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ロンドンで活路を見出したブライアン不在のビーチ・ボーイズ

2016.05.17

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現在ではブライアン・ウィルソンの最高傑作との呼び声も高いビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』。
ビートルズの『ラバー・ソウル』に刺激を受けて作ったというこのアルバムは、それまでのノリのいいサーフ・ミュージックとは正反対で、ブライアン個人の内省的な世界観が前面に押し出された作品だった。



だが発売された1966年当時は自国アメリカの大衆に受け入れられず、セールス的には不振に終わってしまう。
そして「グッド・ヴァイブレーション」のヒットを最後に、アメリカにおけるビーチ・ボーイズの人気は急激に失速していくのだった。
1964年に飛行機で神経衰弱となってからツアーに参加せずレコーディング作業に専念していたブライアンだが、この頃から奇行が目立つようになって次作『スマイル』は製作途中で頓挫、ほとんどバンド活動に参加せず隠居生活に入ってしまう。
ビーチ・ボーイズは先行きが見えない中、復活の活路を模索していくのだった。
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一方で、アメリカと真逆の結果となったのがイギリスだ。
『ペット・サウンズ』はポール・マッカートニーらミュージシャンをはじめとして、音楽批評家からも高い評価を受けた。
アルバムは全英チャートで2位にまで登りつめ、NME紙の人気投票ではビートルズをも抜いて堂々の第1位となる。
1968年にリリースしたシングル「ドゥー・イット・アゲイン」も全英チャート1位を獲得、イギリスにおけるビーチ・ボーイズの人気は確固たるものになり、イギリス・ツアーは毎回好評を博した。

そんなコンサートの一部始終を収めたのが1970年にリリースされた『ビーチ・ボーイズ’69 ライヴ・イン・ロンドン』だ。
日付は1968年12月8日。ロンドンの閑静な公園、フィンズベリーパークに集まった熱狂的な観衆を前に、レコードよりもずっと力強くてキレのあるサウンドで次々とヒット曲を演奏していく。



初期の軽快なサーフ・ミュージックともブライアンの世界とも違う、ライヴ・バンドとしてのビーチ・ボーイズの魅力が詰まったこのレコードは、1970年にイギリスで発売されると評判となり、日本、フランス、ドイツ、フランスでもリリースされることになった。

しかし、母国アメリカで発売されたのは、5年もの月日が過ぎた1976年のことだった。
それはツアー・バンドとして地道に人気を回復していった彼らの努力が、ようやっと実を結んだ瞬間ともいえる。

US盤のジャケットにはメンバーからブライアンへこんなメッセージが書かれている。

Wish You Were Here!
あなたがここにいてほしい


liveinlondon

それは前年にピンク・フロイドが発売したアルバムのタイトルであり、共感覚で苦しみながら隠居生活を送るバンド・メンバー、シド・バレットに送った言葉でもある。
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もしかしたらビーチ・ボーイズのメンバーは、ブライアンにシドを重ねてこの言葉を送ったのかもしれない。



ビーチ・ボーイズ『ビーチ・ボーイズ’69(ライヴ・イン・ロンドン) 』
EMIミュージック・ジャパン

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