月刊キヨシ

すりかえられた戦争~映画 「M★A★S★H」から生まれた名曲

2014.10.30

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気合を入れて見ていたはずの映画だったが、勘違いはあるものだ。

「マッシュ」という作品をベトナム戦争を題材とした作品だと、なんとなくきめこんでいた。朝鮮とベトナムの戦争をとり違えていたのだ。

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前線から5キロの、「Mobil Army Surgical Hospital」(移動野戦病院)が舞台で、そこに飛来するヘリがファースト・シーン。
どうも景色がおかしい。ベトナムにこんな山渓があったろうかと思った記憶がある。

実際のロケ地は西海岸で、もともと架空の場所が選ばれている。
もっというなら、兵隊たちのロング・ヘアがまずありえない。朝鮮戦争の時代、兵士はひとり残らずクルー・カットだったはずなのだから。

MASH-1

たねあかしをしてしまうなら、この映画は、ベトナム戦争を描く狙いで、題材を朝鮮戦争からとった作品だったのである。
公開は1970年。「ウッド・ストック」の翌年である。ベトナム反戦運動はピークにあり、そんな時、ベトナム戦争のパロディなど公開できる見込みはない。

監督はアンチ・ハリウッドの総師と呼ばれるロバート・アルトマン。ひとすじ縄ではいかない映画作りの天才。
戦闘シーンひとつなく、野戦病院の日常だけで戦争を描ききることで、意図的にふたつの戦争をすりかえてみせたのだ。

とぎれなく病院に運びこまれてくるのは、瀕死の兵士たちばかり。戦場の「ER」といったところだが、こちらは、救命もヒューマニズムも縁がない。
列をなす手術のノルマに追いたてられるなかで、外科医たちの正気もあやしくなり、モラルもなにもかもけし飛んでいる。

そこに赴任してきた外科医3人組、(エリオット・グールド、ドナルド・サザランド、トム・スケリット)が、さらなるハチャメチャな騒動をまきおこす。そんな筋立てである。

MASH-10807

スプラッター映画さながらの血まみれの手術シーンが続くなか、「ここは戦場なんかじゃない、精神病棟だ」という台詞が効いている。
みな戦争に倦み果てていた。

朝鮮戦争を隠れみのに、ベトナム戦争を描きながらも、パターンは同じ。
宣戦布告もなく、見たこともないアジアの国の民族対立に介入しては同じ過ちをくりかえす。
そして、犠牲となるのは、いつも兵士たちだった。

“どちらの戦争もやっていることは同じ、なにひとつ変わっていない”というアルトマンの痛烈な一撃がきいて、この作品は、1970年、カンヌのパルム・ドール賞をはじめ、ベルリン映画祭、ヴェネチア映画祭で最高賞を総なめにする。
アメリカよりもヨーロッパで圧倒的に支持されたのである。

収穫はそればかりではなかった。
この作品からまるで抒情詩のようなテーマソングが生まれた。
声高でなく、まるで語りかけるようで、どこかさめきったバラード「Suicide is painless」は、いつまでも胸にしみる。

一説によると、この歌を書いたのは、アルトマン監督の息子。しかも14歳のときに書いた詩であるという。
もしそれが本当なら、この映画にはふたりの天才がいたということになる。

朝早くの霧ごしに僕は見た
物事のあるべき姿を
僕のために準備されている苦痛を
このことは僕にも分かるし、理解できる
自殺は苦しくない
いろいろ気分転換にもなる
それにやるかやらないかは自分次第



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