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世界中にボサノヴァを広めたアルバム『ゲッツ/ジルベルト』から生まれたコンサート

2015.10.20

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作曲家の中村八大が家族とともにニューヨークへと移住したのは、1964年の8月が終わろうという頃だった。

坂本九が歌った「上を向いて歩こう」が「SUKIYAKI」のタイトルで全米1位を記録し、世界的なヒットとなって押しも押されぬ人気作曲家となった八大だが、あまりにも仕事に追われる日々から逃れるように、日本を離れて家族とともに1年間の充電期間を作ったのである。

それからはエンターテイメントの本場でコンサートホールやジャズクラブ、ライブハウスに通いつめて音楽三昧の日々を送りはじめる。
なかでも世界有数のコンサート会場、カーネギーホールへは毎週のように足を運んだ。

10月9日はジャズ・ミュージシャンのスタン・ゲッツと、ボサノヴァの創始者とされる作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビン(愛称トム・ジョビン)と、歌手のジョアン・ジルベルトによるコンサートだった。


カーネギーホール

1950年代末にブラジルで生まれた「ボサ・ノヴァ(新しい波)」は、60年代になってから海を超えてニューヨークの音楽ファンの間に広まり始めた。

伝説のピアニスト、セロニアス・モンクはボサノヴァについて、「ニューヨークのインテリたちの音楽、ジャズに欠けていたものをもたらした」と語っている。
ジャズ・ミュージシャンたちにとって、ボサノヴァは新鮮かつ想像力を刺激するものだった。

最初にブラジルからミュージシャンを招いて、ボサノヴァ・コンサートがニューヨークで催されたのは1962年11月21日のことだ。
その夜はジョアンとトム・ジョビンのほか、セルジオ・メンデス、カルロス・リラなど、ブラジルを代表するミュージシャンが集まった。

本物のボサノヴァが初めて演奏されるということで、会場となったカーネギーホールはソールドアウトになった。
スタン・ゲッツやマイルス・デイヴィスをはじめとして、多くのミュージシャンたちが観客として足を運んだ。

しかしブラジルからやって来た出演者たちに、不安要素がないわけではなかった。
ニューヨークの観客が普段耳にしているボサノヴァは、主にアメリカのジャズ・ミュージシャンたちが演奏したものだ。
つまりはボサノヴァの要素を取り入れたジャズであり、純粋なボサノヴァが受け入れられるという確証はどこにもなかった。

だがそんな不安はまったくの杞憂に終わり、コンサートは拍手喝采に包まれて大成功となった。



この成功によってジョアンは名門ジャズ・レーベル、ヴァーヴとの契約が決まり、1963年の3月にスタン・ゲッツとの共作『ゲッツ/ジルベルト』がレコーディングされた。
ところがスタジオではジョアンがゲッツとそりがまったく合わず、トム・ジョビンのとりなしで何とか無事に終えたような状態だった。
ヴァーヴのプロデューサーだったクリード・テイラーは、しばらく様子を見ながらリリースの時期を待った。

それから1年が過ぎた1964年4月、アルバムがリリースになると大きな反響を呼んでヒットを記録する。
テイラーは「イパネマの娘」をシングル・カットするにあたって、5分以上あった曲をゲッツやジョアンに無断で編集して、ラジオ向けの2分48秒に縮めた。
その狙いが的中して
アストラッド・ジルベルトが歌った「イパネマの娘」は最終的には200万枚を超える大ヒットになった。

ゲッツジルベルト

アメリカにおけるボサノヴァ人気は誰の目にも明らかなものとなり、ジョアンは10月にゲッツとの共演でカーネギーホールの舞台に立つことになった。

コンサートはアルバム『ゲッツ/ジルベルト』とは違って、前半がスタン・ゲッツ・カルテットのジャズ、後半がジョアンによる弾き語り中心のボサノヴァという構成だった。
そして最後にアストラッドが登場して、「イパネマの娘」を歌って3者の共演が実現した。

その夜のライブは『ゲッツ/ジルベルト#2』というタイトルでアルバムになった。
だが録音に問題が生じて、A面は若き日のゲーリー・バートンを加えたスタン・ゲッツの演奏、B面がジョアン・ジルベルトで、3者の共演は収録されなかった。(注)

しかしジョアンの歌と演奏は、ライブはメロディとリズムだけでなくハーモニーやグルーヴもふくめて、声とギターだけで完璧な音楽空間を作り出している。

1961年にブラジルに行ったことがある中村八大はボサノヴァに関心を持っていたが、その夜の一部始終を見て大いに満足したようだ。
当時の日誌には、「Very good ソフトでとてもよかった」と書き残している。


ゲッツジルベルト2


(注)後にCD化された際には収録時間の問題と、録音状態の悪さからレコードに収録されなかった部分、アストラッドが登場して共演した「イパネマの娘」もボーナス・トラックとして日の目を見た。
そこでは人気が急上昇していたアストラッドの歌声も聴くことができ、半世紀以上も前の歴史的な夜にタイムスリップして楽しむことができる。




スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト『ゲッツ/ジルベルト#2+5』
Universal

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