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ボブ・ディランに「ノー!」とは言えず、リッチー・サンボアが譲り渡したマーティンD-18

2017.10.11

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エルヴィス・プレスリーが初期の頃に使用していたギターでもっとも有名なのは、1955年の前半にステージで使っていたマーティンD-18だろう。

1956年3月に発売された1stアルバム『エルヴィス登場!(Elvis Presley)』は世界中に衝撃を与えることになったが、そのジャケットに使われたアコースティック・ギター、マーティンD-18にはエルヴィスの表情やアクションとともに圧倒的な存在感があった。



そんな1950年代の貴重なビンテージ・ギターを誕生日プレゼントしようと考えたのが、ボン・ジョヴィのギタリストでソングライターのリッチー・サンボラだった。
贈る相手はジョン・ボン・ジョヴィ。
リッチーとともに力を合わせてボン・ジョヴィというバンドを、世界のトップグループに成長させた朋友である。

ジョンはそれまでのキャリアで、日本のタカミネなど実用的な楽器を演奏してきた。
リッチーは”一生もの”のビンテージ・ギターをプレゼントして、楽器の素晴らしさと美しさにジョンが目覚めてくれることを期待したという。

リッチーはビンテージ・ギターのコレクターで、ショップを経営している友人のノーマン・ハリスに電話で相談した。
それから二人はエレキギターもアコースティック・ギターを検討したが、最終的にリッチーがマーティンD-18にしようと決めた。

その頃、ノーマンは40年代もの、50年代もの、60年代ものと、何十本ものD-18を在庫として持っていた。
それらをすべて試奏したリッチーは、最終的に50年代前半のD-18を選んだ。
ノーマンがこう語っている。

このギターはすべてを兼ね備えていた。とてもきれいで状態が良かった上、私がそれまでに出会った50年代のD-18の中でも極めて音がいいギターのひとつだった。


最高と思えるギターを選んだリッチーはそれを購入した上で、さらにスペシャルなプレゼントにしてあげようと思った。
ボブ・ディランの大ファンであるジョンのためにD-18にサインしてもらえないかと、面識があった本人にアポイントメントをとった。

リッチーからノーマンに連絡があったのは、それからおよそ2週間後だった。

私はD-18を贈られたジョンがどれだけ喜んだのかを案じていた。
電話が鳴った。リッチーだった。
プレゼントが喜ばれたのかどうか私が尋ねる以前に、彼は大笑いして、あれと同等のクオリティーのマーティンDー18がもう1本必要になったと私に明かした! 
何が起こったか想像できるだろうか。


ディランのもとを訪ねてDー18にサインを求めたとき、リッチーはしばらくそのギターをプレイしていたディランからこう言われたという。

「リッチー、このギターは私が欲しい


そのDー18のサウンドの素晴らしさに気がついたディランは、自分が購入することが可能かどうかとリッチーに尋ねたのである。

「どうやってボブ・ディランにノーって言えると思う?」

こうしてリッチーはノーマンから買い取った値段そのままで、精選したDー18をディランに譲り渡すことになった。

振り出しに戻ってしまったリッチーとノーマンは、ジョンのために譲り渡したのと同等かそれ以上の、もう1本のD-18を見つけ出さねばならなかった。
しかも誕生日の日が近づいていた。

だが幸いにもその時、あるコレクターからノーマンに何点か楽器を売却したいという電話が入った。
そのなかには新品同様で、極上のサウンドを持つ50年代のD-18があるはずだった。
なぜならばノーマンは10年前に、そのコレクターに売却していたことを覚えていたからだ。

そして実際に、極上のD-18はあったのだ。
ノーマンがすぐに電話をかけて経緯を話すと、リッチーは店にかけつけてそのD-18を試奏して購入した。
それから喜び勇んで、もう一度ディランのもとへ走った。

最終的にリッチーは望んでいたギターを探し出し、ディランのサインつきでジョンにプレゼントすることができた。

こうしてボブ・ディランとジョン・ボン・ジョヴィは、熱い友情のもとにリッチーが選びぬいた素晴らしいビンテージ・ギターを手に入れたのだった。




(注)ノーマン・ハリスの言葉はすべて、ノーマン・ハリス著『ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝』からの引用です。

ノーマン・ハリス 『ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝』(単行本)
リットーミュージック


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