「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the DAY

沢田研二の海外進出「巴里にひとり」

2022.05.21

Pocket
LINEで送る

1975年(昭和50年)5月5日、沢田研二の13thシングル「巴里にひとり」(ポリドール)が発売された。
同年の国内ヒットソングといえば…

1位「昭和枯れすゝき」/さくらと一郎
2位「シクラメンのかほり」/布施明
3位「想い出まくら」/小坂恭子
4位「時の過ぎゆくままに」/沢田研二
5位「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」/ダウン・タウン・ブギウギ・バンド

山陽新幹線博多まで開通、第二次ベビーブーム、天皇が史上初めてアメリカ合衆国を公式訪問、双子デュオ歌手ザ・ピーナッツが引退、ローソン設立、マルちゃんのきつねうどん(東洋水産)、ペヤングソース焼そば(ペヤング)、「オヨヨ」(桂三枝)、「死刑!」(漫画ガキデカ)が流行した年でもある。


ジュリーはこの曲での海外進出を「日本での宣伝のための活動だった」と述懐している。
つまり“箔付け”のためであって「本気で世界進出を目指したわけではなかった」と言い切っているのだ。
さかのぼること2年…1973年、当時25歳だった彼は6thシングル「危険なふたり」で日本歌謡大賞の大賞を受賞し、タイガースの“ジュリー”からソロ歌手・沢田研二へと転身しつつ“次へのステップ”を強く意識しはじめていた。
翌1974年の1月にはフランスへ渡り、MIDEM(毎年1月カンヌで開催される世界最大規模の国際音楽産業見本市)に参加するのを皮切りに、9月には再びヨーロッパを訪れ、ロンドンのポリドールで12曲、フランスのポリドールにて3曲レコーディングを行う。
そして1975年1月、イギリスにてシングル「The Fugitive(愛の逃亡者)」と同タイトルのアルバムを、フランスにてこの歌「Mon amour, je viens du bout du monde(巴里にひとり)」をリリースし海外デビューを果たす。
当時レコーディングにおいて、本人はフランス語を話せないため「発音に関してかなり苦労した」というエピソードが語られている。


振り返ればこれまでも国内で一定の成功を収めたポップス系歌手が海外進出を試みてきたが…誰一人として異国の地でヒットを飛ばすことはなかった。
ところが“KENJI SAWADA”こと沢田研二の海外進出は、他の歌手とは違うものだった。
フランスで「Mon amour, je viens du bout du monde(巴里にひとり)」に火がつき、ラジオのチャート番組で最高第4位を獲得、レコード会社の発表ではフランス国内のみで20万枚を売り上げる。
これは、日本とフランスの人口を比較すれば充分な成績といえる。
同曲はフランスでのヒットに伴って、スイス、カナダ、オーストリア、ギリシャ、ノルウェー、ベルギー、オランダなどヨーロッパ他各国でリリースされている。
また、国内では作詞家・山上路夫が日本語詞をつけた「巴里にひとり」もオリコンで最高5位、20.3万枚の売り上げを記録した。
フランス語の歌詞では「恋人よ、僕は世界の果てからやって来たよ」と愛を囁き、パリの地で金髪の恋人と出会うラブストーリーが歌われているが、日本語ヴァージョンでは、日本に恋人を残してパリに行くという切ない内容となっている。



この歌が日本でリリースされた1975年、27歳となった彼は国内においてキャリア最大のヒットとなる楽曲と巡り逢う。
70年代、TBSの演出家として名を馳せていた久世光彦は『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』など、人気ドラマの仕掛人であったが、その一方で、歌謡界のヒットメーカーとしてもその才能を発揮していた。
昨今では定番となっているドラマタイアップによるヒット曲の先駆けだったのだ。
そんな久世が手がけたTBSドラマ『悪魔のようなあいつ』のテーマ曲として沢田研二が歌ったのが「時の過ぎゆくままに」である。


またこの年から、彼は公私共に“変化の時期”を迎える。
1975年6月4日、7年間の交際を経てザ・ピーナッツの伊藤エミ(当時34歳)と結婚。同年7月20日、比叡山延暦寺で結婚式を行った。
同日、沢田の比叡山フリーコンサートにおいて夫婦揃ってステージに上がり、ファンに対して結婚報告を行う。
彼はそのコンサートでブルーのラメ入りのアイシャドウをしてファンの前に現れる。
お茶の間に流れるテレビ番組では控えていた奇抜なヴィジュアルも、この時期から徐々にエスカレートさせていく。
1977年に一世を風靡した「勝手にしやがれ」ではパナマ帽を客席に飛ばすというパフォーマンスを、「サムライ」ではナチスを彷彿とさせる衣装に刺青、「ダーリング」では水兵のセーラー衣装、「LOVE (抱きしめたい)」ではスタジオに雨を降らせ血で染まった包帯を手に巻いた。
さらに「カサブランカ・ダンディ」ではウイスキーを口にふくんで霧のように吹き、「OH! ギャル」では女優マレーネ・ディートリヒを真似たメイクで登場。
そして「TOKIO」では250万円の電飾衣装にパラシュートを背負い、「恋のバッド・チューニング」では青や金色のカラーコンタクトを装着するパフォーマンスを披露し、日本中に“ジュリー旋風”を巻き起こしてゆく…


【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki




Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the DAY]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ