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ギターをかき鳴らし、果実瓶を一杯にして、陽気になれ――ハンク・ウィリアムズ「ジャンバラヤ」

2016.06.11

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12歳の少年がボートを漕ぎ、恋の逃避行へと舵を切る。覚悟を感じさせる背中に、流れる曲はハンク・ウィリアムズの「Kaw-Liga」――。

ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』のワンシーンだ。ハンク・ウィリアムズの歌声が、物語の世界へ連れていってくれる。

『ムーンライズ・キングダム』は、少年少女の初恋を描いた作品。少年には親がなく、友達もいない。少女は家族やクラスメイトとうまくいかず、キレやすい「問題児」扱いだ。ともに孤立感を深め、駆け落ちを企てるという物語で、名作『小さな恋のメロディ』を彷彿とさせる。

彼らを捜索する大人たちも問題や秘密を抱えていて、ピュアな2人と対峙するなかで孤独や不安が浮き彫りになっていく。

センチメンタルではないのに至るところで涙があふれる傑作だ。



余談になるが、音楽をレコードで聴くようになったきっかけがこの映画だった。

少女スージーが、弟のポータブルレコードプレイヤーを借りて家出する。持っていったレコードは1枚、フランソワーズ・アルディ。2人は自分たちだけの秘密の入江「ムーンライズ・キングダム」にたどりつき、浜辺で「Le Temps de l’Amour」を流してダンスする。

この場面に憧れてレコードを買った。たくさんのものを情報や知識として収集しようとしたり、せわしなく消費したりするのはもういい。スージーのようにたった1枚を大切に味わう“体験”がほしいと思ったのだ。


さて、ウェス・アンダーソン作品にはいつも懐かしさが漂うが、『ムーンライズ・キングダム』ではずばり「郷愁」が大きなテーマだろう。少年少女の冒険という題材で、舞台設定は1965年。また、2人が「This is our land!」と叫んだ秘密の入江は消失し、一度きりの思い出の地となる。

音楽も郷愁を誘うセレクトで、なかでもハンク・ウィリアムズの楽曲が多用されている。前述の通り、冒険のはじまりが「Kaw-Liga」。ブルース・ウィリス演じる警部の登場シーンでは「Long Gone Lonesome Blues」や「Ramblin’ Man」がほのかに流れて、孤独な男の悲哀を感じさせる。


1923年に生まれたハンク・ウィリアムズは、25歳でスターとなり、29歳でこの世を去った。晩年の7年間で100曲以上の作品を生み出し、カントリーミュージックでもっとも偉大なシンガーソングライターとして後世まで名を残すことになる。

アラバマ州南部のジョージアナという町に近い片田舎で誕生。時代は大恐慌、さらに父親が長期的に入院し、幼い頃から靴磨きをしたり食料を配達したりして働いた。3歳の時からピーナッツを売っていたというエピソードもある。

そんななか、教会で讃美歌、キャンプのダンスパーティでカントリーミュージックと出合い、音楽への興味を深めていく。13歳でバンドを結成し、以後は着々とスターの座を駆け上った。

大きな節目は1949年6月11日。彼は25歳で、カントリーのメッカ、グランド・オウル・オプリに1曲だけ歌うゲストとして登場した。歌い始めるやいなや観客はどよめき、たちまち大喝采に。アンコールは空前絶後の6回、伝説的な成功をおさめた。

しかしそれからわずか3年の間に、過度の飲酒で没落の道をたどる。2度の結婚も波瀾に満ちたものだった。そしてあっという間の――1953年1月1日、公演に向かう車のなかで、運転手さえ気づかないうちにひっそりと息を引き取ったのだ。死因はアルコールの長期摂取による心臓の機能不全ではないかといわれるが、はっきりしたことはわからない。

彼は素朴で美しいメロディにのせて、自分の人生、むきだしの感情を歌った。それは率直で、愛や喜び、時に挫折感に満ちている。あたたかさと切なさの共存する声は『ムーンライズ・キングダム』の世界にぴったりだ。優しさを忘れた日に聴きたい。


そんなハンク・ウィリアムズの代表曲に料理ソングがある。「Jambalaya」だ。


カーペンターズの軽やかで気持ちがよいカヴァーで知っている人も多いかもしれない。日本でもウエスタンブームのさなか、キングレコードが江利チエミを起用し、カヴァーを1954年に発売。これも大ヒットを記録した。彼の曲が死後も世界中で愛されている証といえるだろう。

カーペンターズ

江利チエミ

飛行機に乗っている時に書いたというこの曲には、ルンルンと踊りだしたくなるような楽しさがある。歌詞はこんなふうだ。

ジャンバラヤにザリガニのパイ
ヒレ肉入りのオクラ・スープ
今夜は大切な人と会えるのさ
ギターをかき鳴らし、果実瓶を一杯にして、
陽気になれ
やい、入江で大いに楽しもうぜ

「ギターをかき鳴らし、果実瓶を一杯にして、陽気になれ」。このワンフレーズだけで幸福な風景が浮かんでくる。

ジャンバラヤとは、ルイジアナ州、ケイジャン地方の郷土料理で、スペインのパエリアに起源を持つというスパイシーな炊き込みご飯。

鶏肉やソーセージ、えびなどの具材とともに、好みの野菜をたくさん入れて。庶民の味だから気取らず冷蔵庫にある食材でOK。大鍋でつくり、この曲のごとく賑やかに楽しみたい。

★ジャンバラヤのレシピ 

jambaraya

【材料】 3~4人分
米 2カップ

鶏もも肉 100g
チョリソー 100g
えび 100g

にんにく 1片
たまねぎ 1個
セロリ 1/2本
パプリカ 1/2個
いんげん 5〜7本
トマト 1個

チキンストック 3カップ

A
ケチャップ 大さじ1
タバスコ 少々
レモン汁 少々

B
チリペッパー 小さじ1
パプリカパウダー 小さじ1
タイム、オレガノ 少々
ローリエ 1枚

塩、こしょう 適量
オリーブオイル 大さじ2
パセリ 飾り用に少々

【下ごしらえ】
米をさっと研ぎ、ザルにあげて水気を切り、30分ほどおく。
にんにく、たまねぎ、セロリはみじん切りにする。
パプリカ、トマトは1.5cm角、いんげんは1cmに切る。
鶏もも肉は2cm角、チョリソーは1cmに切る。

【作り方】
1 深めのフライパンあるいは鍋に、オリーブオイルとにんにくを入れて炒める。
2 たまねぎ、鶏もも肉、チョリソー、セロリ、パプリカ、えび、いんげん、米、トマトの順に入れて炒める。
3 A、チキンストック、Bを加える。
4 塩、こしょうで味をととのえる。
5 フタをして、弱めの中火で20分炊く(残り5分くらいになったら、一度フタをあけて米の硬さや水分量をチェックし、火加減などを調整する)
6 火を止めて5〜10分蒸らす。
7 パセリをちらしてできあがり。

鶏もも肉、チョリソー、えびはいずれか1種類、あるいはソーセージなどでも。野菜も好みのもので。スパイスはクミンなどを加えても美味。



参考文献
『ハンク・ウィリアムズ物語』ロジャー・ウィリアムズ著(音楽之友社)

ジャンバラヤ~ハンク・ウイリアムス・ベスト・セレクション

ハンク・ウィリアムス『ジャンバラヤ ハンク・ウイリアムス・ベスト・セレクション』

(USMジャパン)


ムーンライズ・キングダム

『ムーンライズ・キングダム』

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