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追悼・江藤勲 日本で最強のベーシストが残したスタンダード・ソングの数々

2023.04.24

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1960年代から70年代にかけて訪れた歌謡曲の黄金時代にあって、スタジオ・ミュージシャンとして活躍したベーシスト、江藤勲が4月25日に虚血性心不全で亡くなった。
残念ながら報じられたニュースは、どれもそっけないものだった。

60年代に活躍したグループサウンズで、「ブルー・シャトウ」などのヒット曲で知られる「ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」の初期メンバー。ベースを担当していた。(朝日新聞「おくやみ欄」)


だがベーシストとして生涯現役を貫き、渡辺貞夫、宮間利之とニュー・ハード、橋幸夫、加山雄三、布施明、堺正章、井上順、荒木一郎、美空ひばり、ザ・ピーナッツ、伊東ゆかり、奥村チヨ、黛ジュン、和田アキ子、小川知子、ヒデとロザンナ、フォーリーブス、高田渡、小室等、小椋佳、ビリー・バンバン、かぐや姫、ガロ、カルメン・マキ、森山良子、赤い鳥、りりィ、タケカワユキヒデ、タモリ、アニメ『ルパン三世』ジャズ、歌謡曲、フォーク、ロック、ニューミュージック、アニメ、CMまで、数えきれない膨大なレコーディングに参加した偉業は、少なくとも音楽ファンからはもっと讃えられていいのではないか。

1960年代後半からの数年間に生まれたヒット曲で、ベースの音やフレーズ、テクニックが目立って聴こえるレコードは、そのほとんどを江藤勲が弾いていたいう伝説も生まれたほどだった。

事実、ポップス系のヒットメーカーだった筒美京平を筆頭に、川口真や森岡賢一郎など、新進気鋭の作曲家や編曲家は、レコーディングに江藤勲のベースを求めた。

1960年代から70年代前半までは、レコードジャケットに歌手と作詞家と作曲家の名前はあったが、音楽を作ったプロデューサーやミュージシャンがクレジットされることは、ほぼ皆無だった。
そのためにどれだけ素晴らしいプレイやサウンドでヒットに貢献しても、裏方は名前が表に出なかったのだ。

・「悲しき願い」 (65年)
 アニマルズのカヴァーによる、尾藤イサオのヒット曲。
 1

・ 「こまっちゃうナ」 (66年)
 15歳だった山本リンダのデビュー曲。

・ 「グッド・ナイト・ベイビー」 (68年) 
 全米ビルボートR&Bチャート48位にもランクインした、キング・トーンズのデビュー曲。

・「伊勢佐木町ブルース」 (68年)
 青江三奈のセカンド・シングルで、日本レコード大賞歌唱賞を受賞した大ヒット曲。
4

・「ブルー・ライト・ヨコハマ」 (68年)
 筒美京平が初めてヒットチャート1位になった、いしだあゆみの代表曲。 
5

・「スワンの涙」 (68年) 
 人気絶頂期だったGS、オックスのヒット曲。

・「ドリフのズンドコ節」 (69年) 
 通常はザ・ドリフターズのいかりや長介がべースだが、レコーディングでは江藤勲が担当。

・「長崎は今日も雨だった」 (69年) 
 内山田洋とクール・ファイブのデビュー・ヒット。
8

・「雨に濡れた慕情」 (69年) 
 下積み時代が長かったちあきなおみのデビュー曲。
9

・「人形の家」
 歌謡曲でカムバックした弘田三枝子のヒット曲。
10

・「サザエさん」 (69年)
 現在でもテレビで放送され続けている日本最長年数放映アニメ主題歌。

・「手紙」 (70年)  
なかにし礼作詞、川口真作曲による、由紀さおりのシングル・ヒット。
12

戦後のジャズ・ブームから発展した日本の音楽シーンは1960年代に入って活況を呈するようになったが、江藤勲を筆頭に名うてのミュージシャンたちがそれを陰で支えていた。
演奏しているスタジオ・ミュージシャンの名前が出なかったことについて、江藤勲はこう語っていた。

そうした境遇を嘆き、「いつかはセンターで演奏したい!」と願う仲間は数多かった。
しかし、私は違った。
数多くのレコーディングに立会い、スタジオ・ミュージシャンとして、さまざまな楽曲に関わるほどに、〝サイドマン〟の奥の深さを知るようになったからだ。
出合った作曲家の方々を数えあげればキリがなくなるが、ほんとうに素晴らしい人々と、日々、仕事をしていたのだ、と改めて思う。
この他にも、中村八大氏、浜口庫之助氏、いずみたく氏といった、錚々たる作曲家がおり、当時の日本の歌謡界が、いかに洗練され、高度な音楽を目指していたのかがわかる。(注)


70歳を越えて現役のミュージシャンのまま前日までプレイし、人生を全うした偉大なる裏方に「お疲れさま!」と言って送り出したい。合掌。



(注)江藤勲の音楽夜話/第七夜 http://guitarsalon-paco.jp/?p=760



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