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親友との別れ〜パティ・スミスとロバート・メイプルソープ〜後編

2017.06.11

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1986年、エイズと診断された写真家ロバート・メイプルソープは3年間に渡る闘病の末…1989年3月9日にこの世を去った。享年42だった。
最初の出会いから約22年間、二人の友情は続いていたという。
パティ・スミスはあるインタビューで、当時の二人の出会いをこんな風に表現している。

「それは、コルトレーンが亡くなった夏だった。フラワーチルドレンたちが手のひらを広げた季節。私とロバート・メイプルソープが出会った夏。」

1975年、彼女は遂にチャンスを掴み1stアルバム『Horses』を発表する。
この有名なジャケット写真が撮影された場所は様々なアーティスト達が根城としていたニューヨークのワシントンスクエアにあるペントハウスだった。
そこは、当時同性愛者として新たな人生を歩み初めていたロバートの恋人サム・ワグスタフ(美術コレクター)が所有する部屋だった。


ロバートは自然光を使い、天使の翼のように彼女の肩から逆光が跳ね返るように撮影した。
アイロンのあてられていない白シャツとタイトなジーンズは、70年代当時のキース・リチャーズやボブ・ディラン風の着こなしだった。
そのファッションは明らかに男物だったが、細く長い首、そしてシャツの袖から胸元に伸びる手首や指先は、むしろ“女性らしさ”を強調していた。
アルバムの発売元だったアリスタレコードは、この両性具有的に写ったパティの写真を良しとはしなかった。
アリスタはボサボサの髪の毛をエアブラシで修正することをなど“売るため”の提案をしてきたが、彼女はそれを拒否した。

「この写真はロバート・メイプルソープとの共同作業によってもたらされたものであり、芸術上の決定権は自分にあるのだ。」

その決定権のおかげで、ロバートによるジャケット写真も話題となり、彼女のデビューアルバムは“ロックの名盤”として今日まで高い評価を受けている。
『Horses』リリース以降、好調に数枚のアルバムを発表する中、1980年に彼女はフレッド・スミス(MC5のギタリスト)と結婚し音楽活動を休止した。
ほどなくして彼女が新たな子供を授かったその時、ロバートがエイズに感染したことを知らされたという。

「ロバートは私の40歳の誕生日の写真を撮ってくれたわ。カリフォルニアのバーバンクで陽光の降りそそぐ中、お腹にあと3ヶ月で産まれてくるジェシーがいる私が三つ編みをしているところを彼は撮影したの。その時の写真がそのままアルバムのジャケットになったわ。」


それは1987年の出来事だった。
彼女は5thアルバム『Dream Of Life』のレコーディングの途中、久しぶりにロバートと再会を果たした。
その時の様子を彼女は鮮明に憶えていた。

「撮影の数日後、彼は“The Jackson Song”のレコーディング中にスタジオにやってきたわ。身体の調子がよくなく、ミキシングルームの長椅子に寝そべっていわた。リチャード(キーボード)がグランドピアノに着くと、私はその前に座った。その歌は私が幼い息子のために書いた曲。私達は2度演奏したわ。2回目のテイクが最高の出来だった。演奏し終わるとリチャードは私を見ながら微笑んでいたわ。そしてガラス越しにロバートに目をやると…彼は幸せそうな様子で眠っていたわ。その横でフレッドが立ったまま声もなく泣いていたのを今でも憶えてるわ。」


小さな青い夢を見る者よ…お眠りなさい
目を閉じて、深みを呼び寄せましょう

いつかあなたが行ってしまうとき
私達はついていく
あなたの行くところ…あなたの気の向くままに


「そして次の冬、ニューヨークにあるロバートのスタジオで私達一家の写真を撮ってもらったの。その家族写真がロバートに撮ってもらった最後の写真となった…。」

1989年3月9日、写真家ロバート・メイプルソープは3年間に渡る闘病の末この世を去った。享年42だった。
1993年、彼女はエイズ・チャリティ団体を支援するためのコンピレーションアルバム『No Alternative』に参加し、「Memorial Song(思い出のために)」という歌をロバートに捧げた。


小さなエメラルドの魂よ
小さなエメラルドの目よ
小さなエメラルドの小鳥よ
さよならを言わねばならない



<引用元・参考文献『パティ・スミス完全版』パティ・スミス (著)、 東 玲子 (翻訳) 河出書房新社>
<引用元・参考文献『ジャスト・キッズ』パティ・スミス (著)、にむらじゅんこ/小林薫 (翻訳) 河出書房新社>

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