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【スペシャル・インタビュー】チーフタンズのパディ・モローニが奏で続ける土地に根付いた音楽

2017.10.09

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アメリカにはカントリーやブルース、フランスならばシャンソン、日本であれば歌謡曲や演歌、というように世界の国々には、固有の風土や文化に根付いた音楽が存在する。
その土地で暮らす人々の習慣や生活、あるいは人となりが色濃く滲み出たそれらは、国が違えば共有されにくいこともしばしばある。

しかしそんな弊害など物ともせず、生まれ育った国固有の音楽を鳴らして活躍するバンドが存在する。アイルランド出身のザ・チーフタンズである。
ビートルズやストーンズと同じ頃にデビューし、彼らと同じように音楽で世界中を席巻していった。その時、チーフタンズが鳴らしていたのはロックンロールではなく、アイルランド伝統のケルト音楽だった。
彼らは自らの国の音楽で、その他のポップスと同じように世界を熱狂させ、50年以上にわたってケルト音楽を奏で続けている。
そのチーフタンズの中心人物であるパティ・モローニ氏に、20歳の吉田ボブが行ったインタビューをお届けします。


――チーフタンズがデビューした1960年代は、ロックが流行して音楽シーンが大きく変化していました。その中でなぜケルト音楽を奏でようと思ったのでしょうか。

もともと生まれた家庭が、アイリッシュミュージックを好きだったことが一番かな。アイルランドの人たちは家に集まると歌って、踊って、ストーリーテリングをするのが娯楽だったんだよね。うちにはテレビもラジオもなくて、そういう環境にいたからアイリッシュミュージックが一番の娯楽だったんだ。
僕が6歳の時に母が1シリング9ペンスでティー・ホイッスルを買ってくれて、それで僕も音楽を始めたんだ。ただその時は右手と左手を逆にして吹き始めちゃって(笑)。9歳の時にアイリッシュパイプを吹きはじめたんだけど、その時にやっと正しい指の順に戻ったよ。

それで音楽を続けていって、チーフタンズを結成するんだけどその頃から思っていたのは、アイリッシュの楽器を揃えて自分の国の伝統音楽を鳴らしたいってことだね。
1962年に『チーフタンズ1』を出すんだけど、信じられないことにラジオでストーンズとビートルズの間に混じって自分たちの曲が流れていたんだよ!
しかもそのあと、ロンドンにあるブラインアン・ジョーンズの家に俳優のピーターセラーとかと一緒に招待されたんだ。彼らは『チーフタンズ1』をかけてくれていて、そのときに「このまま進んでいってよさそうだ」って思ったね。
だからレコード会社から「ロックの要素を取り入れてほしい」って言われても、「自分たちのやり方は変えない」って言ってきたんだ。
そのまま続けていったら1975年に「メロディメーカー」誌の表紙に自分たちが選ばれて、しかも年間の最優秀グループにも選出された。他に選ばれていたのはロックのグループばかりだったから、本当に嬉しかったね。

――チーフタンズはミック・ジャガーやスティングをはじめ、ロックミュージシャンの方々ともコラボレーションされていますね。その中で印象に残っているものはありますか?

最初にコラボレーションした中で特に印象的だったのは、ポール・マッカートニーのソロ作品かな。
これはチーフタンズではなく僕一人だったんだけど、ポールの弟のマイク・マッキアーノからやってほしいっていう依頼が来たからパイプを吹きに行ったんだ。
そうしたらその日にジョンレノンが暗殺されてね。レコーディングはスタジオで普段通りに行われたんだけど、あの日は忘れられないよ。

他にもザ・フーのロジャー・ダルトリーは元々僕らのファンで2曲一緒にやってくれたし、イーグルスのドン・ヘンリーはわざわざアイルランドに来てくれて一緒にレコーディングしたよ。アート・ガーファンクルなんかは二日間の予定が一週間滞在するぐらいに楽しんじゃったしね。

こんな感じで長い間いろんな人たちとコラボレートしてきたから「じゃあ今度は僕らのアルバムに彼らを招いてしまおう!」ってことになって、ミックやスティングたちに声をかけて出来たのが『ロング・ブラック・ヴェイル』なんだ。
みんなチーフタンズのやっていることと、自分のやっていることを信じてくれるからこそ実現したんだ。
そういった意味で一番重要なコラボレーションは、同じアイルランド出身のヴァン・モリソンと作った『アイリッシュ・ハートビート』かな。
アルバムを作ったあと、1年ぐらい一緒にツアーを回ったんだよ。お互いのオリジナリティを信頼していたから出来たことだね。

――コラボレーションをする時に大事にしていることはありますか?

それぞれが自分の解釈でやるっていうことかな。音楽は譜面を見て演奏するものではなくて、ハートでやらなきゃいけないんだ。その時どう感じるか、楽器の調子がどうかっていうことが関わってくる、それがトラディショナルミュージックの良さなんだ。だからアレンジする時も自分の感覚を頼らなきゃいけない。

他の人とコラボレーションをする時もそれは同じだと思っている。ミュージシャンとして好きな部分があるから依頼するんだ。でもその中でやることは、結局それぞれができる事をやるだけだよね。
例えば「フォギー・デュー」って曲、その時はシネイド・オコナーとコラボレーションしたんだけどね。もとは勇ましい戦争の行進曲なんだけど、それを彼女らしくなるように「少しスローダウンしてパッションを込めて歌ってほしい。自分のやり方でやってくれればいいよ」と言ったんだ。そうしたらレコーディングの最後に、彼女は涙を流しながら歌ってくれて、素晴らしいものになったんだ。
だから大事なのはどういう風にやってくれっていうことじゃなく、それぞれがどう解釈するかなんだ。

――チーフタンズはすでに10回も来日していますし、それ以外にも中国やローマ、キューバなど様々な国で公演していますが、その中で印象に残っている国はありますか?
また異国の風景からインスピレーションを受けることはありますか?


ブルターニュは自分のサマーハウスがあってしばらく住んでいるぐらい、好きな国だね。そこには独自の言葉や音楽があるのだけれども、すごくケルトの影響を受けている地域なんだ。
それで1986年の『ケルティック・ウエディング』っていうアルバムでは、ブルターニュの楽器をたくさん使ってみたんだ。そうしたら僕らにとっては初めて、グラミーにノミネートされたアルバムになってね。ブルターニュはそういう意味でも思い出深い国だよ。

あと、スペイン北部のガリシアも好きな国だ。あそこもケルトの地域なんだよね。
『サンティアーゴ』っていうアルバムではガリシアの楽器を使ったんだけど、そのアルバムもグラミー賞を獲ってね。それでスペイン国王から感謝を込めてメダルを授与されることになったんだ。
もう素晴らしくて、美しい国だよ。なによりも、ガリシアにはカルロス・ニュエス(チーフタンズと演奏してキャリアをスタートさせたミュージシャン)のような腕のいい奏者もいっぱいいるしね。

ツアーで回る国の中でも、印象深い国はたくさんあるね。日本はアイルランドから一番遠い国なんだけど、必ず行きたい国だね。なぜなら日本の人たちは僕たちの音楽をしっかりと受け止めてくれるし感謝もしてくれる。ありがたいし好きな国なんだ。
アメリカも自分たちにとっては欠かせない国だね。だいたい毎年約2ヶ月はツアーをしているよ。

――55年にわたって活動してきた中で変わらないこと、そして変わったことはなんですか?

やっぱり音楽を始めた時からずっと変わらない信念は、トラディショナル・アイリッシュミュージックをやるっていうとことかな。それ以外のものは趣味程度なんだ(笑)。
実は音楽を続けていく中で、ロニー・ドネガーとかのスキッフルバンドが使ってるウォッシュボードやウクレレとか、そういう楽器を自分でもやったりしていたんだ。でも、それはやっぱり趣味で終わってしまった。
最初に言ったように、自分は家庭的に伝統音楽の中で育っているから、何よりも好きなものはケルト音楽なんだよね。だから、あくまでもチーフタンズはフォーク・オーケストラ・アンサンブルなんだ。

だけど伝統を守るだけじゃなく、その時々に新しいアイデアを取り入れて、伝統音楽を一度も聴いたことのない人に届けるのが自分の使命であると思っている。
だからデビューする前から、カーネギーホールとか、シドニーオペラハウスで演奏したいっていう目標はしっかり持っていた。
その夢が最初に叶ったのは、1975年のロイヤルアルバートホールでの公演だね。歌もないし、踊りもない。純粋に楽器を演奏するだけのステージだったんだ。でも最終的には6000人のお客さんがみんな、立ち上がって踊ってくれて、すごく盛り上がった。
その時はまだアマチュアだったんだけど、自分たちの信念がしっかりと伝わったと実感できて、初めてプロになろうって思えたんだ。

――長い期間、信念を変えず音楽活動続けるのは難しいことだと思いますが、その原動力はなんなのでしょうか?

自分にとって音楽は食べ物とかと一緒で、欠かせないものなんだ。僕だけじゃなくて、人間にとって必要なものだと思う。
もしこの世の中から音楽が消えたら、世界は悲しい場所になっちゃうよね。ただでさえ、たくさんの嫌なことや悪いことがある世の中だから。
自分にとっての原動力は好きな音楽をやりたいっていうチャレンジ精神だね。新しいものを見つけて行って、それを取り込むのが大好きなんだ。
その気持ちがあったから続けてこれたんじゃないかな。だから、死ぬまで常にいろんなものをやっていきたいと思っているよ。

(インタビュアー・吉田ボブ)


<The Chieftains〜結成55周年記念 Forever Tour〜>

11/23(木・祝)所沢市民文化センターミューズ
11/25(土)びわ湖ホール
11/26(日)兵庫県立芸術文化センター
11/27(月)ZEPP名古屋
11/30(木)Bunkamura オーチャードホール
12/2(土)長野市芸術館
12/3(日)よこすか芸術劇場
12/8(金)オリンパスホール八王子
12/9(土)すみだトリフォニーホール

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