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【スペシャル・インタビュー】KIRINJI──充実の現在を閉じ込めた、一風変わったニュー・アルバム

2015.11.17

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17年に及ぶ〈キリンジ〉としての活動に終止符を打ち、2013年夏、堀込高樹を中心としたバンド編成として再始動した〈KIRINJI〉。シンガー・ソングライターとしても人気のコトリンゴ、柴崎コウや土岐麻子のサポートとしても活躍するギタリストの弓木英梨乃という女性メンバー2名に加え、キリンジ時代よりサウンドを支えてきた手練のミュージシャンたち=田村玄一(ペダルスティール、スティールパン他)、楠均(ドラム、ボーカル)、千ヶ崎学(ベース)の6人によって新たな船出を切ったバンドは、(二回目のファースト・)アルバム『11』で高い評価を集めたのみならず、ツアーやフェスへの参加などライブも精力的に展開してきた。

そうした現在のKIRINJIの充実ぶりを反映するかのようなニュー・アルバム『EXTRA 11』が、11月11日に発表された。「進水式」をはじめ『11』収録の名曲たちが、ライブ音源をベースに大胆なポスト・プロダクションを施されて生まれ変わったという一風変わった作品。そこに込めた想いや現在のKIRINJIの活動について、堀込高樹と田村玄一に話を訊いた。



──2013年夏に現体制での活動がはじまり、2014年8月にアルバム『11』が発表されました。ちなみにこのアルバムは、〈TAP the POPが選んだ 2010年代のベスト・アルバム50〉の1枚として、勝手ながら選出させていただきました。

堀込「ありがとうございます。KIRINJIとしては、やっぱり『11』をリリースしてから、ツアーを回ったことが大きくて。レコーディングの時はまだお互いに間合いを読みながらっていう感じがあったけど、ツアーを通じてどの人がどういうことをやるかっていうこともだんだん見えてくるし、とくにリズム隊(ドラム、ベース、ピアノ)がタイム感をつかんでくるから、演奏もガシッと固まってきますからね。今年に入ってからシングル〈真夏のサーガ〉は出したんですけど、春から夏にかけてフェスにたくさん出演したこともあって、その間にアルバムに向けた曲を書いてリハーサルしてっていうのも難しかった。とはいえ、2年空くのも嫌だったし、何かアルバムぐらいのボリュームのある作品を出したいなと思って。以前、キリンジが解散した時に、ライブ音源を元にスタジオ盤として仕上げるということはやっていたので、今回もそれをやってみようと」

──今回発表されたアルバム『EXTRA 11』は、2015年6月23・24日にビルボードライブ東京で行われたステージのライブ音源をベースに、楽器のオーバーダビングやポスト・プロダクションが施され、『11』収録曲が大胆に生まれ変わったという興味深い作品になりました。

堀込「そもそもビルボードライブ東京でのライブ自体も、(『11』のリリースを受けて開催された)ツアーでやったことをそのまんま同じようにやってもしょうがないから、『11』の曲をアコースティック編成で大幅にアレンジを変えてやってみようと演奏したライブだったんです。そうしてライブ用にアレンジしたものを、そのままスタジオ盤としてに綺麗にするだけでは面白みもない。なので、いったんライブ用のアレンジに変えたものをベースにして、さらに自宅のスタジオへメンバーに来てもらってダビングをはじめて。合間にライブやイベントもあったから、飛び飛びで2ヶ月ぐらいかけて作業してましたね」

堀込1 のコピー
──実際の作業は、どのように進めていったんですか?

堀込「千ヶ崎くん、弓木ちゃん、コトリちゃん、玄さん(田村)と、個々に録音していきました。他のメンバーが演奏したものを聴いてもらって、『これ聴いてどう思います?』『ここに新しい要素を加えるとしたらどうします?』って感じで演奏してもらったんです」

田村「最初にライブに向けたアコースティック・アレンジを作る時はかなり消耗したんですけど、アルバム『EXTRA 11』のレコーディングはそれに比べたら全然楽でしたね。おそらくその後の、高樹くんの編集作業が相当大変だったと思うけど(笑)。だって、僕が高樹くんの家で録音している時は、この仕上がりは想像すらできなかったですからね。素材だけちょっと録音するって時もあったし、それでいいの?って少しずつ半信半疑の部分もあったけど、最後にはなるほど!って膝を打つような仕上がりをみせてくれました」

──一度作品として完成した曲をリアレンジして、新たな魅力を引き出していくというのは、新曲を最初から作りはじめるのとは、まったく感覚が違うんでしょうね。それに、ライブ本番では手が足りなくて省いていったサウンドの要素を、オーバーダビングで加えていくことで楽曲にさらに深い味わいが加味されていくというか

堀込「そうですね。たとえば『EXTRA 11』では、ピアノはライブでの音源がそのまま残ってるんですけど、コトリちゃんにはそこにアコーディオンをのせてもらったり。弓木ちゃんには、エレキギターもバイオリンも新たに弾いてもらって。玄さんの場合は、本番ではペダルスティールで演奏していたところに、スティールパンを加えてもらったり。〈ONNA DARAKE!〉って曲なんて『11』からはキーもテンポも変わって、ほとんど別曲のように仕上がりました」

田村「一部の曲では、歌詞も変わってるしね(笑)。〈ONNA DARAKE!〉の仕上がりも好きですね。あれだけスティールギターを弾きまくることはなかなかないのでね(笑)。結構王道というか、昔のクラシックな感じのスウィングジャズ系のスティールを弾いてみました」

堀込「でも、この曲をアレンジし直したのは、大きな収穫がありましたね。〈fugitive〉もビートも変わったし、リード・ボーカルを取っているコトリちゃんにはアコーディオンを演奏しながら歌ってもらいました。コトリちゃんの歌もツアーを経たこともあるし、楽器が変わった歌の表情も変わるのが面白いですよね。彼女が言ってたんですが、アコーディオン弾きながら歌うと、なんかウキウキしながら歌ってしまうらしくて。だから聴き比べると、ピアノを弾きながら歌ってる時よりも、ちょっと明るい歌になっているのが面白いですよね」

田村1 のコピー 3
堀込「〈ジャメヴ デジャヴ〉も結構エディットを施した曲ですね。ウッドベースももともと指弾きだったのを、弓弾きで演奏してもらったし。弓木ちゃんのギター・ソロは弾き直してもらったんですけど、普通にオケがあってそこにソロを弾くだけではあんまり変化がないから、ここはがっつり弓木さんをフィーチャーしようと。なのでそのパートだけ他のオケを全部カットして、ソロだけが真ん中で目立つようにして。しかも尺も少し伸ばしたんですよね。なので、当初の構成とは大幅に変わっています」

田村「そこ最初に聴いた時、何が起こったのかと思ったもん(笑)」

堀込「ミスか?って思いますよね(笑)。このメンバーで2年間一緒に活動してきて、この人だったらこういうことをやりそうだなっていうのを、だいたいわかるようになったし、そういうのを想定しながらアレンジや構成も考えていきました。それに編集に関しても、メンバーのプレイを聴いて僕が編集のヒントを得るというのではなくて。メンバーが新たにアレンジを加えたものを聴いて、そこからインスピレーションを受けて演奏する。それを聴いた他のメンバーが刺激されて、さらに演奏を加えていくっていう。僕が場を作ってはいるんだけど、お互いに音楽的な交歓をしているのはメンバー同士なんですよね。それは今回の作業で得た、大きな発見でしたね」

──新体制になって2年が経ちましたがKIRINJIというバンド自体はどんな風に育ってきたと思いますか?

堀込「どうだろう? わりとみんな勝手なことをしはじめてきてますけどね(笑)。最初の頃はみなさんにお任せするにしても、こうしてくださいってこちらからお願いすることが多かったけれど、今は自分が知らないところでも、メンバー同士でああしようこうしようって意見を出し合ってくれている。それはいいことだなって思ってて。自分で曲を作ってはいるけど、とくにライブ・アレンジなんかは、思いもよらないものになっていくのが面白いですよね。だんだんと有機的な感じになってきているなって思う」

田村「高樹くんは、だんだんと大きなところを見るような役割になってきたと思う。もちろん細かいところも見てるけど、細かいところで高樹くんが気がついてようなところは、高樹くんを通さないでもメンバー同士で相談したり、勝手にやってます」

──KIRINJIという船に乗った、キャプテンと乗組員という理想的な形になってきている感じですね。

堀込「そうですね。やっぱりそれって、レコーディング中心に活動しているバンドではそうなりにくくて。フェスなんて出番も短い時間ですけど、何度もライブを積み重ねていくと、不思議と一体感が生まれていくんですね。ライブやるのはやっぱり重要なんだなってあらためて思います。そういう一体感って、やっぱり演奏に如実に出るもので。コーラスなんかでも、音程や音量が合っていても、歌い方が違うとハーモニーってサウンドしないんですけど、そういうのが自然とできてきています」

──今のKIRINJIの特長として、バンドの中にリード・ボーカルを取れる人が何人もいるのも大きいですね。

堀込「メイン・ボーカルが一人だと、そのボーカルを中心としてなんでもものを考える癖がついてしまうけれど、ボーカルが変わるっていうのは本当に大きな変化ですよね。ひとつのバンドの中に、多様な側面があるっていうのがわかりやすく呈示できる。ゲストを呼んでフィーチャリングするのとは違う、バンドの音楽性と密着している感じというかね」

──ボーカリストが複数いることで曲作りに変化はありましたか?

堀込「たぶんそれが出てくるのは、今後でしょうね。『11』を作っていた頃は、わりと手探りでやっていましたけど、次作からは誰が歌うかということに、もっと焦点を合わせた形で曲作りができると思います。それに今回『EXTRA 11』を制作していて発見だったのは、〈ONNA DARAKE!〉なんかは、楠さんのメイン・ボーカル曲だけど、あのサウンドを決定づけているのは玄さんのペダルスティールで。そういったようにボーカルが曲のカラーを決定づけるんじゃなくて、楽器の演奏やサウンドが突出するという方法もある。こういうフィーチャーの仕方もアリなのかっていうのは、今回の発見ではありましたね」

──それにしても今のKIRINJIには、個性的なプレイヤーが揃いましたよね。弓木さんの演奏を最初にステージで拝見した時も、このあどけない雰囲気なのにこれほどにもゴリゴリな渋いギターを弾くのか!と度肝を抜かれました。

田村「弓木ちゃんは、かつてのキリンジ・ファンを萌えさせたからね(笑)」

堀込「それに女性が二人いるっていうのも、それだけでステージが華やかになりますからね」

──新生KIRINJIになってから、高樹さんならではの詞の世界がより濃密になったような印象も受けました。

堀込「意味は明確になってきていると思いますね。言葉の遊びみたいなことはしなくなったし、難解な比喩とかは減ってきていると思うんですよね。それって言葉を弄んでるように感じられて、あまりよくないなと思うようになって。自分の歌詞を見た時に、これ何言ってるのか自分でもわからないっていうような時があるから、これは他人だったら絶対にわからないってだろうなっていうね。それに歌詞ってどんなにわかりやすく書いたつもりでも、受け取る人によってこういう解釈するんだっていうのが発生するもので。だとしたら言葉を精査して、これだったら間違いないだろうっていう言い方で、なおかつ詩的に美しいものを作らないといけないなって、最近思っています」

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──ちなみにKIRINJIのキャプテンとして、乗組員のキャラクターを紹介していくと、どんな風になりますか?

堀込「難しいですね(笑)。楠さんは、キャラクターっていったら忘れん坊なんですけど……そういうことじゃなくてね(笑)。大らかで天然ぽいところはあるんですけど、すごく繊細に場を見計らって合わせることのできる人なんですよね。レコーディングにおいても、ライブにおいても、何回も同じ演奏ができる人っていて。そういうプレイヤーは需要があるし、それはそれで素晴らしいんですけど、楠さんはわりと毎回違うんです。それがいい時もあれば、アレレ?って時もあるんだけど(笑)」

田村「ドラム演奏に関しては気分屋だよね(笑)」

堀込「そうそう。でも、そこで曲が常に新鮮に響く感じもあって。たまにリハでも一回もやったことないことを、本番でいきなりやったりするから(笑)。それだけは止めてくださいって言ってますけど。千ヶ崎くんは、曲を一生懸命理解しようとする気持ちが強いですよね」

田村「チガちゃんは、ゆるやかでのんびりしてるように見えて、神経質な部分もあるよね。実はすごく理系な頭で考えている感じはあるね」

堀込「付き合いも長いんで、こちらが多少細かいことを言っても、それを分析して理解する能力が高い。で、玄さんは、わりと自由気まま。ドラム.ベース、ギター、ピアノの4リズムだと普通のバンド形態になっちゃうけど、そこにペダルスティールとかスティールパンとかバンジョーとか、他のバンドではメンバーにいないような楽器が居てくれることで、それだけでサウンドに特色が出るし、広がりも出てくる。アレンジ上も、とくにライブではカラーを出してくれていますね」

田村「ありがとうございます。俺は高樹くんが思ってる以上に適当な人間だから(笑)」

堀込「コトリちゃんは、ピアノもボーカルもバッチリですよ。僕はKIRINJIとして結成する以前に弓木ちゃんと一緒に仕事したことはあったし、他のメンバーとも昔から一緒にやっていたけど、コトリちゃんだけこの現場が初めましての人が多かったんですよ。だから、最初は気苦労が多かったと思うし、コトリンゴとしてやっていることと違うからいろいろ大変な部分はあったと思うけど、一生懸命やってくれているからありがたいですね。彼女の歌って、繊細なボーカルだけど存在感があるから、小さい声だけど太いんですね。自分がかつて書いたようなスタイルの曲……たとえば〈fugitive〉なんて10年前に書いたといっても通じるような曲かもしれないけど、それを自分が歌うと焼き直したように響いてしまいがちなところを、彼女が歌うことで特別なものになる。歌も鍵盤もなんでもできちゃうから、頼りすぎないようにしてますね(笑)。弓木ちゃんは、とにかく日々成長しています。ギターのプレイも、カッティングの切れとかここ2年でだいぶ変わってきている。バイオリンもメキメキと上達しているし、すごい努力家なんですよ。『もうダメですぅ~』とか泣き言いいつつも、がんばってやってるから偉いですよね。あの歳で、KIRINJIに限らずいろんな現場を経験するってなかなかないだろうから、次のツアーやライブでは、どれだけ成長して帰ってきてくれるのか楽しみです」

──では、田村さんから見た、堀込キャプテンは?

田村「頼もしいキャプテンだと思いますよ。これから先、たとえば他のメンバーが曲を書いたりだとか、いろんな関わり方が自然発生的に生まれてくるかもしれないけど、そうなった時に高樹くんがどう料理するのか? それもまた楽しみですね」

堀込「メンバー6人いて、基本的にみんな曲を書けるんですよね。『11』では僕が全部書いたけど、今後はメンバーそれぞれちょっとずつアイディア持ち寄って、今のKIRINJIのサウンドを作っていくのが課題かな。この6人でやったらこういう音になる。それこそがKIRINJIとしてのコンセプトになると思いますからね。一応来月から曲作りに入るんですけど、また一皮剥けたものを出さなければいけないって思っています」


KIRINJI『EXTRA 11』

KIRINJI
『EXTRA 11』

(Verve/ユニバーサル ミュージック)


KIRINJI official website
http://natural-llc.com/kirinji/
http://www.universal-music.co.jp/kirinji

KIRINJI『EXTRA 11』 Album Trailer


KIRINJI LIVE 2015
11月21日(土)東京・六本木 EX THEATER ROPPONGI
11月25日(水)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
詳細はKIRINJI official websiteを参照ください。

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