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ファンファーレ・チォカリーア〜人口400人の村から世界に飛び出したジプシー音楽

2014.10.02

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ルーマニア北西部の奥地に、ブラス吹きがたくさん住んでいる村がある。

そんな噂を耳にしたドイツ人のヘンリー・アルンストは、わずか400人が住んでいるゼチェ・プラジーニ村に辿り着き、農業の傍らにブラスを吹き続けてきた男達の音楽に出会った。

地図にも載っていなければ、線路は通っていても駅がない、そんな小さな村に先祖代々伝わってきたジプシー・ブラスは、もっぱら地元の冠婚葬祭などで演奏されていた。

ヘンリーは男たちの演奏する音楽の持つ、土臭くて原初的なエネルギーと見事なテクニックに魅了され、彼らを世に出すために奔走して活躍の場を広げる手助けを始めた。
そして1996年には選抜されたメンバーでバンドを結成、「ファンファーレ・チォカリーア」と名付けると、ドイツやフランスでのツアーをマネジメントするようになった。

やがてツアーでの成功を皮切りに、ファンファーレ・チォカリーアの人気は徐々に高まり、1998年にアルバム「ラジオ・パシュカニ」でデビュー、欧米ではジプシー・ブラスと呼ばれて受け入れられた。

ヘンリーとの出会いから初めての欧州~日本ツアーを追ったドキュメンタリー映画『炎のジプシー・ブラス 地図にない村から』が制作されたことで、さらに彼らの存在が世界中へと知られるようになった。


太鼓とチューバやバリトンがテンポのリズムを打ち出すと、すぐさまそこにクラリネットとサックス、トランペットがメロディーを奏でてハーモニーを乗せていく。
曲が変わるにつれて曲のスピード(BPM)がどんどん上がり、興奮が高まっていくにつれて、アンサンブルは乱れることなくパワフルになってクライマックスへとなだれ込んでいく。

伝統的な楽曲に混じって「キャラバン」「コーヒー・ルンバ」「007 ジェームス・ボンドのテーマ」などのスタンダード曲や、ステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」などロックまでレパートリー取り入れつつも、どんな曲でも自然に身体が揺れて踊りたくさせるのは、愉快で陽気な村のパーティー音から発展したエンターテイメントだからだろう。

とにかく会場にいる観客を一瞬たりとも飽きさせずに、自分たちの演奏に眼と耳を釘付けにして楽しませる、愚直なまでのパフォーマンスに徹するのだ。

世界中でライブバンドとしては揺るがない人気を得た彼らが、音楽面で新たな試みを行なったのは今年発表されたアルバム、ファンファーレ・チォカリーア&エイドリアン・ラソ名義の『悪魔の物語』だ。

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プロデューサーを務めたヘンリーはバンドの成功に安住せず、より高い地点を目指してアルバム制作に取り組んだ理由を語る。

デビュー当初は、伝統的なジプシーの音楽をやって来たバンドとして発見され、欧米や日本などにジプシー・ブラスと紹介されたことで、あっという間にある程度の成功をおさめることが出来た。
しかし、限られた世界においてはリスペクトを得られたんだが、それは一方では牢獄のようなものでもあった。
ぼくらはミュージシャンなのだから、みんなから期待されているパーティー音楽だけではなく、野心を持って新たな挑戦を試みることをしたいと思っていたし、クリエイティブであり続けたかったんだ。


カナダ人ギタリストのエイドリアン・ラソと組んで作られた音楽は、これまでのファンファーレ・チォカリーアとは一味も二味も違う、新たな地平を示す内容となった。

世界最高と呼ばれるバルカン・ブラス・バンドと、ジャンゴ・ラインハルト直系のギターという組み合わせが功を奏して、東ヨーロッパの異なる伝統が上手くミックスされて深みも広がりもある世界が展開している。


<ファンファーレ・チョカリーア来日情報>
10/12~10/19まで東京、兵庫、神奈川ほかで公演
詳細はこちら(http://plankton.co.jp/fanfare/


ファンファーレ・チョカリーア&エイドリアン・ラッソ『悪魔の物語』
PLANKTON

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