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【来日直前!特別インタビュー】ブルース・コバーン〜伝説のシンガー・ソングライター

2018.09.13

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今月末、カナダが誇る偉大なシンガー・ソングライター、ブルース・コバーンがビルボード・ライヴ東京で2日間の公演を行う。「随分長い間があいたね」と本人も苦笑するくらいで、92年以来という久々の来日となる。まさに待ちに待った必見ライヴだ。

70年に最初のアルバムを発表したブルース・コバーンはその前のバンド時代を含め、既に活動歴が50年を超える。彼はフォークからジャズまでを取り込んだ音楽性と鮮やかなフィンガーピッキングを弾くギタリストとしての腕前を持ち、常に音楽的挑戦を続けてきたミュージシャンで、初期は牧歌的かつ神秘的な作品で知られたが、その後は宗教観が表れたものから政治社会問題への鋭いメッセージをこめた作品までを書いてきたソングライターである。

80年代以降は人権や地雷撤去,環境破壊などの諸問題に深く係わり、世界各地の紛争地帯に足を運ぶ活動家ともなり、特に内戦下の中米諸国への訪問から生まれた作品(怒りに燃えた〈If I Had a Rocket Launcher〉など)は、曲中に彼の歌詞を引用したU2などにも影響を与えた。その長年の業績には数多くの音楽賞、勲章、生涯功労賞、殿堂入り、名誉博士号が贈られ、昨年には本国カナダで記念切手が発売されたほどである。

現在のブルースはアメリカ人女性と結婚し、73歳にして6歳の娘の子育て中(長女は既に40代)。昨年発表された最新作「Bone On Bone」は6年ぶりのアルバムで、その長い間隔は、14年出版の回想録「Rumours of Glory」の執筆に専念した数年があったからだ。8月中旬に電話で筆者にとって14年ぶりの会話を交わした。

──今はサンフランシスコに住んでいるんですよね。アメリカでの生活はいかがですか?

この国で暮らすのは相変わらず妙な感じだよ。興味深いけれど、変なところだ(笑)。長年ツアーで回ってきたから、良く知っている国だが、特に今は政治がおかしなことになっている。トランプが大統領になったことが人びとのふるまいに影響を与えている。彼を支持する人、しない人の対立で、国が分裂状態だ。たくさんの狂気があって、社会の雰囲気がちょっと不安定だと感じるね。


──理想的には、芸術や音楽は、そういった対立に橋を架ける力を持つはずですが。

理想的にはそうだろうし、ある程度までは可能だろう。僕もその対立を体験したんだ。ニュー・アルバム発表後のツアーで全国を回った。どこも客の入りはよかったが、アリゾナ州フェニックスだけは例外だった。フェニックスは政治的に右翼が主流の街だ。客が少なかったのは、政治のせいだと思う。

僕を嫌いで敬遠するのではなく、関心を持たないんだ。自分に同意する人たちにしか耳を傾けないから。それが問題だし、対立の隔たりを超えようとするアーティストには挑戦だね。どっちのニュースメディアに注意を払うかで、人びとは分裂してしまい、その分裂は文化全般にまで及んでいる。

幸いに僕は誰の代弁者でも、どの団体の一員でもなく、すべて自分の意見だからね。うまくやれていると思う。僕の音楽を聴いてくれる人たちがまだいる。橋を架ける役割もちょっぴりしているかもしれない。僕にはキリスト教徒としての信用もあるから。僕は政治的には左翼として広く知られているけど、人生の他の様々な面においてはもっと保守的な人たちとの交友もある。だから、ある程度までは橋を架けられているかもね。


──回想録を書いたことは、あなたの音楽に何らかの影響をもたらしましたか?

あの本とこのアルバムには間違いなく関係があると思う。直接的じゃないけどね。本を書くのに必要とされた内省が曲に影響をもたらした。音楽へのアプローチの選択にも。このアルバムでの音楽的アプローチは70年代末にやっていた曲を思い出すところが少しある。計画したわけじゃないけどね。


──脱稿後、曲を書けなかった時期があったそうですが。

書けるかどうかわからなかったんだ。4年というあまりに長い間、まったく曲を書かなかったので、またアイデアが生まれてくるか確信がなかった。そこに誘いがきた。カナダの素晴らしい詩人アル・パーディについてのドキュメンタリー映画に曲を書いてほしいと依頼されて承諾した。

これで曲ができれば、僕はやはりソングライターだし、そうでなかったら、今や他の何者かなんだろう(笑)と考えてね。幸いに〈3 Al Purdy’s〉が書けた。久しぶりの曲だった。それからは以前のようにアイデアが浮かぶようになった。曲を書くときは自分で制御できない。感情が高まって、何かを書かなくちゃならないと感じる。その感情をしばらく抱えていると、曲のアイデアが浮かんでくるんだ。


──常にスピリチュアリティへの関心が窺えるとはいえ、80年代以降は外へ目を向けた政治社会的な作品が増え、宗教観が表れた作品は減りました。でも、本作ではまた重要な主題となっています。

それがこのアルバムと70年代の作品とのリンクだね。特に70年代後半にはたくさんのキリスト教に係わる内容の曲があった。孤独を好む内向的な若者として育ち、当時の曲はそれを反映していた。神との個人的な関係とかね。

でも、70年代末に僕の人生に大きな変化が訪れ、人間社会をもっと理解しようとする方向に向かった。はっと気づいたんだよ。キリスト教徒は「汝の隣人を愛せよ」と教えられるけど、隣人のことを知らなかったら、彼らを愛せないし、その教えは意味がないだろう? 

それで、何が人びとに動機を与えるのかに興味を持ち、自分を社会の一員として考えることになった。その過程で、神との関係が弱まっていった。完全に離れたわけじゃなかったけど、もっと興味深く、重要なのは、人びととその行動について書くことだと考えた。

そして、そこにスピリチュアルなつながりを見つけようとした。(96年のアルバムの表題曲)〈The Charity of Night〉とそのアルバムに入っている〈Get Up Jonah〉など、たくさんの曲にもスピリチュアルな観念はあったけど、それらの曲が表現していたのは問いかけで、答えではなかった。でも、今再び神との関係に焦点が戻ってきたんだよ。


──本作ではそういった問いかけと、教会の合唱隊も加わっての信仰の肯定と2つが均衡をとっているように思えます。

このアルバムには2曲の「神について」の曲がある。〈Jesus Train〉と〈Twelve Gates To The City〉で、後者は伝統歌に歌詞を書き加えた。それらにはとても明確なキリスト教への言及があるね。

〈Forty Years In The Wilderness〉(*曲名はキリストの荒野の40日をもじったもの)も本の執筆でその年月を振り返ったことを反映しているけど、最近の出来事にも関係がある。覚醒なんて言うと、うぬぼれたふうに聞こえるけど、僕の何かが変わったんだ。

人生のスピリチュアルな面を日常からかけ離れたものと考えずに、もっと注意を払うべきだし、十分に注意を払っていないと気づいた。その変化が僕にとって非常に重要なものとなった。神との関係はいつだって僕の人生と僕の作品に普通にあるものだったけど、今はもっと意識的になったし、もっと明らかだね。


──現代の日本という宗教を信仰する人が非常に少ない国の聴衆に、そういったスピリチュアルな関心についての曲を歌うとき、何を伝えられると思いますか?

広い視野でみれば、スピリチュアリティにどのようにアプローチするかはそんなに重要じゃないと思う。重要なのは人生にはスピリチュアルな面があると認識して、それに注意を払うべきということ。だから、そのことを聴衆に伝えられ、それが彼らにとっても興味深いなら、それでいいんじゃないかな。

僕は宮沢賢治の詩のすごいファンだ。もし日本でスピリチュアリティへのアプローチの模範を探すなら、彼になるかもしれない。彼の詩には仏教徒としての見方が強く表現されているね。全世界的に物質至上主義的な傾向がある。そして僕らはその代償を払っている。でも、神の存在を認めるだけでは答えじゃない。重要なことは、その本質を理解すること、僕ら各々がその宇宙の本質のようなものと関係を持つことだと思う。


──新作にはもちろんジャズの要素もあるんですが、全体としてフォーキーなサウンド、そしてブルーズへの回帰を発見できますね。

それは曲を書くときから意図的だった。〈Cafe Society〉はブルーズぽい曲にしようとねらった。でも、そういった要素は僕の音楽に常にあるんだよ。80年代にはあまり明白じゃなかったが、ブルーズへの愛情が遠ざかったことは一度もない。

ジャズもそうさ。自分をジャズ・ミュージシャンとは考えてはいないよ。そう言えるほど優れたミュージシャンではないから。でも、自分の音楽にその要素をとりこめるくらいのミュージシャンではある。僕の愛する音楽だからね。

*これは謙遜が過ぎるだろう。70年代末に欧州ジャズの名門ECMレコードが契約を申し出たほどなのだから。

──アルバムのタイトルは指の関節炎に言及しているんですって?

(笑)誰でも年をとると経験するけど、ギタリストの場合は、長い年月の間に手を痛めてしまう。指の関節の調子が良くないんだ。


──でも、相変わらず見事な演奏ですよ。

ありがとう。なんとかやれているけど、関節に軟骨があまり残っていないので、演奏するのはきつい。だから、ギターのインストの曲名には皮肉ぽくてユーモラスだと思った。そしてアルバムのタイトルにも良いと思ったのさ。


──今や70代ですが、小さなお子さんがいるから、隠居生活は当分お預けですね。

もう引退はできないね(笑)。次に考えているのは、新たなインスト・アルバムなんだ。数年前に「Speechless」を出したけど、あれは既発表の録音に新曲を加えたものだった。あれの続編だね。古い録音も幾つか入るけど、今回は大半が新曲になるよ。


──今の政治状況に刺激されて、曲がたくさん生まれませんか?

彼(トランプ)についての曲は書きたくない。彼はもう充分な注目を集めているから。でも、結局は僕の言いたいことを曲にすることになりそうだ。確かに今の社会をめぐってたくさんの感情がある。人生で出会うもののもたらす感情の容量がその創作の過程を進行させる。だから、何かが生まれるだろう。


──さて、日本公演はどういったものになります?

まだ考えているところなんだけど、古い曲と新しい曲のミックスになるよ。今回は僕とギターだけのソロ・ショウだけど、僕のあらゆる面が聞けると思う。


【ブルース・コバーン公演情報】
ビルボードライブ東京
9/29(Sat)1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
9/30(Sun)1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
Service Area : ¥7,900 / Casual Area : ¥6,900
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