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アニタ・オデイを偲んで〜白人女性ジャズヴォーカルの最高峰と言われた歌姫の足跡を功績

2019.11.23

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2006年11月23日、“ジャズ界のイゼベル(旧約聖書に登場する王妃)”の異名をとった白人女性ジャズヴォーカルの最高峰アニタ・オデイ(享年87)がロサンゼルスの病院で他界した。
亡くなる数週間前から肺炎の治療のために入院していた彼女は、病院のベッドで睡眠中に心不全を起こして息を取ったという。

彼女はモダンジャズ以降のジャズヴォーカルにおける定番ともいえるスタイルを確立した人物と言われている。 
生前彼女は、自らを歌手ではなく「私はソングスタイリストです」と発言している。
その歌声の特徴といえば、スウィング感溢れるハスキーな声質と、一般的なビブラートをほとんど用いない歌唱法だった。
幼い頃に受けた扁桃腺の手術の際、医師が誤って口蓋垂(のどちんこ)を切断してしまってから、ロングトーンやビブラートをかけられなくなったという。
そんなハンデを逆手にとって編み出した唯一無二のスタイルこそが彼女の最大の武器となったのだ。
ジャズ評論家レナード・フェザーは、アニタの歌唱法を「音符を切れ切れに歌うホーンライクなスタイル。ヒップでハスキーなサウンド。」と評した。
Newsweek誌で彼女が紹介された際には、こんな言葉が記載されていた。

「彼女の声のダイナミックレンジはとても狭い。しかし、柔軟性があって自在にスキャットしたり、スライドさせたりできる。スピード感があってまるで猫が巻舌でミルクを飲み込む様に似ている。」


彼女は幼い頃から歌のレッスンを一度も受けたことがなかったが、むしろそれを誇りにさえ思っていたという。
彼女の歌の原点には、ビリー・ホリデイの存在がある。
大げさなシャウトをすることなく声を楽器的に用いるビリーの歌唱スタイルは、誰からの指導も受けなかった彼女にとって唯一のお手本だった。
黒人と比べて明らかに不足している声量や音域の狭さを、彼女は自身のハンデと共にプラスに変えていく。
ハスキーヴォイスで、スウィング感を重視した都会的でお洒落な歌唱法は、後進のヘレンメリルなどにも受け継がれてゆく。


本名アニタ・ベル・コルトンは、1919年10月18日にイリノイ州シカゴで生まれる。
生後まもなく両親が離婚し、彼女は母親に引き取られ貧しい幼少期を過ごすこととなる。
7歳のとき受けた扁桃腺の手術の際“普通の声”を失ってしまう。
ある日彼女は教会で歌と出会い、歌手への憧れを抱きつつも、14歳の時にはウォーカソン(ウォーキングとマラソンの合成語)という競技に熱中していたという。
その後、プロのウォーカソン競技者として数々の大会に参加し、小遣い稼ぎとして歌を歌ったり、ダンスをしたり、写真を売ったりした。
この頃、自らの姓を「O’Day(オデイ)」に変えている。
O’Dayとは、その頃彼女が一番欲しかったもの(金銭)を意味するスペイン語のスラングである。
高校を休学し、約2年間も母親の元を離れウォーカソンのサーキットで各地を渡り歩いた彼女は、保護司に補導され強制送還され復学させられることとなる。
学校に戻った彼女は、日中は通学、夜はシカゴの酒場で歌うという生活を始める。
1939年、19歳になった彼女はダウンタウンのクラブに雇われ、専属のシンガーとなる。
その歌声は徐々に客の耳を惹きつけ、その評判を聞きつけたジーン・クルーパ(スィングジャズのスターとして活躍した伝説的なドラマー)が、自らの楽団の専属歌手として彼女を雇う。
1941年(当時21歳)、ロイ・エルドリッジと共に歌った「Let Me Off Uptown」などがヒット。


その後、人気歌手としてのキャリアを重ねながらも…当時多くのジャズマン達が陥った麻薬の悪癖によって、彼女も「逮捕」「健康問題」など様々なトラブルを抱えることとなる。
紆余曲折あった20代を経て、30代を迎えた1950年代初頭から、音楽プロデューサーのノーマン・グランツのもと、ビリー・ホリデイも所属していたクレフ・レコ―ドやノーグラン・レコード(契約期間:1951年1956年)、ヴァーヴ・レコード(契約期間:1956年~1964年)等と契約し、彼女は次々とアルバムを発表する。
絶頂期を迎えた彼女のパフォーマンスを世界中に広めたのは、音楽映画の歴史において金字塔となった名作『真夏の夜のジャズ』だった。
1958年7月に行われたニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ映像に彼女(当時38歳)はメインアクトではなく、昼間の部で登場している。
そこで披露された名唱は映画における最高の見せ場となり、彼女の名は世界中で知られることとなる。
同作にはルイ・アームストロング、チャック・ベリー、セロニアス・モンク、ジェリー・マリガン、マヘリア・ジャクソン、エリック・ドルフィー、ダイナ・ワシントンなど、ジャズ界だけでなく当時の音楽界を代表するアーティストたちが数多く出演しており、彼女はそんな大スターたち負けない輝きを発している…

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