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歌い継がれるシェナンドー・前編〜その川の源流はネイティブアメリカンの心に

2021.05.15

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美しい写真の裏に隠された白人とネイティブアメリカンの黒歴史(CINRA.NETより)
15世紀末、コロンブスの新大陸発見以来、ヨーロッパから移住してきた白人とアメリカ先住民は大小の衝突を繰り返してきたが、1830年に「インディアン移住法」が可決されてからの約100年間は、先住民たちにとって真に苦難の時代だった。大陸南部を中心とした故郷の大地を奪われ、西部への強制移住を余儀なくされた。その道程で各部族は分裂し、多くの血が流れた。豊かな自然とともに生きる先住民の文化は、近代化の影響を受けて徐々に失われつつあった。19世紀を通じて多くのアメリカ先住民を迫害・殺戮した白人社会は、20世紀前半において今度は彼らの文化や伝統を消失させようとしていたのである。

♪「Shenandoah」/トム・ウェイツ&キース・リチャーズ


これまで幾度かの共演を果たし、現在もお互いにリスペクトしあっているというトム・ウェイツとキース・リチャーズ。
彼等の共演作と云えば…トムの名盤『Rain Dogs』(1985年)にキースがギタリストとして参加したことや、そしてストーンズのアルバム『Dirty Work』(1986年)の「Harlem Shuffle」あたりが有名なところだろう。
2013年2月、ジョニー・デップが中心となって制作した“船乗り歌”コンピレーションアルバム『Son of Rogue’s Gallery: Pirate Ballads, Sea Songs and Chanteys』がリリースされた。
そこには二人を筆頭に、イギー・ポップ、パティ・スミス、ショーン・レノン、ポーグスのシェーン、マリアンヌ・フェイスフル、トッド・ラングレンなど豪華な面々が参加している。
その中でもこの「Shenandoah」を歌う二人が、何とも強烈な存在感を醸し出している。

おお、シェナンドー 逆巻く川よ…
おまえのもとを去ってはいるが おまえを忘れたりしない
おまえを最後に見てから7年の月日が流れた…


この曲は、様々な時代、様々な歌手によって唄われてきた。
それは19世紀前半から唄い継がれている民謡で、アメリカ大陸を流れるシェナンドー川にまつわる歌だ。
ヴァージニア州周辺で川を行き来する貿易船の舟歌(river chantey)として歌われていたという。
この曲の歌詞には様々なバリエーションが存在する。
ネイティブアメリカンの言葉で「星の娘」という意味を持つこの“Shenandoah(シェナンドー)”。
時にイロコイ族の酋長の名前であったり、ミズーリ川の愛称であったり、大草原を意味する言葉“Skahentowane”に由来するものなど諸説がある中で、元来はインディアンの間で語られてきた“シェナンドー川創造の伝説”に登場する「星々の美しい娘」という意味を持つ言葉だと云われています。

そのルーツをさかのぼれば…こんな“歌の源流”に辿り着く。
1830年ジャクソン大統領が“インディアン強制移住法”を制定し、東海岸に住むネイティブアメリカン達はアメリカに入植した白人に追われ、西へ西へと追い立てられるように移住しなくてはならなかった。
ミズーリ川を境に西の果ての砂漠に連行されたりもする中、彼等は1,300kmの陸路を歩かされ、1万2千人のうち8千人が亡くなったと云う。
「もう一度、シェナンドー川の流れを聞きたい」という悲痛な想いを持っていたネイティブアメリカン達に共感した人たちが、この曲を“舟唄”として残したという説があるのだ。


アメリカの大衆の心を歌い続けるスプリングスティーンが、メッセージフォークの巨匠ピート・シーガーが手がけた名曲の数々をカヴァーしたアルバムの中で、この曲を取り上げている。
♪「Shenandoah」/ブルース・スプリングスティーン&ザ・ シーガー・セッションズ・バンド




【後編〜もう一つの流れを辿るとアイルランド系移民の心に】
http://www.tapthepop.net/news/19977

『Son of Rogue's Gallery: Pirate Ballads, Sea Songs and Chanteys』

トム・ウェイツ、キース・リチャーズ、イギー・ポップ、パティ・スミス、ショーン・レノン、ポーグスのシェーン、マリアンヌ・フェイスフル、トッド・ラングレン他
『Son of Rogue’s Gallery: Pirate Ballads, Sea Songs and Chanteys』

(2013/Anti)


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