれた。

この歌がそれだけの大ヒットになった要因のひとつは、途中に挿入されたエルヴィスの長い“語り”が、女性ファンにとても効果的だったからと言われていた。
そのせいか、英語が理解できない人が多かった日本では、それほど人気が出ないままに終わっている。

エルヴィスがカントリーの名曲「ジャスト・コール・ミー・ロンサム(Just call me lonesome)」を、ナッシュビル録音でカヴァーしたのは1967年のことだ。
当時のエルヴィスはマネージャーの方針で、映画だけの世界にこもって雲上人のような生活をしていたので、さしもの人気にも陰りが出て先行きが不安視されていた。

しかもエルヴィスハリウッド映画の世界に、自分の居場所がないと悟りつつあった。
日に日に深まる孤独のなかで、ふたたび音楽活動に軸足を移そうと動き始めていく。

そして早くも翌年には、その成果が実を結ぶ。
背水の陣で挑んだテレビの特別番組「カムバックスペシャル」が大成功し、音楽シーンへ完全復帰を果たしたのである。


日系二世のアメリカ人を父として岩国に生まれた片岡は、少年期にハワイに在住して教育を受けてきた。
早稲田大学在学中の1960年代の初頭から、『マンハント』や『ミステリマガジン』などの雑誌でライターとしての活動を開始し、エッセイ、コラム、翻訳などを発表し始めていく。
同時にテディ片岡の名義でも、ジョーク本やナンセンス小説を手掛けている。

評論の分野では1971年に三一書房より『ぼくはプレスリーが大好き』を刊行し、同じ年に出た評伝の『エルビス』を翻訳したこともあって、映画ファンや音楽ファンの間で名前が知られ始めた。

小説を書くようになってからは自分では使うことのないと思っていたという“lonesome” を、1975年に出版した短編小説集「ロンサム・カウボーイ」のタイトルに使用した。

そのようにして世に出た単行本の『ロンサム・カウボーイ』に出会ったのが、ニューヨーク暮らしを切り上げて帰国した写真家の佐藤秀明だ。

「ここに書かれていることがすごくよくわかった。懐かしい話だなあと。自分の見た風景が見えてくる。ネヴァダの方をずっと旅したことがあるんですよ。その時の風景がここにたくさん書かれているじゃないかと」


1967年6月に米国へ渡ってから3年間、佐藤はニューヨークに住んで昼間に街や人を撮影し、夜はアルバイトという生活をしながら写真を学んだ。

日本に帰国してからはサーフィン雑誌を中心に活躍し、波を追いかけて旅をしながら仕事をした。
その一方では北極、アラスカ、アフリカ、チベット、ポリネシアと、世界の辺境で自然と人間と文化を撮影してきた。

『ロンサム・カウボーイ』の版元だった晶文社が、オリジナル・デザインのまま復刊したのは初版から約40年の時を経た2015年だった。



そのときの告知には、こんな惹句が付してあった。

夢みたいなカウボーイなんて、もうどこにもいない。でも、自分ひとりの心と体で新しい伝説をつくりだす男たちはいる。長距離トラックの運転手、巡業歌手、サーカス芸人、ハスラーなど、現代アメリカに生きる〈さびしきカウボーイ〉たちの日々を、この上なく官能的な物語として描きだす連作小説集。


佐藤は自分が撮った写真を整理していたときに写真も気持ちも、片岡の『ロンサム・カウボーイ』にだんだん近づいていくのがわかってきたという。
それで片岡と食事をした時に、「ロンサム・カウボーイをちょうだい」と言った。

「(ロンサム・カウボーイ)の気持ちをね。テーマとして。ぼく自身がロンサム・カウボーイになって撮ろうと思った。
そうしないと写真は撮れないから」


片岡からはすぐに、「いいよ」という返事が返ってきた。



佐藤は2017年の秋にアメリカへ渡って、たったひとりでクルマに乗って移動しながら、かつて通った道路や町をロンサム・カウボーイとなって撮影してきた。
それが1年後の10月になってkr,大判の写真集『LONESOME COWBOY』として刊行された。

自分ひとりの心と体で新しい伝説をつくりだす男たちは、21世紀の日本にもまだしっかり生きていた。





関連書籍

佐藤秀明(著)

LONESOME COWBOY(立読み版)

https://r.binb.jp/epm/e1_90056_28092018115746/

佐藤秀明 写真集『LONESOME COWBOY』特設ページ

https://kataokayoshio.com/lonesome-cowboy-again

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