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【スペシャル・インタビュー】ハナレグミ──グレイハウンドバスに乗って見つけた、僕なりのブルース

2015.08.30

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TAP the POPでは、幾度となくコラムで取り上げてきたハナレグミこと永積 崇。1997年にスーパーバタードッグのボーカリストとしてメジャー・デビュー。2002年よりソロ・ユニット=ハナレグミとして始動し、これまでに5枚のオリジナル・アルバムを発表してきた彼が、4年ぶりとなるニュー・アルバム『What are you looking for』をリリースした。今回は、彼の音楽的ルーツの中でも大きな存在となっているブルースからの影響、そしてある楽曲にまつわるちょっと不思議なエピソードにスポットをあてたスペシャル・インタビューをお届けします。

訊き手・構成/宮内 健


カバー・アルバム『だれそかれそ』やSo many tearsとのコラボを経て辿り着いた、待望の新作『What are you looking for』。全13曲からなるアルバムは、永積自身による詞・曲以外にも、YO-KING(真心ブラザーズ)、野田洋次郎(RADWIMPS)、池田貴史(レキシ)、堀込泰行(ex.キリンジ)、大宮エリー、辻村豪文(キセル)といった豪華な面々がさまざまな形で詞・曲を提供した、ハナレグミにとって新機軸となる作品だ。

アルバム全編から浮かび上がるキーワードは、旅。〈急ぐな さがすな 勝手に見つかるまで〉という歌詞ではじまるYO-KING作詞・作曲の「祝福」、そして野田洋次郎にソングライティングだけでなくサウンド・プロデュースまでをも一任した「おあいこ」のように、心の奥底を掘り下げていくようなインナートリップ的なアプローチから、大宮エリーが作詞を担当した「旅にでると」や「逃避行」のように直截的に旅をテーマにしたものまで、さまざまな〈旅〉を想起させる歌が並ぶ。

ハナレグミ「おあいこ」 MV

その中でも、スーパーバタードッグ時代の盟友・池田貴史(レキシ)との共作「フリーダムライダー」には、興味深いエピソードがある。

震災後、自身の〈歌〉について逡巡していた永積は、ブルースばかり聴き漁る時期が続いたという。聴いていたのは主にシカゴ・ブルース、そして、さらに古いフォーク・ブルースの音源だった。

「マディ・ウォーターズやジョン・リー・フッカーのような有名な人たちはもちろん、名前も不詳なミュージシャンを集めたコンピなんかもよく聴いてましたね。その当時、黒人のミュージシャンの絵もたくさん描いてて。ブルースマンの写真集なんかを見ながら、なんとも言えない表情を描きたくなってスケッチしてた。スケッチすることで、その場所に入って、その人がいた気配が、よりダイナミックに感じられるような気がしてね。あと、ブルースの書籍も読むのが好きだったんだけど、ある文献を読んでたら『隣の部屋で練習してるブルースマンの声が怖くて眠れない』って記述があってね。たしかにジョン・リー・フッカーでもマディ・ウォーターズでも、聴いててどこか震え上がるような怖さってあるじゃない? そう思うと、日本のシンガーでも、友川かずきさんの歌の突き刺さってくるよう感じとか、やっぱりすごいなって思うしね。自分の中で共鳴する、その部分は一体何なんだろう?って、ますます目が離せなくなったんだよね」

そんな永積は、ある目的を果たすために、たった一人で(まったくのノープランで)アメリカ南部へと旅立つことを思い立った。

「ある時ふいに、ブルースマンにギターを習いたいって思ったんです。そのことを友人でもあるタブラ奏者のU-zhaanに話したら、『崇くんは、日本で習うよりも海外に行って、直接気に入ったブルースマンに習ったほうがいいよ』って言われて。たしかにそれもそうだなって思って、すぐ飛行機のチケットを押さえて、3日後ぐらいに、ギターを抱えて一人でニューオーリンズに飛んだんです。そうしたらね……ニューオーリンズに俺の思っていたブルースマンなんて一人もいなかった(笑)。いたるところで音楽が鳴ってはいるんだけど、みんなスティーヴィー・レイ・ヴォーンみたいな人ばっかりで、僕がイメージしてたようなブルースマンは見当たらなかったんだよね。これはヤバいことになったぞ、と(笑)。俺は観光に来たわけじゃないし、ブルースマンを探さないとって、あわてて次の日にグレイハウンドバスに乗ってメンフィスに向かったんです」

真夜中を走り続けるグレイハウンドバス。暗闇の中に浮かんでは流れゆく景色を車窓から眺めながら、永積は当時読んでいた本のことを思い出していた。

「60年代の黒人による公民権運動に興味があって、たまたまその時期に〈フリーダム・ライド運動〉について書かれた本を読んでいたんです。フリーダム・ライド運動では、人種差別の撤廃を訴える黒人や白人のグループがバスに乗って北部から南部へと下っていくんだけど、僕は南部から北部へと上がっていって。気付くとそのバスが、本に出てくるところを全部通っていってたんだよね。フリーダム・ライダーズは旅立つ前に遺書まで書いて、死んでもいいって思いながらこの景色を眺めていたんだなって思うと、なんかゾクっときてね。その時に、ちょうどイヤホンから流れてきたのが、マディ・ウォーターズの『Folk Singer』ってアルバムに入ってる〈My Home Is In The Delta〉だった」


マディ・ウォーターズ「My Home Is In The Delta」 MV


「夜を感じるような、リバーブがかかった深い声でね。グレイハウンドバスに乗って、南部の夕闇の森を眺めながらその歌を聴いたら泣けてきちゃって……歌って、絶対的に向けてる場所があって響くものだと思ってて。メッセージや言葉もあるけど鳴らす場所や環境、あるいは時間や時代っていうものが、確実に歌の中に入ってると思うんです。バスの中でマディ・ウォーターズを聴きながら、歌うってことの意味を教わってるような気がして、妙に涙が流れてきたんですよね。いつしかマディの歌に込められた時代の気配がバスの中に立ち上ってきて、本に書かれていた話も立体的に見えてきたんです」

本場のブルースマンにギターを習おうとメンフィスまで来たものの、結局ギターの先生には出会えなかったが、飛び乗ったグレイハウンドバスの中で計らずもブルースの本質に触れた──最初に求めていたものとは違えど、旅をしなければ見つけられなかったものであるには違いない。

「結局、その答えは自分の中にあったことだったんだよね。なんで自分が震災後から4年間ブルースしか聴けない時期があったのも、人の衝動が一番確かなものだと、本能的に感じてたのかもしれない。たとえばサン・ハウスとか、昔の映像を見てると、この人は今にも身体の中から魂が出ちゃってバラバラになっちゃうんじゃないか?って思っちゃうぐらいに、人間の衝動を感じるというかね。そういう歌を目の当たりにすると『お前は間違ってない』って言われてるような気もするし、こういう衝動に近付きたい、この熱量を自分の中に入れたい、この影を自分の心に落とし込みたい……そんな風に、自分の中にあるものが突き動かされるような感覚を求めていたんだと思う。もしかしたら、ニューオーリンズやメンフィスで実際にギターを習わなくてよかったのかもしれないし、だからこそ自分なりのブルースに気付くことが出来たんだろうしね。この旅で感じたことは、何らかの形で今回のアルバムに入れたいなと思ったんです」

ニューオーリンズ~メンフィスの旅をモチーフにした「フリーダムライダー」は、どこかスワンプ・ロックの薫りも感じさせる、マイナー調のゆったりとしたバンド・サウンドに、カットアップなどの音響的な処理も施した不思議な音の肌触りが特徴的だ。

「僕がブルースみたいな曲を歌っても、ブルースにはならないし、逆に池ちゃんと一緒に作ったはじけてる曲にこういう言葉を載せるほうが、今の時代を生きる僕が返せる何かになる気がしてね。僕はその時代に生まれた黒人でもないし、アメリカに住んでるわけでもないけど、現代の日本に〈フリーダムライダー〉っていうメッセージをつなげるとしたら、この音なんじゃないかと思った。今いろんなことがザワザワしてるじゃないですか? 歴史の中でたくさんの過ちがあったけれど、自分たちは同じことを繰り返しがちなのかなって思ったりもする。だけど想いを全部詰め込もうとすると、それはそれで歌としてのヌケが悪くなる。だから全部を伝えるというよりは、言葉の端々に断片が入れられたらいいな思って。そういう想いがふとよぎるような歌が作れたら、きっと必要としてる人のところには届くような気がするから」

What are you looking for──永積 崇がアメリカ南部の旅で見つけたものは、借り物でない〈ハナレグミのブルース〉の在処だった。


ハナレグミ『What are you looking for』

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アルバム全曲の試聴、その他の楽曲にまつわるロング・インタビューは
『What are you looking for』特設サイトへ!


ハナレグミ ツアー2015 弾きが旅ばっ旅
9月7日(月)兵庫・神戸 旧グッゲンハイム邸
9月8日(火)京都・金剛能楽堂
9月22日(祝)岩手・岩手県公会堂 21号室
9月24日(木)福島・創空間 富や蔵
9月26日(土)山形・山形県郷土館 文翔館議場ホール
10月10日(土)鳥取・米子 ギャラリア大正蔵
10月12日(祝)島根・松江 イングリッシュガーデン
10月14日(水)岡山・ルネスホール
10月31日・11月1日(土・日)東京・大久保 東京グローブ座
11月3日・4日(火・水)大阪・千日前 味園ユニバース

詳しくは ハナレグミ official website

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