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アニメ作品が生んだ名曲たち「鉄腕アトム」〜作詞者・谷川俊太郎の戸惑いと驚き〜

2015.11.22

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♪TVアニメ版の第一話:オープニング主題歌に歌詞がついていないバージョン


これは“漫画の神様”と呼ばれた手塚治虫の代表作『鉄腕アトム』が、1963年にTVアニメ版として登場した当時の話である。
初回放送には歌詞が間に合わずに伴奏だけのバージョンが流れてており、第10話くらいから歌詞付きの歌に差し替えられたというから驚きだ。
昭和生まれの世代ならば、このメロディーを“耳にしたことがない人はいない”といっても過言ではないだろう。
そんな歴史的名曲の作詞を手掛けた詩人、翻訳家、絵本作家、脚本家の谷川俊太郎は、当時のことをこう語っている。

手塚治虫さんご自身から電話がかかってきて、びっくりしたのを憶えています。
『鉄腕アトム』は読んでいました。
歌の作詞にも多少の経験がありましたが、私は漫画やアニメの世界とは畑違いの、現代詩の世界の人間できたから自信はありませんでした。
作曲者の高井達雄さんから譜面とカセットが送られてきて、五線譜に言葉をあてはめてゆく(曲先)の仕事も初めてでしたが、原作のおかげで、作詞は思ったよりも難しくありませんでした。


空を超えて ラララ 星の彼方
ゆくぞ アトム ジェットの限り
心やさし ラララ 科学の子
十万馬力だ 鉄腕アトム


♪谷川俊太郎によって歌詞がつけられたTVアニメ版オープニングバージョン


さかのぼること12年──アトムが手塚マンガに最初に登場したのは1951年のことで、当時は“アトム大使”というタイトルだった。
この時、アトムはまだ主役のキャラクターではなかった。
翌1952年、アトムを主役としたストーリーが漫画雑誌『少年』に連載されると、子供達はたちまち『鉄腕アトム』の虜となる。
そしてテレビの普及に伴って、1963年にフジテレビがアニメ版の放送を開始する。
国産アニメとしては、これが日本で初めてのTV作品だったという。
製作費を可能なかぎり削減するために手塚治虫が編み出したアニメ制作手法は、その後のアニメーション業界のあり方を大きく変えてゆくこととなる。
当時、アトム以前のアニメといえば一コマ一コマが全て独立した画材だったのだが、手塚は画面の中の動いている部分だけに着目し、動いていない部分は共有させた。
その効果は経費削減だけでなく、画面に今までになかった安定感をもたらすこととなる。
TVアニメシリーズによって、アトムは一躍“国民的な人気者”となる。
昭和生まれのアトムは、手塚治虫が亡くなった平成元年(1989年)以降も愛され続け…2009年には『ATOM』として、ハリウッド版CGアニメーション映画として世界デビューも果たす。
その誕生から60年以上が経った今も、アトムはテレビCMなどで我々に変わらぬその姿を見せてくれる。

耳をすませ ラララ 目をみはれ
そうだ アトム 油断をするな
心正しい ラララ 科学の子
七つの威力さ 鉄腕アトム


ところで、この歌詞に出てくる“七つの威力”とは、実際にどんな“チカラ”なのだろう?
誕生以来、漫画の中で、そしてアニメ化の度に、その設定が度々異なっているというが…1975年に発表されたダイジェスト版的な単行本『アトム誕生』(朝日ソノラマ)を読むと、こう書いてある。

【最高速度マッハ10のジェット飛行】足の噴射で空や宇宙を飛べる
【人工声帯】世界中のあらゆる言語を自由にあやつり宇宙人とも話せる
【電子頭脳】人間の心の善悪を感じとることもできる桁外れのスーパーコンピューター
【1000倍の聴力】はるか彼方にいる人物を探せたり敵の襲来を察知できる
【サーチライトの目】カメラのように見たものを記憶する機能もついている
【おしりからマシンガン】このマシンガンは生みの親・天馬博士が実装したものではなく、育ての親・お茶の水博士が護身用に追加改造した
【十万馬力のチカラ】後に宿敵プルートと戦う為に百万馬力にバージョンアップをする


アトムに秘められた驚異の“チカラ”を確認したところで、さらに2014年に発売された単行本『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』(集英社)のページをめくってみると、この歌の最大の特徴でもある「ラララ」の部分について、作詞者の谷川がこんなことを語りながら…併せて驚きのエピソードを綴ってくれている。

苦心されたことろは?と人に問われると、言葉がうまくはまらなしところは「ラララ」でごまかしたなどと答えることがありますが、これには話を面白くするためのサービスという一面があります。
歌詞は詩よりも言葉が少なめのほうがいいと考えていたことが基本にありあした。
カラオケで歌われているのを聞くと、「ラララ」でみんな声をはり上げますから、歌には言葉の意味から人を解放する働きがあるのだと思います。
まだ若く収入も少なかったので、作詞料が気になっていたのですが、その話はいっこうに出てきません。
待ちくたびれて、試みに当時放送していた全国のテレビ局の著作権使用料を合算してみたら、なんと一億という数字が出てきたんです。
お金に苦労している虫プロからこんな額をもらう訳にはいかないと思って、思い切って50万円の買い取りでどうか?と提案したら、あっさり払ってくれました。
あとで友人たちに、カンヌに別荘を買い損なったな、などとからかわれましたが。


街角に ラララ 海のそこに
今日も アトム 人間まもって
心はずむ ラララ 科学の子
みんなの友だち 鉄腕アトム


カラオケでアトムを歌って涙ぐむ中高年がいると聞いたことがあります。
子ども時代、青春時代を懐かしむ気持ちなのでしょうが、アトムという存在そのものが、哀しみと言うしかない何かを負っていることを、現代文明を生きる私たちが心のどこかで感じているからではないでしょうか。(詩人・谷川俊太郎)


正義のスーパーロボット、科学万能、明るい未来社会…。
アニメを通じて多くの人がアトムに抱いてきたイメージといえば、こんな感じなのかもしれない。
しかし、手塚プロダクション資料室長の森晴路は「科学礼賛などではなく、むしろ科学万能社会への懐疑といった深遠なテーマが流れている」と話す。
そして1977年、アトムをめぐって手塚治虫が感じていた世間との溝を象徴するかのような出来事が起きる。
原子力発電のPRにアトムが使われたのだ。
手塚は、原発PRにまで利用されたヒーローに、ある種の悲しみを感じていたという。
手塚治虫の長女るみ子は、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故の後に、こう語った。

「幸福のためにあるはずの科学技術が、人のエゴや欲でゆがめられてしまう。アトムはいつもそのはざまで悩んでいるんです。」



<参考文献『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』(2014/集英社)>



『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

『うたのチカラ JASRACリアルカウントと日本の音楽の未来』

(2014/集英社)
■今や世界第2位の巨大音楽市場を抱える日本で、本当に愛される「うた」は何か?
社会背景とうたから見えてくる日本の姿。戦後の流行歌~J-POPまで日本の音楽を網羅しながら、文化的な観点で読み解く初の一大音楽通史。 アーティストの証言や豪華執筆陣によるオムニバス構成で綴る日本音楽史の貴重な資料!

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