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岩谷時子を偲んで〜初めての訳詞経験、あの「愛の讃歌」の誕生秘話〜

2015.10.25

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昭和の日本音楽史において“女性作詞家のパイオニア”と呼ばれた岩谷時子。
彼女は「日本のシャンソンの女王」と称された越路吹雪の盟友であり、マネージャーでもあり、越路が歌うほぼ全てのレパートリーの訳詞・作詞を手掛けた。
その生涯を越路と共に歌に捧げた彼女の“創作のきっかけ”となったのは…1952年の9月の出来事だった。
日劇のシャンソンショー『巴里の唄』に出演予定だった二葉あき子が、喉を痛めて急に休むことになり、急遽その代役として越路吹雪が出演することが決まったのだ。
しかも、舞台のトリ(最後)を飾るという大役で。
本番まで1日しかないという状況の中で、彼女は自ら訳詞を手掛けなければならない事態を迎えたのだ。
その切羽詰まった状況で書いた訳詞が「愛の讃歌」だった。
それは、彼女にとって初めての訳詞経験となった。

この日本語歌詞の内容は、原詞とまったく異なっていることでも知られている。
エディット・ピアフのオリジナルでは壮絶で背徳的な大人の愛が描かれていた。
「愛のためなら宝物を盗んだり、国や友を裏切り、笑われたって何でもする」という原詩を忠実に訳したのでは、日本人の感覚にそぐわないという演出家の判断もあり、彼女は華やかなシャンソンショーのフィナーレを飾るにふさわしい、一途な愛を貫く女性の歌へと意訳したのだ。


当時のことを彼女はこう振り返っている。
「なにしろ急なことでしょ。指揮することになっていた黛(敏郎)さんに、稽古場でオルガンを弾いてもらって、なんとか歌詞を当てはめていったの」
演出家の意を汲みながらも、彼女は今まで日本の歌にはなかったような、情熱的で大胆な“愛の表現”に挑んだのだろう。
まばゆいスポットライトを浴びてスターへと昇り詰めてゆく越路吹雪をイメージしながら…

岩谷時子(いわたにときこ)
1916年3月28日生まれの作詞家、詩人、翻訳家、歌手・越路吹雪の盟友(マネージャー)としても知られる。本名、岩谷トキ子。
1939年に宝塚歌劇団の出版部に就職。友人で宝塚スターだった越路が1951年に退団して東宝の専属女優になった際に一緒に上京。1980年に越路が亡くなるまでの約30年間、無償でマネージャーをつとめた。
訳詩・作詞の道に入ったのは越路が歌う外国曲(主にシャンソン)を訳したのがきっかけ。「愛の讃歌」「サン・トワ・マミー」などは越路吹雪の代表曲として親しまれた。1964年にはザ・ピーナッツなどが歌った「ウナ・セラ・ディ東京」や、1966年に加山雄三「君といつまでも」で日本レコード大賞作詩賞を受賞。その他、ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」、ピンキーとキラーズ「恋の季節」、郷ひろみ「男の子女の子」など数多くのヒット曲の作詞を手掛ける。ミュージカルの訳詩も多く、代表作に「ジーザス・クライスト=スーパースター」「王様と私」「レ・ミゼラブル」など。訳詩の功績で1979年度の菊田一夫演劇賞特別賞、2006年に渡辺晋賞の特別賞を受賞。
2013年10月25日、肺炎のため東京都内の病院で逝去(享年97)。

【代表作品】
「愛の讃歌」越路吹雪(マルグリット・モノー)
「ラストダンスは私に」越路吹雪(ドク・ポーマス、モート・シューマン)
「サン・トワ・マミー」越路吹雪(サルヴァトール・アダモ)
「ろくでなし」越路吹雪(サルヴァトール・アダモ)
「枯葉」越路吹雪(ジョゼフ・コズマ)
「バラ色の人生」越路吹雪(ルイ・グリェーミ)
「雪が降る」越路吹雪(サルヴァトール・アダモ)
「ミロール」越路吹雪(ジョルジュ・ムスタキ)
「マイ・ウェイ」尾崎紀世彦(クロード・フランソワ、ジャック・ルヴォー、ポール・アンカ)
「アメイジング・グレイス」本田美奈子(ジョン・ニュートン)

<公益財団法人・岩谷時子音楽文化振興財団>
http://www.iwatanitokiko.org


■引用元・参考文献『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』(2014/集英社)


『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

(2014/集英社)
■今や世界第2位の巨大音楽市場を抱える日本で、本当に愛される「うた」は何か?
社会背景とうたから見えてくる日本の姿。戦後の流行歌~J-POPまで日本の音楽を網羅しながら、文化的な観点で読み解く初の一大音楽通史。 アーティストの証言や豪華執筆陣によるオムニバス構成で綴る日本音楽史の貴重な資料!



越路吹雪『愛の生涯』

越路吹雪『愛の生涯』

(2005/EMIミュージック・ジャパン)


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