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ジミ・ヘンドリックスを偲んで〜Purple Haze(紫のけむり)の謎めいた誕生秘話

2019.09.18

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1970年9月18日、ジミ・ヘンドリックスがロンドンのホテルに滞在中に薬物の過剰摂取により他界した。
死因は睡眠中の嘔吐による窒息で、寝る前に飲んだ大量のワインと睡眠薬の過剰摂取が引き金となったと言われている。
ジミの死については医療ミス、自殺、他殺など様々な説が囁かれているが、今となっては真相を知る由もない。
その死因がなんにせよ、当時彼がドラッグによって身も心もボロボロに破壊されていたことは明白だ。


彼の代表曲と言えば、やはりこの「Purple Haze(紫のけむり)」だろう。
1966年に作られて1967年に録音されたこの曲は、彼の2枚目のシングルとしてイギリスとアメリカの両国で発売された。

「これは海の中を歩いている夢について書いたものだよ。」


“Purple Haze(紫のけむり)”とは、60年代後半に紫色のカプセルに入って販売されていたLSDを指す隠語である。
では、この言葉はどこから来たのだろう?
実は“Purple Haze”というフレーズ自体は、ヴィクトリア朝時代を代表するイギリスの小説家チャールズ・ディケンズの代表作『大いなる遺産』(1861年頃の出版)の54章に部分に登場することが確認されている。

There was the red sun, on the low level of the shore, in a purple haze, fast deepening into black…

この楽曲は1966年12月のボクシング・デー(クリスマス後の最初の平日)に、出演していたクラブの楽屋で書かれたと言われている。
ジミがバックステージで何気なく弾いていたリフを聴いたマネージャーのチャス・チャンドラーが「そのリフに歌詞をつけたらどうか?」と提案したことがきっかけだったという。

「歌詞はもともと1000語くらいあった大作だったのに、録音するにあったてチャスが削ろうと言い出したんだ。あんなに削っちまったら、もはや俺のイメージしていたものとは違う作品だよ。腹が立ってしょうがない!」


チャスは自分が推敲(カット)したことを強く否定しているが、特定の曲名は挙げない形で、当時二人の間で歌詞について様々なやり取りを行なっていた発言を残している。

「あの頃は彼が曲の歌詞を思いつくと、僕がアドバイスをしていた。彼が書く歌詞はいつも長くて、曲にすると7分くらいになってしまう。だから二人で話し合いながらシング向けに3〜4分で収まる形にしていたんだ。」


紫の煙が頭の中でモクモクと…
近頃、なんか変な感じなんだ
おかしな事をするんだけど、何故だろう?
空とキスする間…ちょっと失礼


60年代のサイケデリックソングの原形と言われているこの曲だが、当時(もしも)彼自身が「ドラッグを歌った曲だ!」と公に認めてしまったら、間違いなく仕事的に自分の首を締めることになっただろう。
つまり、放送禁止やコンサートのキャンセルなどに繋がってしまうのだ。
彼はこの曲が書かれてからの約半年の間(つまり1967年6月にモンタレー・ポップ・フェスティバルに出演するまで)ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズや、アニマルズのエリック・バードンといった有名な薬物常習犯と、どこに行くにも一緒だったという。
彼はNME(ニュー・ミュージカル・エクスプレス)の取材に対して、こんな言葉を残している。

「俺はよく夢を見るんで、それを歌にして書き留めておくんだ。Purple Hazeも、その中から生まれたものさ。この歌のことを聞かれる度に、俺はいつも違うことを答えているよ。だって、どうしてこんな歌を書いたのか?俺にだってわからないんだから。」


紫の煙が立ち込めている…
俺は上がっているのか?下がっているのか?わからない
幸せなのか?落ち込んでいるのか?
なんだか知らないけど、あの娘に呪いをかけられちまった
助けてよ…助けてよ…


彼は歌の中に実生活の経験を織り込むだけではなく、子供の頃から好きだったSFや神話の本を読んでイメージを膨らませていたという。
その中でも特に彼の想像力を掻き立てたのが、インディアンの信仰に魅せられた白人作家フランク・ウォーターズの『ポピ(宇宙からの聖書)』だった。
その本には、アメリカ最古の先住民とされるホピ・インディアンの伝える地球史や宇宙的生命観が紹介されており、全人類が忘れかけている生命の道しるべが記されている。

「幼い頃の俺は、現実の世界から逃避する癖があってただただベッドに寝そべりながら疎外感を感じていたよ。いつの間にか自分の体が遊離して、自分自身を見下ろしているんだ。俺はいつも別の次元を浮遊しながら得体の知れないものを探していたような気がする。」


彼は本格的に音楽キャリアをスタートさせてからは、四六時中、曲や歌詞のアイディアをあらゆるものに書き留めていたという。
レストランではナプキンに、タバコを吸う際にはマッチ箱の裏に、モーテルでは電話の隣に置いてあるメモ用紙に…
それらの言葉の切れ端を寄せ集めるようにして曲を書き上げていたのだ。
彼は死の数週間前、デンマークのオーフスで行なわれた公演の直後、取材記者に対して(まるで死を予感しているかのような)奇妙な発言を残している。

「俺は昨日か明日に死ぬだろう。人は皆こうやって死んでゆくんだ。肌の色がどうであれ、人には皆生い立ちというものがある。コカインでは快感が得られない。宗教という言葉を捨てなきゃダメだ。人間には皆、内なる場所に神がいる。オーディエンスが見えないから、俺は夜のライブが大嫌いなんだ。LSDはありのままをさらけ出させるクスリだ。俺はアレクサンダー大王やナポレオン皇帝と同じ、一人の人間に過ぎない。」


「Purple Haze(紫のけむり)」は、ロック史上もっとも有名な2音から成るリフから始まる。
そのリフの響きは、スペイン宗教裁判で「悪魔を呼び起こす音階」として弾劾され、宗教音楽作曲家の間では使用禁止になっていたという。
LSD(幻覚剤)、アメリカ最古の先住民の宇宙的生命観、そして悪魔の音階…ジミ・ヘンドリックスが生み落としたこの名曲は、曲の誕生から50年以上が経った今も、怪しくも強烈な輝きを放ち続けている。

紫の煙が見えている…
昼か夜かわからない
おかげでブッ飛んじまったぜ!
ここは明日か?それとも、たかが時間の果てか?





<引用元・参考文献『ジミ・ヘンドリックス エレクトリック・ジプシー〈上〉』ハリー・シャピロ(著)シーザー・グレビーク(著)岡山徹(翻訳)/大栄出版>

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