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ヴァシュティ・バニアン〜ディランに憧れてミックとキースの楽曲でデビューをした伝説の歌姫

2016.02.28

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ヴァシュティ・バニアンというシンガーソングライターをご存知だろうか?
イギリスのフォークシーンで伝説のごとく語り継がれてきた彼女。
誕生日を明らかにしていない人だが、1945年にイギリスのイングランド北東部にあるニューカッスル・アポン・タイン生まれたということは公表しているので、歳は日本の戦後年数と同じということになる。
現在はスコットランドの首都エディンバラで暮しているという。
このヴァシュティという個性的な名前について彼女はこんなことを語っている。

両親はとてもユニークな名前を授けてくれたと思うわ。
私の兄と姉の名前はジョンとスーザンで、普通のイギリス的名前なの。
ヴァシュティという名前は、聖書に出てくる“気難しい”女性の物語に由来していて、最初は母のニックネームとして、次に父のヨットの名前として、そして最後になぜだか私に名づけられたの。
私のファーストネームは ジェニファーなんだけど、今まで一度も呼ばれたことはないし、いつもヴァシュティだったわ。
私の両親は素晴らしい人たちだった。
ずっと昔に亡くなってしまったけど…もちろん今も、いつも彼らのことを思っているわ。


イギリスのアートスクール在籍時代にアコースティックギターの演奏を習得した彼女は、18歳の時にNYを訪れたときにボブ・ディランのアルバム『The Freewheelin’ Bob Dylan』に衝撃を受けてミュージシャンになる事を決意する。
時は60年代後半。
ビートルズ、ミニスカート、ツィギー、マリー・クワント、ジェームズ・ボンド、カーナビー・ストリート…ロンドンの街は光り輝いていた。
アート、ファッション、ロックを巻き込んだ“スウィンギング・ロンドン”の時代に彼女は彗星のごとく登場した。
1965年、当時のローリング・ストーンズのマネージャーだったアンドリュー・ルーグ・オールダムに見いだされ、ミック・ジャガーとキース・リチャーズによる楽曲「Some Things Just Stick in Your Mind」でデビュー。




当時は“女性版ボブ・ディラン”“第2のマリアンヌ・フェイスフル”などと称されるもセールスは振るわず…彼女はすぐにロンドンの音楽シーンから離れてボーイフレンドと共にスコットランドのスカイ島にアーティスト達が作ろうとしていたコロニーを目指して旅に出る。
その後、2年にも及んだその旅の途中に彼女は自身の言葉とギターで楽曲を書きためていた。
そして1970年、それらをまとめた1stアルバム『Just Another Diamond Day』をリリースする。


しかしプレス数も少なかったその作品はすぐに忘れ去られてしまい、以後、彼女は音楽から遠ざかり子育てを主とした主婦生活送ることとなる。
長い沈黙を経て…彼女の名が再びシーンをにぎわすようになったのは1990年代の終り頃だった。
ある日、彼女はインターネットで自分の1stアルバムに“幻の名盤”としてカルト的な価値がついていることを知り、2000年にCD化しての再発を試みる。
再発盤は大きな賞賛をもって迎えられ、若い世代のアーティストたちが彼女からの影響を公言するなど再評価が高まる中、2005年に35年ぶりとなる2ndアルバム『Lookaftering』を発表。
これをきっかけに、彼女は世界各国でのツアーやラジオやテレビ番組への出演など精力的な活動を行うようになる。
2007年にはデビューシングルやデモを収録した2枚組アルバム『Some Things Just Stick in Your Mind』がリリースされ、2008年にはキエラン・エヴァンス監督による彼女のドキュメンタリー映画『From Here to Before』が上映される。
順調なペースで新作アルバムを作る準備に入るも、共同プロデュースをする予定だった音楽パートナーが亡くなってしまいレコーディングは一時休止に。
しかし、彼女はその後エディンバラの自宅でセルフプロデュースにより製作を続けることを決め、長い創作期間に入る。
そして満を持して2014年に前作から9年ぶりとなる3rdアルバム『Heartleap』を発表しファンを喜ばせた。
翌2015年には、ギタリストを伴っての来日公演も含むツアーを行う。
そんな中、発売元の公式アナウンスを通じて「これが最後のアルバムになるだろう」と本人が語った。
この3rdアルバムを最後に、彼女は本当に姿を消してしまうのだろうか?
リリース時に日本のWEBサイトのインタヴューで彼女は実に正直な言葉で、自身の創作スタイルについて、そして今後の音楽シーンの在り方に対して達観したことを言い切っている。

やめるというか…1枚のアルバムに必要な分だけの曲を書き終えるためには、これから何年もの年月が必要になると思うの。
でも、その頃にはもうアルバムという形式はなくなるんじゃないかと思っているわ。
まあ、誰にもわからないことだけどね。




*ヴァシュティ・バニアン本人の言葉は【ele-king Powerd by DOMMUNE interview with Vashti Bunyan〜旅から歌へ、伝説のフォーク・シンガー、最後のアルバム〜/質問・文:松山晋也 翻訳:赤間涼子】より引用させていただきました。
http://www.ele-king.net/interviews/004146/

ヴァシュティ・バニアンHeartleap』

ヴァシュティ・バニアンHeartleap』

(2014/Yacca)


ヴァシュティ・バニアン『Just Another Diamond Day』

ヴァシュティ・バニアン『Just Another Diamond Day』

(1970/ベル・アンティーク)

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