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ジョシュ・ホワイトを偲んで〜運命を変えた“1つ”のミートボール

2023.09.07

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1969年9月6日、ニューヨーク州ナッソー郡マンハセットにあるノース・ショア病院でジョシュ・ホワイトが亡くなった。享年55。
心臓弁置換手術の最中に、手術台の上で息を引き取ったという。
晩年、心臓疾患に悩まされていた彼は、この日、3度目の手術を受けていた。
ニューヨークを本拠地にしていた彼は、シンガーソングライター、ギタリスト、俳優、社会活動家として活躍した多才なアーティストだった。
1950年代終盤から60年代初頭にかけてブームとなったフォークリヴァイヴァルで、白人層の心を掴んだ黒人歌手として知られている。
ブルース、ゴスペル、ジャズ、フォーク、プロテストソングと、幅広いジャンルの曲を歌う彼を、エルヴィス・プレスリーやボブ・ディラン、PP&M、キングストン・トリオ、そしてトレイシー・チャップマンと世代を超えた様々なアーティストたちがリスペクトしてきた。


もし俺が死んだら 足にはお洒落な紐靴を履かせてくれないか
黒いコートとカウボーイハットもだ
時計の鎖には金ピカのやつで頼むぜ
そうすれば みんな俺が立派に生きてたと思うだろうから…


1914年、サウス・キャロライナ州グリーンヴィルで生まれた彼は、幼い時から“盲目のブルース歌手”として知られたブラインド・レモン・ジェファーソンやブラインド・ブレイクの身の回りの世話をしながらレパートリとギターの演奏技術を学んだという。
1929年、15歳で単身ニューヨークに出た彼は、“アーバンブルース界最初の巨匠”リロイ・カーや、12弦ギターの名手レッドベリーが率いるバンドのギタリストとなる。
1930年代は、グリニッチ・ビレッジのクラブなどで弾き語りをしながら生計を立てていた。
そんな彼に転機が訪れたのは1944年、(当時30歳)のことだった。
作曲家ルー・シンガーと、永遠の名バラード「Unchained Melody」で知られる作詞家ハイ・ザレットが手掛けた「One Meat Ball」という曲を歌い、ミリオンセラーを記録する。



後にフランク・シナトラやビング・クロスビーなどの大御所ジャズ歌手や、ライ・クーダーがカヴァーすることによって“知る人ぞ知る”名曲として愛され続けることとなった「One Meat Ball」。
ユニークな歌詞を持つこの曲には元歌があるという。
ジョッシュ・ホワイトが「One Meat Ball」をヒットさせた年からさかのぼること約90年…
1855年、アメリカで学生向けの唱歌として「The Lone Fish Ball(魚肉ボール1個)」という曲が出版された。


歌詞には、一つの魚肉ボールをめぐって哀れな男が繰り広げる物語が描かれている。
これらの歌詞の時代背景には、世界恐慌があったという。
まず世界初の世界恐慌と言えば…クリミア戦争が終結した時に穀物価格が急落したことによって起こった1850年代の恐慌である。
そう、まさに“魚肉ボール”の歌の時代と重なっている。
そして、15歳のジョッシュ・ホワイトがギター1本抱えて夢を膨らませ辿り着いた1929年のニューヨーク。
この年の10月24日の午前10時25分、ニューヨークの株式市場にてゼネラルモーターズの株価が80セント下落したこときっかけに大暴落が巻き起こる。
わかっているだけでも株式関係者11名が自殺をし、この日をきっかけにアメリカの株価は下がり続け、やがて景気悪化は世界へと広がっていくこととなった。
こちらもやはり“ミートボール”の時代と重なっている。
メロディーは別物だが、歌詞は大筋“魚肉ボール”のストーリーを踏襲して作られた“ミードボール”の歌。
貧しい時代を生き抜き、歌い続けたジョッシュ・ホワイト。
彼が30歳にしてようやく掴んだ“1つ”の成功こそがミートボールの歌だった。
そこにパンはつかなくとも、彼の運命を変えた“1つ”だったことには違いない。


小柄な男が道を行ったり来たり
町で見つけた小さな食堂
貰ったメニューに隅から隅まで目を通す
なけなしの15セントで何が食べれるか…
ミートボールを1つだけ
ミートボール1つだけ
注文出来るのはミートボールを1つだけ





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【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
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