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TAP the ERA 1989-2019

5月の別れ〜陽水の唄に耳を傾けながら“詩の起源”を辿る

2018.07.29

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風の言葉に諭されながら
別れゆくふたりが 5月を歩く
木々の若葉は強がりだから
風の行く流れに 逆らうばかり



井上陽水(当時44歳)が1993年(平成5年)の3月に発表した楽曲である。
その年の春〜夏にお茶の間で流れていたキリンラガービールのCMソングとして憶えている人もいるだろう。
誰もが心躍らす5月という鮮やかな季節に“別れ”を歌う。
青空であるがゆえに、逆に悲しさが増幅される。
月や星が見える夜の情景を巧みに取り込んで心理を忍び込ませる。
実に情緒的な詩世界だ。
人間の都合とは関係なしに移り変わっていく自然の風景や時間の流れ。
どんなことがあっても、朝が来て夜が来て季節はめぐる。
何とも喩えようのない感傷的な気持ちにさせられる詩だ。
まさに「曲」を聴いているのではなく「詩」を聴いている。
そんな実感が伴う作品である。


──そもそも「詩」とは一体何なのか?
人類はいつから「詩」を詠み「詩作」を楽しむようになったのか?
一説では「言葉」の誕生と共に生まれていたとも言われている。
それは紀元前にさかのぼる…。
「言葉」や「文字」がいつからあったのか?過去の学者や研究者たちが提唱した学術的な“言葉のルーツ”は調べれば調べるほど様々な説が複雑に入り組んでおり、現在でもはっきりとは断定はされていない。
まだ言葉や文字がなかったと推測されている時代にクロマニヨン人が描いたものと考えられている“ラスコー洞窟の壁画”をご存知だろうか?
もしかするとフランス西南部で発見されたその古い壁画にも「詩」に似たようなものが秘められていたのかもしれない。

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文字が生まれるとすぐに「詩」は書かれるようになったという。
その多くは叙事詩、あるいは宗教詩だった。
また「詩」は、芸術の一形式としての文字の読み書きよりも先に存在したという説もある。
古代インドの宗教文書『ヴェーダ』(紀元前1700-1200年)や、古代ペルシャでおこったゾロアスター教の開祖ザラスシュトラによる聖典『ガーサー』(紀元前1200-900年)、そして古代ギリシアの長編叙事詩『オデュッセイア』(紀元前800-675年)に至る古代の作品の多くは、前史時代や古代の社会において記憶と口頭による伝達を補助するために「詩」の形式で綴られたものが多いと言われている。
それらは文字を持つ文明の大半において“最初期の記録”の中に出現しており、今までに発掘された多くの石碑などから「詩」の断片が発見されている。
現存する“最古の詩”は、紀元前三千年紀のシュメール(メソポタミア=現イラク・クウェート)の『ギルガメシュ叙事詩』と言われており、粘土板や後にはパピルス(カヤツリグサ科の植物から作られる文字の筆記媒体)にクサビ形文字で書かれていたものが発掘されている。

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すべてのものを国の果て(源)まで見たという人。
すべてを味わい、すべてを知ったという人。
ギルガメシュ、国の源、その基礎を見たという人。
智恵をもって、すべてを知った人。
秘密を彼は見、隠されたものを彼は得た。
洪水の前のことはその知らせをもたらした。
彼は遥かに旅し、疲れ果てて帰り着いた。
彼は碑石に骨折りのすべてを刻み込んだ。

<『ギルガメシュ叙事詩』矢島文夫訳(1997年・ちくま学芸文庫)より>

悠久の時の流れの中で、我々人類は「詩」を詠み、身近なものとして親しんできた。
詩人たちが紡いできた「詩」は、愛を語り、季節を映し、時には世相を斬り、時代の姿を暴く。
それらの詩作は長い時間(とき)の旅を経て、国境・人種・宗教の壁を超えてきた。
文明が発達した今も、真実を語るのは新聞やニュース番組ではなく「詩」なのかもしれない…






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