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TAP the NEWS

悪魔と深海〜“面倒くさいことこの上ない”未練がましい恋心を歌ったJazzの名曲〜

2017.01.08


君が僕をだましているのは
みんなが知っていることだよ
きっと君はすべて僕が悪いんだと言うだろう
ありふれた手でも君にやられると効くね
こっちが勝手に大きな間違いをしていたのはわかっているけれど…
どうしてまだ君と離れられないのか自分でもわからないよ


こんな未練がましいヴァース(前置き)から始まるJazzの名曲「Between The Devil And Deep Blue Sea」。
邦題では“悪魔と深海”または“絶体絶命”というタイトルがつけられたこの曲。
原題から想像すれば…シチュエーション的には恐ろしい悪魔と不気味な深海の狭間(はざま)にいるのだから、要するに“どっちへ転んでもやっかいなことになる”という絶体絶命な状況なのだろう。
しかし歌詞を読んでみると…いささか肩すかしをくらう内容なのだ。
「浮気が発覚した相手と別れたいが未練があって別れられない」「どうしたらいいんだろう?」と、主人公がただ恋に悩んでいるだけのお話である。
主人公の「僕」は「君が恋しくてたまらないわけではないのだけれども、君を失いたくもない」と、自分勝手なこと言っているだけの男。
そんな状況を、男は「君は僕を悪魔と深海の狭間(はざま)に追い込んで身動きできなくさせてしまった」と、くり返し嘆いているのだ。
さらに歌詞はこう続いてゆく。

君のことを許すよ
どうしても忘れられないから
君は僕を悪魔と深海の狭間(はざま)に追い込んで
身動きできなくさせてしまった

僕のリストから君の名前をバツ印で消すべきなのに
君がやってきて僕の部屋のドアをノックすると
運命の女神が僕の心を揺らすんだ
そして僕はもっと君を求めて
走り寄っていってしまうんだ

君を嫌いにならなくてはいけないのに…
どうにも愛しているみたいだ
君は僕を悪魔と深海の狭間(はざま)に追い込んで
身動きできなくさせてしまった
もう…絶対絶命だね


女性から言わせると“面倒くさいことこの上ない”未練がましい男だろう。
現代社会ではストーカー的発想と言われても仕方ないくらいの重傷だ。
人が誰かに恋をする状態は、一種の病気だという説もある。
脳内の化学物質であるドーパミン・セロトニン・ノルエピネフリンのバランスが崩れ、精神も肉体も、とても正常とは言い難い状態に陥るからだ。
この歌を女性が唄う時には、歌詞の人称は逆転する。
つまり“面倒くさいことこの上ない女”の歌となるのだ。



この楽曲は1931年にニューヨークのハーレムにあったコットンクラブで上演されたレヴュー『Rhythmania』のために作曲家ハロルド・アーレンと作詞家テッド・ケーラーの手によって書かれ、黒人女性ブルース歌手エイダ・ウォードが唄ってヒットとなる。
ハロルドとテッドのコンビは、その前年に「Get Happy」という曲のヒットがきっかけで、コットンクラブの専属作曲家になったばかりだった。
ちょうどその頃、それまで同クラブの専属バンドだったデューク・エリントン楽団がやめて、キャブ・キャロウェイのバンドに代わった時期だった。
彼らは、キャブ・キャロウェイのためにも曲を書いて次々とヒットを飛ばす。
この歌はそんな中でも(当時は)派手に目立った楽曲ではなかったが、後々スタンダードナンバーとして多くのジャズメンや歌手たちに愛され続けることとなる。
あのビートルズのジョージ・ハリスンがカヴァーしているのには、ちょっと深い意味を感じずにはいられない。
パティ・ボイドという一人の女性を通じてエリック・クラプトンと色々あったジョージが唄う“悪魔と深海”は、どうにも切ないのだ…。


<参考文献『いつか聴いた歌』/和田誠(愛育社)>

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