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浜口庫之助がジャズ・シンガーの後輩、植木等に書き下ろした「花と小父さん」

2017.10.27

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1960年代なかばに流行し始めたフォークソング調の歌謡曲「涙くんさよなら」や「バラが咲いた」を作ったのは、かつてはジャズ・シンガーとして人気があった浜口庫之助である。

浜口は1958年に作曲家に転向した翌年に「黄色いさくらんぼ」が大ヒットし、そこからは日本の音楽史に残る名曲を数多く世に出している。

ある日、朝起きて気分が良くて庭を眺めていると、緑の中に赤いバラが一輪だけ、ふわっと咲いてるのが見えた。
「あっ、バラが咲いたな」と思って、そばにあったギターで「バーラが咲いた」と口ずさむと、そのまま歌になってしまったという。

バラが咲いた バラが咲いた 真赤なバラが
淋しかった ぼくの庭に バラが咲いた
たったひとつ 咲いたバラ 小さなバラで
淋しかった ぼくの庭が 明るくなった
バラよ バラよ 小さなバラ
そのままで そこに咲いてておくれ
バラが咲いた バラが咲いた 真赤なバラで
淋しかった ぼくの庭が 明るくなった



大学生だったマイク真木が歌って大ヒットした「バラが咲いた」は、1966年の日本レコード大賞作曲賞に選ばれた。

その翌年、ジャズ・シンガーの後輩にあたる植木等の楽曲を頼まれたとき、浜口は「笑えピエロ」と「花と小父さん」を提供している。

1961年に大ヒットした「スーダラ節」以降、植木等は映画の『無責任男』シリーズが大当たりして爆発的な人気を誇っていた。
さらには1963年の秋から始まったナンセンスな洋傘のCM、”なんであるアイデアル”がウケて子供にも真似されるなど、当時は国民的スタ-ともいえる存在だった。


しかし破壊的でナンセンスなギャグや、コミカルなクレージー・ソングによって、本来は真面目人間の典型だったにもかかわらず、本人とはかけ離れたキャラクターが独り歩きしていて、植木等は悩むことも少なくなかったという。

植木等伝「わかっちゃいるけどやめられない!」(戸井十月著 小学館文庫)のなかには、こんな言葉が記されている。

僕は、こんなこといつまで続けていくんだろうと思っていたわけ。映画に出られたりレコードが出たりするのはいいんだけど、こんなことばかりやっていたら普通の歌を歌えなくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安だった。


バンドマンでシンガーであることへのこだわりから意を決して、リーダーのハナ肇に一対一で会って「グループから離れたい」との思いを相談したこともあった。

そんな植木等のためにつくられたのが、1967年5月に発売された初のソロ・アルバム『ハイおよびです!!』である。

そこには子供とのデュエットによるファミリーソング「パパと一緒に」や、大人のシンガーに向けてつくられた永六輔と中村八大による「万葉集」、そして浜口庫之助から提供された楽曲などが収録されていた。



そのなかでも好評だったのが「花と小父さん」で、これは「バラが咲いた」の姉妹編ともいえるフォーク調の佳作だ。

小さな花にくちづけをしたら
小さい声で僕に言ったよ
小父さんあなたはやさしい人ね
私を摘んで お家(うち)につれてって
私はあなたのお部屋の中で
一生懸命咲いて慰めて上げるわ
どうせ短い私の生命
小父さん見てて 終るまで

可愛い花を僕はつんで
部屋の机に飾っておいた
毎日僕は急いで家(うち)に
帰って花とお話をした
小さいままで 可愛いままで
或る朝花は散っていったよ
約束通り僕は見ていた
花の生命の 終るまで 終るまで


しかし当時の大衆が植木等に求めるイメージと、叙情的でメルヘンチックな「花と小父さん」にはギャップがあった。
したがってこの歌がテレビや映画で、植木等によって披露される機会は少なかった。

レコードとしてスマッシュ・ヒットした「花と小父さん」は、同じ渡辺プロダクションに所属する新人歌手、伊東きよ子がカヴァーしたヴァージョンだ。

それから5年後、やはり渡辺プロダクションに所属するアイドル・スターで、当時は空前の人気を誇った天地真理にもカヴァーされている。


さらに四半世紀が過ぎて植木等によるリメイク、裕木奈江とのデュエットが実現したのは、大瀧詠一のプロデュースによる『植木等的音楽』(1995年)である。

「花と小父さん」はその後も森山良子や桑田佳祐、ハナレグミなどに歌い継がれてスタンダード・ソングになりつつある。

なお、最近では藤圭子がカヴァーしたライブ音源が、YOUTUBEにて公開されている。




(注)本コラムは2017年10月7日に公開されたものを、改題して一部に加筆したものです。

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