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内田裕也語録その3~「男としていちばん輝いてる10年間は人のために尽くしました」

2024.03.15

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内田裕也が1976年に出した初の単行本「俺はロッキンローラー」には、子どもの頃に思っていた「カッコイイニイチャン」になりたいという、素朴な憧れが語られている。

「見てるだけで、えれェカッコイイとかオモシロイなアッってのが、Rockなんだと思う」




大阪の堺市で裕福な家庭に育った子どもの頃、ユーヤさんの環境が大きく変わったのは、家の経済状態が次第に悪化してからだった。
小学生のときに住んでいた豪華な邸宅から、小さな2階建建ての住宅に移ったものの、まもなく長屋住まいになった。

それにともなって引っ越しと転校が続いて、だんだん貧乏になっていく過程で、ユーヤさんは中学に入って反抗期をむかえている。

そこでストレス解消とか、フラストレーションの発散が、そのままロックンロールの起爆剤になっていく。

そのころだね、音楽に目覚めたのは。河内長野市のドブ板のある家で、ロックンロールを聴いてから、なにかッていうと、ホウキもってきちゃア、やってたね、ギターのつもりで。
テレビなんてないころだから、本物は、もちろん見たことはないんだけどさア。踏み台の上に乗っかっちゃ、ホウキをギターにして、やってたね。なぜか、ロックンロール聴くと、落ち着いたんだよねエ。


ユーヤさんはその後、高校を中退して、大阪のジャズ喫茶で唄ったり、司会をこなしたりして認められる。
だが高校をやめた後も、ロックをやるためにとの思いから、小学生並みでいいので英語は一生懸命に覚えることを忘れなかった。

自分が生きているという生命感、躍動感、存在感、世界に出たいという冒険心、それらはロックでしか考えられないからであった。  

しかし華やかなロカビリーブームからエレキブームの時代に東京に出てきて、レコードを出してデビューを果たしたものの、まったくといっていいくらい売れなかった。



そうした不遇の時期を経ることで、歌手としての限界を自覚したのかもしれない。

ユーヤさんは1964年に尾藤イサオとのツイン・ボーカルで、バックにはジャッキー吉川とブルーコメッツ、寺内タケシが率いるブルージーンズを従えて、アルバム『ロック・サーフィン・ホット・ロッド』を発表した。

1965年の雑誌「ミュージックライフ」のインタビューで、ボン青木の少しイジワルな質問にも、ユーヤさんは怒ったりせず、正直に本心を話していた。

青木:この頃の歌い手さんの中には、ハーモニーとか、メロディーというものが欠けている人が多いと思うんだが……?
内田:そうですね。確かに僕なんかもう自分で言うのもおかしいんですが、リズム感というものはあると思うんです。でもハーモニーとかメロディーとなると、むずかしいですね。


ユーヤさんはそのメンバーで、1966年6月のビートルズの日本公演で前座を務めたが、その後はアーティストを発掘して育てるプロデューサーの仕事に軸足を移していった。
きっかけは大阪のジャズ喫茶で、沢田研二がヴォーカルのファニーズを発見したことだったという。

そこからは見た目でなく、ロックを生き方として、自分のものにしていく道を選んだのである。
それから10年が過ぎて世に出た「俺はロッキンローラー」に、自分を飾らない素直な文章が出てくる。

俺の場合、邸宅からいきなり長屋住まいになったとき、ガキながらも、俺はなにかやってやろうと思ったんだと、いまになって思う。
そしてRockerになれたから、今生きていることを感じている!
自分自身を表現できる唯一のもの、それがロックだと俺は信じている。


それからさらに35年の歳月が過ぎて、2011年に行われたテリー伊藤との対談のなかで、ユーヤさんは「僕はヒット曲はないですけど、29歳から39歳までの10年間、タイガースも含めて、みんなを世に出す助産師をやった」と、裏方としての仕事を振り返っていた。

そして最高の発言を残している。

「男としていちばん輝いてる10年間は人のために尽くしました」




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<参考文献>
・内田裕也著「俺はロッキンローラー」(廣済堂文庫)
・黒沢進・監修「ルーツ・オブ・ジャパニーズ・ポップス1955-1970 : ロカビリーからグループサウンズまで」(シンコー・ミュージック)

なお、最後の発言は「‪テリー伊藤 対談 内田裕也(4)」から引用させていただきました。・アサ芸プラス https://www.asagei.com/excerpt/1534 #アサ芸プラス

内田裕也語録その1
内田裕也語録その2


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