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「レッキング・クルー」②ハル・ブレインの驚異的なドラムによる名曲たちの思い出

2024.03.10

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1964年の春にビートルズを体験する以前、ぼくが洋楽のポップスにした惹き寄せられたのは、1963年にカスケーズの「悲しき雨音」をラジオで聴いたのが最初だった。

曲が始まる前に鳴り響く突然の雷鳴と雨の音、雨粒を思わせる印象的なイントロからはじまると、甘い男性ヴォーカルとコーラスがせつなくもドリーミーな世界を描き出していく。


「悲しき雨音」は1963年の3月には全米チャート3位まで上昇して世界的にも流行ったが、日本では少し遅れて梅雨時に大ヒットした記憶がある。

覚えやすいメロディはいささか単調にも感じられたが、サウンドをしっかりと支えているベースとドラムの音がかっこよくて聞き飽きることはなかった。

ちょうどその頃、坂本九の「SUKIYAKI(上を向いて歩こう)」が6月15日に全米1位のヒットを記録し、その快挙が報じられると日本の音楽ファンとしてはなんとも誇らしい気分だった。

秋になって強烈なバスドラの音から始まり、曲中からアウトロまで派手なフィルが何度も入ってきて、とにかくドラムがかっこよい曲がヒットした。

可愛い女の子3人のコーラス・グループ、ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」である。


並外れて音量の大きなバスドラムやスネア、目立って活躍するカスタネット、そして美しいストリングス、それがフィル・スペクターによる革命的なプロデュースの成果だということは、だいぶ後に知ることになった。
しかしかっこよさに圧倒されたドラマーが誰か、そこまではまだ知るすべがなかった。

1964年にビートルズとローリング・ストーンズに出会って、ぼくはマージー・ビートやブリティッシュ・ロックに関心が集中していった。
ふたたびアメリカのポップスに注目したのは1965年になってからだ。

その年のビートルズは3月「エイト・デイズ・ア・ウィーク」、5月「涙の乗車券」、9月「ヘルプ!」10月「イエスタデイ」で全米1位を獲得している。

そしてローリング・ストーンズも7月に「サティスファクション」で初めて全米1位を獲得すると、11月には「ひとりぼっちの世界」でふたたび1位になった。

そうしたブリティッシュ・インヴェイジョンに対して、アメリカ勢からはロスアンゼルスを本拠にするレーベルの躍進が始まっていく。

2月20日にゲイリー・ルイスとプレイボーイズの「恋のダイアモンド・リング」が全米1位になると、5月にはビーチ・ボーイズが「ヘルプ・ミー・ロンダ」で、バーズが「ミスター・タンブリン・マン」、8月にソニーとシェールの「アイ・ゴッド・ユー・ベイブ」、9月にバリー・マクガイアが「明日なき世界」で、12月にバーズが「ターン・ターン・ターン」と、全米1位のヒットが続いた。

ママス&パパスのデビュー曲「夢のカリフォルニア」は、チャートでは全米4位どまりだったが、初めて聴いた時から永遠のスタンダードになるのではないかと思ったことが忘れられない。

しかし、ラジオから流れてくるそれらの曲をリアルタイムで熱心に聴いていた中学生のぼくには、たった一人のドラマーによってそのヒット曲が叩かれていたことなど知る由もなかった。

それを知って驚いたのは、つい最近になってからだ。

そしてわかったのはぼくにとっての史上最強のドラマーが、ハル・ブレインというロスアンゼルスのセッション・ミュージシャンだったことである。

ハル・ブレインを中心に結成された腕利きミュージシャンたちの集団、レッキング・クルーによって膨大な数のビートとグルーブを効かせたヒット曲が誕生していたのだ。

縁の下の力持ち的な存在とされることも多いドラマーだが、ハル・ブレインはディ-ン・マーチン「誰かが誰かを愛してる」や、フランク・シナトラの「夜のストレンジャー」といった大編成のオーケストラでも、独特のグルーヴ感にあふれるドラミングを聴かせる。

映画『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』では、彼らの仕事が多くの証言や映像で詳らかにされている。


ハル・ブレインは1965年にルー・アドラーらによって設立されたレコード会社、ダンヒルと契約して3枚のアルバムと8枚のシングルをリリースした。
そしてダンヒルの制作した作品では、ママス&パパスやグラス・ルーツなどのヒット曲をサポートしている。

ドラムがハル・ブレイン、ベースがジョー・オズボーン、キーボードがラリー・ネクテルという、ダンヒル・リズム・セクションとも呼ばれたレッキング・クルーの演奏力が、もっとも分かりやすい曲のひとつにママス&パパスの「朝日をもとめて」がある。

ハイハットだけによるAメロのシンプルな展開、Bメロの手前でフィルインしてから、前へ前へと突っ込んでいくような独特のグルーヴ感、ハル・ブレインやレッキング・クルーに演奏は今もなお、永遠のサウンドとなって鳴り響いている。



(注)本コラムは 2016年2月19日に公開されました。


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