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鈴木茂①エレキギターとの出会いはベンチャーズ、先生はレコードだった

2016.05.13

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鈴木茂は17歳の時に細野晴臣からの電話で、新しいバンドを始めるのにリード・ギタリストが欲しいと言われた。

それが日本の音楽史に残る伝説のバンド「はっぴいえんど」の誕生へとつながっていく。
(詳しくはこちらのコラムで⇒鈴木茂のギターで記念碑的な名曲となった、はっぴいえんど「12月の雨の日」

鈴木茂の父は東京の上野毛で、鈴木モータースという自動車の修理工場を営んでいた。
家の商売柄、エンジンとか車の部品が積まれた仕事場を見て育った鈴木茂は、幼い頃から機械には馴染んでいたので、ガラクタやスクラップの部品を使って、自分で4輪車を作ったりして遊ぶ子供だったという。

エジソンの伝記を読んで、実験とか電気が好きになったのは小学校四年の時だった。
それからラジオの組み立てやアマチュア無線に興味を持ち、秋葉原にあった電気街まで出かけて部品を買い揃えて、ラジオや受信機を作ったりするようになっていく。

「初歩のラジオ」という雑誌を参考にして作った、最初の真空管ラジオから流れてきた音楽はビートルズだった。

自作のラジオが出来上がってスイッチを入れた時、初めて流れてきたのがビートルズの曲だった。もう曲名は覚えていないけど、「シー・ラヴズ・ユー」とか「ア・ハード・デイズ・ナイト」とか、そのあたりの曲だったと思う。まだビートルズの曲がどうこうというのじゃなくって、ただ単にラジオが鳴ったことに興奮してただけなんだけどね。でも、今でもこの曲を聞くと、あのときの嬉しかった気持ちがよみがえるんだ。


ちょうどその頃、1964年の夏から秋にかけて巻き起こったのが空前のエレキ・ブームである。
ブームの中心にいたのはベンチャーズだった。

鈴木家では兄が近所の友達とバンドを作っていた。そしてテスコという、日本の楽器メーカーのエレキ・ギターを買ってきた。
そこで鈴木茂もギターに興味を持つようになり、兄が家にいないときにはこっそりテスコのギターを弾いた。

友人の家でベンチャーズの「パイプライン」のリフなどを教わり、家に帰ってそれを兄のギターで練習して覚えていく。
先生はベンチャーズのレコードだった。


ギターの練習は全くの我流だった。ひたすらレコードに合わせて弾くんだ。フレーズが速くて分からないときは、レコードの回転数を落としてコピーした。とにかくぼくにとってはレコードが先生で、簡単なコード(和音)は本で読んだり知っている人から教わったりしてた。


そうやって1曲マスターすると次に進むという方法で、ベンチャーズの「ダイアモンド ・ヘッド」や「ブルドック」、さらには「キャラバン」などの難しい曲も、確実にマスターしていった。

その頃はやっぱりベンチャーズが憧れだったね。なんといってもノーキー・エドワーズがアイドル。あの人のおかげで今の自分はあると思う。


初めて自分で手に入れたエレキ・ギターは、エルクという日本の楽器メーカーのジャガー・モデル。

ベンチャーズが使っているモズライトは価格が高すぎて、中学生にはとても手が届かない高嶺の花だった。

だから国産品を購入したのだが、コピーモデルでもエルクは国産の最高価格だ。
夏休みに入るとギターを買うために、肉体労働のアルバイトでお金を貯めたが、残り半分は兄が出してくれたという。

なぜストラトキャスターじゃなくてジャガーなんだ?っていう質問が今なら出るところなんだけど、当時はストラトキャスターって日の目を見ていなくて、あまり評判の良いギターではなかったんだ。その後、ジミ・ヘンドリックスが現れるまではね。あの頃はベンチャーズが流行っていたから、むしろ初期の彼らが使っていたフェンダーのジャガーとかジャズマスターの方が人気があったんだよ。


自分のギターを手に入れた頃から、鈴木茂は早くもプロのミュージシャンになろうと決めていた。
まだ中学1年生だったが、憧れではなく将来の職業と目標を定めてギターを弾いていた。

そのあたりの意識が、同世代の音楽仲間たちとは根本的に異なっている。

それから6年後、はっぴいえんどが結成されてプロになってからも、最初に手に入れたエルクのギターは使われていた。
岡林信康のバックバンドを務めていた頃に弾いていたのは、このエルクのギターだった。




(注)文中の鈴木茂の発言はすべて「自伝 鈴木茂のワインディング・ロード はっぴいえんど、BAND WAGON それから」( リットーミュージック) からの引用です。


鈴木茂『自伝 鈴木茂のワインディング・ロード はっぴいえんど、BAND WAGONそれから』(書籍)
リットーミュージック

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