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ボブ・ディラン~年配のジャズ・シンガーから受け取った天啓

2014.08.19

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1985年9月、ウィリー・ネルソンやニール・ヤングらによって開催された、農家を支援するチャリティー・コンサート、ファーム・エイド。
そこで共演したボブ・ディランとトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは意気投合し、翌1986年からツアーで一緒に回ることになる。

しかし、トムのパフォーマンスが絶好調の一方で、ディランは引退を意識するほど自信を失っていた。
どう頑張ってもトムとの差を埋めることが出来なかったという。

自作の曲が遠いものとなり、わたしは曲が持つ本質的な力を刺激して生かす技術を失い、上っ面をなぞることしかできなくなっていた。もうわたしの時代は終わった。心のなかでうつろな声がして、引退してテントをたたむのが待ち遠しかった。(「ボブ・ディラン自伝」より)


そんなディランが力を取り戻したのは1987年7月。
トム・ペティとのツアーの間に組まれた、グレイトフル・デッドとのツアーでのことだった。

スタジオでリハーサルをしていると、デッドのメンバーからディランの曲でやりたいのがあると何曲か提案された。
膨大な数の曲を録音してきたディランだが、当時レパートリーとして歌えるのは20曲程度しかなかった。それ以外の曲はあまりよく憶えていないし、どう歌えばいいのかも分からなかった。
リクエストを断ったディランはいたたまれなくなり、ホテルに忘れ物をしたと言ってスタジオを出る。

通りを歩いていると、ジャズの演奏が聴こえてくるバーがあった。
他に行くあてのなかったディランはそのバーに入ると、ステージでは年配の男が歌っていた。
リラックスして自然な力で歌う男の歌に、ディランは天啓ともいうべき何かを感じた。

わたしはこれまで経験したことがないほど素早く、それを理解した。どんなふうにして彼が力を得ているのか、そのために何をしているのかを感じとった。わたしはその力がどこから来るのかを理解した。


それはかつて自分も自然にやっていたことだったという。
今でもまだ出来るのか試したいと思ったディランは、何事もなかったかのようにスタジオに戻ると、リハーサルを再開する。
メンバーからリクエストされていた曲も取り上げることにした。

グレイトフル・デッドとステージに上がったディランの歌に、もう迷いはなかった。

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