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吉田拓郎が”音楽の師匠”と呼ぶ加藤和彦との出会いから生まれたヒット曲「結婚しようよ」

2014.11.28

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吉田拓郎がただ一人”音楽の師匠”と呼ぶ加藤和彦と出会ったのは、予想していなかった意外な訪問からだという。

1971年に”フォークのプリンス”として若者たちに人気が出ていた拓郎は、自分がDJを務めていたラジオでイギリスのフォーク・シンガーのドノバンに触れて、「ドノヴァンの弾いてるギターの音って、本当にいい音してるよね」と発言した。

すると1週間ほどして加藤が訪ねてきて、ドノヴァンの弾いてるのとまったく同じ、1967年製のGibsonのJ-45を拓郎に譲ってくれたのである。

二人はそれまでもコンサートでは同じ舞台に立つこともあったが、特に親しい関係にあったわけではない。それなのに大事にしていたであろうギターを持って現れたことに対して、拓郎は「その時になんて気持ちの優しい男なんだろうと思った」と語っている。
ちなみにザ・フォーク・クルセダーズでデビューした加藤は、キャリア的には拓郎の先輩になるが学年は一緒だった。

音楽業界の人間なら誰での知っている加藤の愛称トノバンは、風貌や声の質がドノヴァンとよく似ていたからとも言われるが、それだけではない。

みんなが殿様の殿をとってトノって呼んでたのと、僕ドノヴァンが好きだったんで、その濁点がとれてトノバンになったというか。その時代の人しか言わないけどね。だからブライアン・フェリーまで言いますよ(笑)。


6e4680b4 加藤和彦 

二人が初めて一緒に仕事をしたのは1972年の秋、アルバム『人間なんて』のレコーディングだった。
拓郎がブレイクするきっかけとなったエポックメイキングな曲、「結婚しようよ」は加藤がプロデューサーを務めて、アレンジを含めるスタジオ・ワークのすべてを取り仕切った。

そのころまでのレコーディングというものは、事前にアレンジャーが譜面を仕上げてスタジオ・ミュージシャンにパートごとの譜面を渡し、それを譜面通りに演奏して録音すればそれで終わりだった。
ところが加藤は必要となるであろうと想定したメンバー、まだ名もない松任谷正隆やドラマーの林立夫、ベーシストの小原礼といった若手のミュージシャンを集めて、みんなで一緒にバンド・アレンジの方法で試しながらレコーディングを進めていった。

1968年の秋に1年間の活動予定だったザ・フォーク・クルセダーズを解散した後、2年連続でアメリカをまわってきた加藤はロック・シーンの新しい息吹に触れ、サイケデリックからカントリー・ロックまでさまざまな音楽を体験して帰国していた。

ボトルネックギターをフィーチャーしたアコースティック・サウンドには、松任谷が弾くバンジョーとハーモニウムが加えられ、軽やかで深みのあるサウンドが少しづつ形になっていく。
全編を通して同じビートで刻まれているパーカッションは、加藤がイスを叩いて鳴らしたものだった。

このレコーディングを実際に体験した拓郎は、「目からウロコでした。パッ、と目の前の音楽観が広がった」と語っている。

スタジオにいって加藤和彦の音作りを目の当たりにして、レコーディングのノウハウやハウトゥーをぼくは生まれて初めて知った。ぼくはそれまでレコーディングのことをよく知らなかったんです。加藤がスタジオで音を作って見せてくれるわけ。椅子を叩いたり、いろんなことをやりながらね。


こうしてギターをスリーフィンガーで弾いただけだった原曲が、カントリー・ロック調の軽快で心地よいサウンドに変貌したのである。

結婚しようよ 吉田拓郎

加藤のプロデュースが功を奏した「結婚しようよ」は1972年1月に、それまでのエレックレコードではなく、メジャーのCBSソニーからリリースされて大ヒットしただけでなく、時代の新しいページをめくることになった。

素晴らしいプロデューサーとの出会いを機に、吉田拓郎がシンガーとしてもソングライターとしても、大きく成長していったのは当然のことだった。

長髪でジーンズ、ギター抱えて歌うスタイルは、若者の定番スタイルとして日本中に広まり、女性週刊誌や芸能誌が拓郎をスター扱いし始めた。
それまでコンサート会場に足を運ぶのは男性がほとんどだったのが、一気に若い女性たちが客席を占拠して楽屋の出待ちをするようにもなった。
カウンターカルチャーの側から反体制的なメッセージを放っていた日本のフォークは、この歌をきっかけに若者向けの新たなポップ・ミュージックとして広がっていくのだった。




(注)吉田拓郎の言葉は、2014年06月07日に放送されたBS日テレの音楽番組『地球劇場~100年後の君に聴かせたい歌~』で、ホストの谷村新司と語り合った中での発言で、文責は筆者にあります。また加藤和彦の発言は、加藤和彦/ 前田祥丈(著)牧村憲一(監修)「エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る」 (SPACE SHOWER BOOks) からの引用です。

『エゴ ~ 加藤和彦、加藤和彦を語る』
(スペースシャワーネットワーク )

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