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ジョニー・リバースが歌った「秘密諜報員」のカヴァーで北朝鮮の工作員を描いた忌野清志郎

2017.02.16

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1960年代の半ばから後半にかけてイギリスやアメリカ、イタリア、フランス、西ドイツ、日本などで、秘密諜報員や工作員を描いた数多くのスパイ映画が公開された。

そのさきがけとなったのが1962年にイギリスで映画化された『007 ドクター・ノオ(007は殺しの番号)』で、これが世界中で大ヒットしたことから、主人公のジェームス・ボンドを演じたショーン・コネリーによって『007 ロシアより愛をこめて』、『007 ゴールドフィンガー』と続編が作られた。

007

007シリーズは回を追って製作規模が大きくなり、世界中で大ヒットを続けた。
当然のようにスパイ映画人気はテレビにも波及していく。

最初に動きが起こったのは007を生んだ国のイギリスで、1962年に秘密諜報員ジョン・ドレイクを主人公とする連続ドラマ『Danger Man』が誕生した。

これはアメリカでは『Secret Agent』のタイトルで放映されたが、シリーズの途中からジョニー・リバースが歌うオープニングテーマ、「Secret Agent Man(秘密諜報員)」がつくようになった。

その歌詞では”笑顔の下に悪魔の心を持つ男”、”今日はリビエラ、明日はボンベイ”、”気を許して口を滑らせれたら命の保証はない”と、秘密諜報員の姿が描かれた。

秘密諜報員、秘密諜報員
当局はおまえに番号を与え
おまえの名前を奪った


これは当時のロスアンゼルスでヒット曲を連発していたダンヒル・レコードの専属ソングライター・コンビ、P・F・スローンとスティーヴ・バリが提供した作品である。
1966年に発売されるとヒットメーカーの成功作として、4月には全米チャートで3位に上昇するヒットになった。



その直後にベンチャーズがカヴァーしたインストゥルメンタルも53位に入り、日本ではこちらの「秘密諜報員」のほうがヒットして有名になった。




それから22年後、「シークレット・エージェント・マン 」のタイトルで日本語の歌詞をつけてカヴァーしたのが、RCサクセションの忌野清志郎である。

この曲を収録したアルバム『COVERS』は内容の問題で、東芝EMIからの発売が中止になって騒ぎとなり、最終的にキティ・レコードから出ることで日の目を見た。

ヴォーカルには後に細野晴臣と3人で組んだHISで共演する若手の演歌歌手、坂本冬美が起用されて話題になった。
そして曲の冒頭には1987年11月29日に起こったテロ事件、大韓航空旅客機爆破事件の実行犯とされるキム・ヒョンヒ(金賢姫)の音声が収録されていた。



内容はオリジナルの歌詞とはまったく異なり、大韓航空の旅客機が偽造パスポートを使って日本人に成り済ました北朝鮮の工作員たちによって、飛行中に爆破されたテロ事件のついてのものである。

歴史を変え 運命を操り
彼女が乗った飛行機を爆破した
犬どもに追われ 仲間を身代りに
足跡消して 闇に潜む
シークレット・エージェント・マン
シークレット・エージェント・マン
すべては謎 秘密の世界


イントロの前から若い女性(金賢姫)の声を流しておいて、歌の途中から坂本冬美に歌わせるというアイデアは効果的だった。
「シークレット・エージェント・マン 」は単なる洋楽のカヴァーや、パロディにとどまらい歌になった。

それはものごとの本質を見ようとする表現者としての目が常に振れず、移りゆく時代にふりまわされたりすることなく、まっすぐ作品に注がれていたからだろう。

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