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マデリン・ペルーの魅力〜アメリカで生まれてフランスの道端でバスキング、トム・ウェイツからビートルズまで“国境やジャンルを越えて”歌いつづける人

2016.04.17

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18歳で名門アトランティックレコードにその才能を見い出され、デビュー後には“21世紀のビリー・ホリデイ”“ポスト・ジョニ・ミッチェル”と呼ばれた女性シンガーソングライター、マデリン・ペルーをご存知だろうか?
明日4月18日、彼女は42歳を迎えるという。
アメリカ出身ながらフランスの道端でバスキングしてきたという“ちょっと珍しい経歴”と共に、あらためて彼女の魅力をご紹介します。

マデリン・ペルー(Madeleine Peyroux)。
1974年、アメリカのジョージア州で生まれた彼女のファミリーネームはフランス系だ。
両親はヒッピー的な精神の持ち主だったという。
母親がフランス人で、父親はかつてフランス領だったニューオーリンズの出身だ。
彼女は幼い頃から父親が自宅で聴いていた古いジャズやブルースを耳にしていた。
一家はカリフォルニアなど転々としながら、彼女が6才の時にニューヨークのブルックリンに移り住み、父親は俳優の道に進む。
13歳のときに両親が離婚したのを機に、フランス人の母親とパリへ移住。
その頃から母にウクレレを習い音楽に目覚める。
15歳で既にパリのカルチェラタン(ラテン語エリアにある学生街)でストリートミュージシャンたちとバスキングをするようになり、翌年にはヨーロッパを旅して廻る。
主にジャズのスタンダード曲を歌いながら、その後も様々な国を転々とし、音楽的才能を開花させていく。

18歳になった彼女に転機が訪れる。
それは名門アトランティックレコードのA&R(アーティストの発掘・契約・育成とそのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当する人)イヴ・ボーヴェとの出会いだった。
1992年のある夜、ニューヨークのクラブで歌った18歳の彼女を偶然見かけたイヴは、当時のことをこんな風に回想している。

「見た目は実年齢より10歳ほど上。歌を聴いたら50歳上のようにも思えたよ。」

約4年後の1996年に、彼女はアルバム『Dreamland』でアトランティックからデビューを果たす。
プロデューサーは、トム・ウェイツやルー・リードなどを手掛けてきたグレッグ・コーエンとイヴの2人。
アルバムの内容は、2曲のオリジナル楽曲と共にパリの路上で歌っていたビリー・ホリデイの「(Getting Some)Fun Out Of Life」をはじめ、ベッシー・スミスの「Reckless Blues」、エディット・ピアフの「La Vie En Rose」、パッツィー・クラインの「Walkin’ After Midnight」といった1920~50年代のジャズやブルース、シャンソン、カントリーなどの名曲のカヴァーが主体だった。



イヴの狙い通り、彼女はデビュー早々から“21世紀のビリー・ホリデイ”と評され、一躍その名を音楽シーンに知らしめる。
だが、その後約6年間ほとんど表舞台には顔を出さず、時々ステージには立つものの自身の名前をメインにしての公演は行わず、レコーディングにおいても他のアーティストの作品に参加する程度だった。
長いブランクを経て、2004年に2ndアルバム『Careless Love』で完全復帰する。
プロデューサーにはジョニ・ミッチェルと強い絆で結ばれているベーシストのラリー・クラインを起用。
1st同様このアルバムでもオリジナル曲は1曲のみを収録し、古くはベッシー・スミスやレイ・チャールズのレパートリーだった表題曲やビリー・ホリデイの「This Is Heaven To Me」、ハンク・ウィリアムズの「Weary Blues」、ボブ・ディランの「You’re Gonna Make Me Lonesome When You Go」、レナード・コーエンの「Dance Me To The End Of Love」などの名曲を哀愁漂うヴォーカルで歌い上げ、再び注目を集め全世界で100万枚以上のセールスを記録する。



その2年後の2006年にリリースされたアルバム『Half The Perfect World』でも、前作同様ラリー・クラインをプロデューサーに起用。
トム・ウェイツの名曲「(Looking For)The Heart Of Saturday Night」やジョニ・ミッチェルの「River」などのカヴァーを収録しながらもオリジナル曲を4曲収録し、ソングライターとしての才能も評価された。



2009年にリリースしたアルバム『Bare Bone』では、彼女がすべての曲の製作に関わり、その類まれなる才能はヴォーカルに留まらないことを証明した。
同作で彼女はアメリカのビルボード(ジャズチャート)にて見事1位を獲得する。
特にジョー・ヘンリー、ラリー・クラインと共同で作った「Love and Treachery」は、“レナード・コーエンが書かなかった曲”と紹介されるほどの高い評価を得た。


続いて2011年に発表したアルバム『Standing on the Rooftop』では心機一転、プロデューサーにノラ・ジョーンズなどを手掛けたクレイグ・ストリートを起用した意欲作となった。
同作ではビートルズの「Martha My Dear」、ボブ・ディランの「I Threw It All Away」、そしてロバート・ジョンソンの「Love in Vain」と、異色のカヴァーを披露している。


さらに2013年には、レイ・チャールズの名盤『Modern Sounds in Country and Western Music』(1962年)を独自の解釈で再構築したアルバム『The Blue Room』をリリース。
レイ・チャールズといえば、ソウルミュージックのカリスマとして不動の地位を築いたが、そのスタイルを確立させるためにブルースの曲にゴスペルやカントリー&ウェスタンの要素を融合させていったことでも知られている。
そんなレイ・チャールズの曲の中に漂うカントリー&ウェスタンのフレーバーを残しつつ見事に“マデリン・ペルー流”に昇華した作品となった。
また同作からシングルカットされたバディ・ホリーのカヴァー「Changing All Those Changes」のプロモーションビデオが“まるで一篇の短編映画を見ているようだ!”という声と共に注目を集めた。


2014年の秋には、20年近いキャリアを2枚組にまとめたオールタイムベスト『Keep Me In Your Heart For A While: The Best Of Madeleine Peyroux』を発表した。
これまでも何度か来日公演を成功させており、日本でも“耳の肥えた”の音楽ファンから愛されている彼女。
その歌声、カヴァー曲のセンス、そしてこれからのTAP the POPをご愛読の皆様に是非おすすめしたいアーティストの一人です♪

マデリン・ペルー『Keep Me In Your Heart For A While: The Best Of Madeleine Peyroux』

マデリン・ペルー『Keep Me In Your Heart For A While: The Best Of Madeleine Peyroux』

(2014/ Concord Music Group, Inc.)

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