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マスターピースを超えて未来へと向かうカウボーイ・ジャンキーズ

2016.12.23

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カウボーイ・ジャンキーズといえば、いつも、そしていまだに引き合いに出されるのは、結成して三年目、1988年に発表されたセカンド・アルバム『ザ・トリニティ・セッション』だ。1987年11月27日、4人組のカウボーイ・ジャンキーズは、フィドルやアコーディオン、ペダル・スティール・ギターやハーモニカなど5人のサポート・ミュージシャンと共に、たった一本だけのマイクを全員で囲み、トロントのホーリー・トリニティ教会でレコーディング・セッションを行った。

The Trinity session


それがアルバムとなったのが『ザ・トリニティ・セッション』で、最初は88年初めに自分たちのレーベル、ラテント・レコーディングスから発売されたが、その年のうちにRCAレコードからワールドワイドで発売し直され、アルバムに収められたオリジナル曲の「ミスガイデッド・エンジェル」やベルベット・アンダーグラウンドのカバー曲「スウィート・ジェーン」などが話題となって、静謐ながらもその奥で熱い情念が燃え上がるカウボーイ・ジャンキーズの音楽は大きな注目を浴びるようになった。『ザ・トリニティ・セッション』はベストセラーとなり、現在本国カナダやアメリカではプラチナ・アルバムとなっている。


そしてこのザ・トリニティ・セッションからほぼ20年後の2006年秋にカウボーイ・ジャンキーズは再びホーリー・トリニティ教会を訪れ、バンド結成20周年、『ザ・トリニティ・セッション』20周年記念として、ナタリー・マーチャント、ヴィック・チェスナット、ライアン・アダムスといったゲスト・ミュージシャン、それに初期からのフィドルやマンドリンのサポート・ミュージシャン、ジェフ・バードと共に『ザ・トリニティ・セッション』の曲をすべて再演している。そして翌2007年10月には、同じ曲目、同じ曲順でのアルバム『トリニティ・リヴィジテッド』が、CDとDVDとで発売され、それでカウボーイ・ジャンキーズと『ザ・トリニティ・セッション』との繋がりはますます強固なものとなってしまった。

Trinity Revisited


確かに『ザ・トリニティ・セッション』は大傑作アルバムだし、カウボーイ・ジャンキーズの代表作にして最大のベストセラー・アルバムであることは間違いがない。しかしその大きさゆえそれが逆に彼らにとって“呪縛”のようなものとなり、いまだにカウボーイ・ジャンキーズといえばいつでも『ザ・トリニティ・セッション』のことばかり取りざたされてしまうのではないかとちょっと不安な気持ちに襲われてしまう。結成後すでに30年以上、『ザ・トリニティ・セッション』以外にも様々な音楽的なことにチャレンジし、アルバムもライブ・アルバムも含めて20枚ほどがリリースされているのに、熱心なファン以外そちらの方にあまり関心が向かなくなっているのだとしたら、それはとても残念なことだ。

ひとまず『ザ・トリニティ・セッション』を離れ、今いちばん注目したいカウボーイ・ジャンキーズのレコーディング作品は、2010年から12年にかけて彼らがラテント・レコーディングスから発表し続けた『ザ・ノーマッド・シリーズ』だ。これまでに『レンミン・パーク』(2010)、『ディーモンズ』(2011)、『シング・イン・マイ・メドゥ』(2011)、『ザ・ウィルダネス』(2012)の4枚のアルバムが統一されたデザインのもと、CDやLPレコードでリリースされ、この4枚に『エクストラズ』という10曲入りのアルバムがもう一枚加わったボックス・セットも発売されている。

The Nomad seiries


シリーズ一枚目の『レンミン・パーク(中国語で「人民公園」のこと)』は、バンドの中心人物のマイケル・ティミンズが中国の靖江市を訪れて数ヶ月を過ごし、その時にサンプリングした音、あるいは中国の民族楽器を用いて作り上げられた実験的な作品、二枚目の『ディーモンズ』は、カウボーイ・ジャンキーズの親しい音楽仲間で、残念なことに2009年にこの世を去ったアメリカのジョージア州のシンガー・ソングライター、ヴィック・チェスナットの曲をカバーしたもの、三枚目の『シング・イン・マイ・メドゥ』はかなり騒々しいサイケデリック・ロック・サウンド、四枚目の『ザ・ウィルダネス』は静かな雰囲気が漂っている作品というように、それぞれが異なったコンセプトのもと作られ、まとめられている。


活動を開始して25年を迎えたカウボーイ・ジャンキーズが到達した世界、その幅広く、豊かで奥行きのある音楽が存分に楽しめる作品群となっている。残念ながら『ザ・ノーマッド・シリーズ』は日本発売がされていないし、日本ではなかなか入手困難な商品となっているが、カウボーイ・ジャンキーズの今のところ最新作となるこのシリーズに耳を傾ければ、そこには新たな発見があり、大いなる刺激もあり、いつまでも『ザ・トリニティ・セッション』にしがみつくことからすぐにも逃れられるのではないだろうか。

メンバーのマイケル・ティミンズ自身、『ザ・ノーマッド・シリーズ』という大作に取り組んだことに関して、「バンド活動を開始してから25年目になり、そうしたことができるだけの力やインスピレーションが自分たちに備わったと思えるようになったんだ」と語っている。

そして『ザ・ノーマッド・シリーズ』をひとまず完結させたバンドの中心人物のマイケル・ティミンズは、カナダのソングライターのスコット・ガーブと共に長年にわたって取り組んできたアメリカの第35代大統領ジョン・フィッツジェラルド・ケネディの暗殺をテーマにしたロック・オペラ『ケネディ・スィート(ケネディ組曲)』を完成させ、その公演やアルバムにカウボーイ・ジャンキーズと共に参加している。その一方でマイケルはカナダのミュージシャン、トム・ウィルソンが2009年に始めたサイケデリック・フォーク・プロジェクト、リー・ハーヴェイ・オズモンドにも参加し、これまでに二枚のアルバムを発表している(1963年11月22日テキサス州ダラスでケネディ大統領を暗殺したとされているのはリー・ハーヴェイ・オズワルドで、リー・ハーヴェイ・オズモンドというプロジェクト名はそのことと深く繋がっている)。

カウボーイ・ジャンキーズの久しぶりとなる来日公演。もちろん代表作『ザ・トリニティ・セッション』の曲も、決して懐メロではなく2017年の現在進行形でいっぱい演奏してくれるのだろうが、それを含めて、その後の数々の作品、そして最新作の『ザ・ノーマッド・シリーズ』、はたまた『ケネディ組曲』にまでも及ぶ彼らの30年以上の長い歴史が滲み出てくるような、音楽の力とインスピレーションに満ち溢れた熱いステージを期待したい。

ビルボードライブ大阪:
2017/1/19(木)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
●公演詳細はこちら

ビルボードライブ東京:
2017/1/20(金)
1stステージ開場17:30 開演19:00
2ndステージ開場20:45 開演21:30

2017/1/21(土)
1stステージ開場17:00 開演18:00
2ndステージ開場20:00 開演21:00
●公演詳細はこちら

文・中川五郎
 1949年、大阪生まれ。60年代半ばからアメリカのフォーク・ソングの影響を受けて、曲を作ったり歌ったりし始め、68年に「受験生のブルース」や「主婦のブルース」を発表。70年代に入ってからは音楽に関する文章や歌詞の対訳なども手がけ、90年代に入ってからは小説の執筆やチャールズ・ブコウスキーの小説などさまざまな翻訳も行っている。
 アルバムに『終わり・始まる』(1969年、URC)、『25年目のおっぱい』(1976年、フィリップス)、『また恋をしてしまったぼく』(1978年、ベルウッド)など。最新二枚組アルバム『どうぞ裸になって下さい』が2017年1月にコスモス・レコードから発売される。
 著書に『ロメオ塾』(リトルモア)、訳書にブコウスキーの小説『詩人と女たち』、『くそったれ!少年時代』、『ボブ・ディラン全詩集』(ソフトバンク)などがある。
 1990年代半ば頃から、活動の中心を歌うことに戻し、新しい曲を作りつつ、日本各地でさかんにライブを行なっている。
中川五郎オフィシャルサイト


カウボーイ・ジャンキーズ『ザ・トリニティ・セッション』
RCA


カウボーイ・ジャンキーズ『レンミン・パーク』
Latent

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