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防人の詩〜さだまさしが万葉集を基にして紡いだ究極の反戦ソング

2017.10.08

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おしえてください
この世に生きとし生けるものの
すべての生命に限りがあるのならば
海は死にますか 山は死にますか
風はどうですか 空もそうですか
おしえてください

私は時折苦しみについて考えます
誰もが等しく抱いた悲しみについて
生きる苦しみと 老いてゆく悲しみと
病いの苦しみと 死にゆく悲しみと
現在の自分と


隣国の脅威、テロの恐怖、大国どうしの駆け引き…私たちが今ニュースや新聞で見聞きしている出来事は日々きな臭くなる一方です。
我々人間は、様々な過ちや悲劇を繰り返してきた歴史から何を学んできたのでしょうか?
尊い命、そして平和への想いを込めて…今日は、さだまさしの名曲「防人の詩」をご紹介します。
この歌は日露戦争の旅順攻囲戦における日露両軍の攻防を描いた東宝映画『二百三高地』の主題歌として1980年7月10日に発売された。
海、山、空、季節、そして人間…すべてのものに宿る生命の限り、命の尊さを切々と歌い上げたその歌詞は奈良時代の末期に成立したと言われている『万葉集』の第16巻第3852番に基づいて作られたという。

鯨魚取 海哉死為流 山哉死為流 死許曽 海者潮干而 山者枯為礼

鯨魚(いさな)取り 
海や死にする 
山や死にする 
死ぬれこそ 
海は潮干て 
山は枯れすれ


(大意:海は死にますか?山は死にますか?いいえ、海も山も死にます。死ぬからこそ潮は引き山は枯れるのです)

この曲を発表した当時、さだはまだ28歳だったというから驚きだ。
「〜は死にますか」と何度も繰り返し問いながら悲痛な想いを歌ったその曲は、幅広い年齢層に感銘を与え、オリコン最高順位2位、1980年度オリコン年間順位18位という記録を残した。
映画の中で効果的に使われ多くの感動を呼んだこの歌。
さだ本人は“反戦ソング”として創作したものだったが… 映画の内容を「どんなに犠牲が出ても自衛のために開戦はやむを得ない、悲惨な戦争だったが結果は勝利だ」と解釈する人もいて、ある方面からは「これは戦争肯定映画だ!」という風評が公開前から広まってもいたという。


映画の内容は、あくまで戦争に突き進んでしまった当時の風潮を描いたのであって、それが正当とした当時の政治について肯定などしておらず、むしろそうした時代や体制に対して批判の意図が込められていた。
しかし、歌がヒットすると同時に「さだまさしは右翼歌手だ!」とバッシングを受けることとなる。
さだはあるインタビューで当時を振り返って、こんな言葉を残している。

「あの歌は、人間の命の尊さや愛おしさを歌いたかったんですよね…。それを逆説的に映画の殺戮シーンで歌えば上手く伝えられると思ったんです。ところが一部からは浅い理解でしか取られませんでした。だったら“戦争反対”とストレートに歌った方がいいのかな?とも思いましたが…それでは僕の美学が許さないんです。だから、あの事に関しては“美学の違い”としか言いようがないんですね。僕は理論武装してまで歌を作りたくはないですし、歌ってそんなもんじゃないと思うんです。」

答えてください
この世のありとあらゆるものの
すべての生命に約束があるのなら
春は死にますか 秋は死にますか
夏が去る様に 冬が来る様に
みんな逝くのですか

わずかな生命のきらめきを信じていいですか
言葉で見えない望みといったものを
去る人があれば 来る人もあって
欠けてゆく月も やがて満ちて来る
なりわいの中で


──曲の題名に使われたこの“防人(さきもり)”という言葉。
歌詞の中に一度も登場させないところに、さだのこだわりを感じずにはいられない。
もともとは岬守(みさきまもり)と呼ばれていたこの防人とは、663年に朝鮮半島の百済救済のために出兵した倭軍が白村江の戦いにて唐・新羅の連合軍に大敗したことを契機に「唐が攻めてくるのではないか?」との憂慮から九州沿岸の防衛のため設置された辺境防備の兵のことである。
彼らの多くは関東や東北から強制的に集めた農民たちだった。
任期は3年だったが延長されることも多く、兵士としての装備や往復の交通費は自前で、さらに留守中の税が軽くなることもなく、農民にとってはとても負担が重く、苦しい強制的な制度(労働)だったという。
『万葉集』には、防人のために徴用された兵や家族が、残された家族の無事を祈る気持ちや家族と離れる寂しさを詠んだ悲しい歌が100首以上収録されており、それらは後に“防人歌”と総称されることとなる。

おしえてください
この世に生きとし生けるものの
すべての生命に限りがあるのならば

海は死にますか 山は死にますか
春は死にますか 秋は死にますか
愛は死にますか 心は死にますか
私の大切な故郷もみんな
逝ってしまいますか


<参考文献『J-POP名曲事典300曲』/富澤 一誠(ヤマハミュージックメディア)>

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