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アメージング・グレイス〜奴隷商人から牧師に転身した男が書いた悔恨と感謝の歌

2021.04.06

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アメージング・グレース(なんと甘美な響きよ)
私のようなろくでなしでさえも、救ってくださった
私はかつて道に迷っていたが、いま見つけ出された
私の目は真実が見えなかったが、今は見える


「最も歌われ、親しまれてきた曲を一つあげて下さい」

アメリカ人にこんな質問をすれば、大半が「アメージング・グレイス」と答えるのだという。
この他にも、ちょっと面白いアンケート記録が残っている。
20世紀最後の発刊あたる1999年12月号の『USAトゥデイ』誌は“次世代のためにタイムカプセルに入れて残しおきたいもの100”を掲載した。
缶切り
チャップリンの映画
ベルリンの壁の破片
小児麻痺ワクチン
バットマンの漫画などがあげられる中に、この曲のタイトルもあったという。
この歌の歌詞は、18世紀の後半にジョン・ニュートンという男が実体験に基づいて書いたものである。
作曲者に関しては「アイルランドかスコットランドの民謡を掛け合わせて作られた」「19世紀に南部アメリカで作られた」など、諸説あるが一般的には“不詳”とされている。また、この歌には“生誕の地”があるという。
ロンドンから北西に向かって列車で40分ほどのところにあるオウルニィという小さな町がある。
この町のセントピーター・アンド・セントポール教会が、この歌が生まれた場所だというのだ。
1773年1月1日、当時牧師だったジョン・ニュートンは教会に集まった信者たちにこの歌を初めて紹介したという。
歌詞は彼が数週間前(1772年の12月中頃)に綴ったものだった。
それまでも彼は、牧師として人々に説教をするときに、自ら作詞した讃美歌を使用していた。
当時の英国の一般的な宗教観からすれば、彼のやり方は必ずしもオーソドックスなものではなかった。
なぜなら英国国教会では、聖書の詩編を一定の韻律に従って歌うことは認めていたが、牧師が自分で作った讃美歌を歌うことを認めてはいなかったのだ。
詩編は神の言葉であり、それが人間の手によって汚されることは“好ましくない”と考えられていたからだ。
ではなぜジョン・ニュートンは自作の讃美歌を作ったのか?
それにはオウルニィで暮らす人々との深い関わりがあった。
オウルニィという町はレース刺繍で有名である。
その技術は16世紀にオランダからイギリスに持ち込まれたという。
その昔、オランダに住むプロテスタント派の人々が迫害された時期があった。
彼らは祖国を追われて英国各地に移り住むようになり…その一部がレース刺繍を“伝統技能”としてオウルニィ周辺で暮しながら細々と生活してきたのだ。
そんな貧しいオウルニィの町には、レース刺繍職人以外にも大工や鍛冶屋や小商いを営む人々もいたが、住民の多くは十分な教育も受けることなく、文字を読めない人が大半だったという。
ジョン・ニュートンは、そんな人達にも聖書の教えを説くために、日曜日の説教に加えて平日にも聖書講義を開催したり、子供を集めて聖書教育も行なっていたという。
当時、彼は友達に宛てた手紙に次のようなことを綴ってる。

「私は毎週子供達と会うことによって多くのことを(自分が)学んでいます。子供達と一緒にいると、身をかがめて自分の伝えたいことを理解されるように努めなければなりません。この子供達に歩みよるためのちょっとした行動・姿勢こそが、大人の関心を引きつけることのヒントにもなったのです。」

彼は常日頃から、誰に対してもわかりやすく聖書の教えを説こうと考えていたのだ。
この「アメージング・グレイス」という歌のルーツ紐解くにあたっては、ジョン・ニュートンという男が(牧師になる前に)奴隷商人だったことを語らなければならない。
なぜならば、その歌詞には彼の実体験が色濃く描かれているからだ。
この曲のタイトルはもともと「Faith’s Review & Expectations(信仰と反省と期待)」というものだった。
歌い出しとなる第一章の冒頭に“Amazing grace!”と出てくるので、いつの間にか曲名として定着していったというのだ。
また、この歌のタイトルから“ある誤解”がよく生まれるという。
“グレース”を女性の名前を勘違いして「アメージング・グレース(素晴らしきグレースさん)」と、解釈している人もいるという。
グレースさんは聖母でもなければ、美しい恋人でもない。
念のために…ここでいう“グレース(grace)”は、恵み、恩恵、感謝、(神の)恩寵といった意味である。


私の心におそれることを教えたのは神の恵みであり
私のおそれを除いてくださったのも神の恵み
神の恵みが如何に尊いかということを確信したのは
私が初めて神を信じたときだった

さて、この「アメージング・グレイス(素晴らしき恩恵)」は、どのようにして誕生したのだろう?
この歌詞はジョン・ニュートンが23歳になる年に、アフリカからイギリスへ帰る船の上で遭遇した大嵐の中での体験を元に書かれたものだと言われている。
1725年、彼は英国ロンドンに生まれた。
父親は商船の船長で母親は幼い頃から彼にに聖書を読み聞かせていたという。
敬虔なクリスチャンだった母親は、彼が7歳の時この世を去っている。
彼は成長すると、父親の歩んだ道に倣って船乗りとなる。
そして色々な船を渡り歩くうちに奴隷売買にも手を染めてしまい…若くして莫大な富を築くようになる。
アフリカで人々を拉致して“奴隷船”と呼ばれる船に乗せる。
白人がおこなった黒人達への扱いは、家畜同様、もしくはそれ以下であったという。
当時は船そのもの衛生状態も非常に悪く、沢山の黒人達が航行中に感染症や脱水症状、栄養失調で命を落とすこととなる。
1748年5月10日、彼にとって人生の転機が訪れた。
船長として乗っていた奴隷船が激しい嵐に遭遇し、遭難沈没の危機に直面したのだ。
彼は今にも沈んでいきそうな船の上で必死に命乞いをしたという。
敬虔なクリスチャンだった母親に育てられながらも、彼が心の底から神に祈りを捧げたのはこの時が初めてだった。
彼の船は奇跡的に難を逃れ…かろうじて死を逃れることが出来たのだ。
彼はこの日を自分で“第二の誕生日”と名付ける。

多くの危険、苦難、誘惑の罠を通り抜けてきた
これまで私が事なきを得て来れたのも神の恵み
そして神の恵みは私を安息の地へ導いてくれる


その後、彼は6年間奴隷船で売買を続けたが…30歳を迎えた1755年に奴隷売買から足を洗った。
そして必死の思いで勉強をし、懺悔の意味もかねて教会に多額の寄付をして…心をあらためて牧師となる。
月日は流れ…1772年の中頃、47歳となった彼は、過去に罪深い奴隷売買に関わったことを深く悔い「こんなろくでなしの自分でも神は赦して下さった」という神に対する感謝の気持ちを込めて一曲の歌を書き上げた。
この歌には、彼の黒人奴隷貿易に関わったことに対する悔恨と、それにも拘らず赦しを与えた神の愛に対する感謝が歌われているのだ。




<引用元・参考文献『アメージング・グレース物語:ゴスペルに秘められた元奴隷商人の自伝(増補版)』ジョン・ニュートン(著)、中澤幸夫 (訳)/彩流社>


こちらのコラムの「書き手」である佐々木モトアキの音楽活動情報です♪
宜しくお願い致します。






【山部“YAMAZEN”善次郎×佐々木モトアキ ダブルネーム弾き語りTOUR
“ちょっと長い関係の歌旅2021”】


2月20日(土)福岡 Bassic.  
2月21日(日)札幌 Beggars Harlem 
2月27日(土)新潟 Live Bar Mush
2月28日(日)下北沢 Laguna(限定20名入場可+配信ライブ)
3月12日(金)久留米 農と音
3月13日(土)熊本・八代 7th chord 
3月14日(日)大牟田 陽炎
3月16日(火)行橋 Memphis
3月18日(木)東広島 pasta amare  
3月19日(金)大阪 新世界ヤンチャーズ
3月20日(土)静岡・御前崎 Cook House椿
3月21日(日)名古屋 ROLLINGMAN
4月3日(土)山形 ヱレキ酒場オリハント 
4月4日(日)秋田 カウンターアクション 
4月8日(木)長崎 R-10 
4月10日(土)和歌山 OLD TIME
4月11日(日)所沢 音楽喫茶モジョ 
4月12日(月)横浜 Bar Take’s
4月15日(木)小郡 ジラソーレ〜8周年記念スペシャルライブ〜
4月16日(金)愛媛 スタジオOWL
4月17日(土)徳島 デラシネ
4月18日(日)高知 A’bar
4月21日(水)福岡 Bassic.(限定15名入場可+配信ライブ+TOUR総括スペシャルトーク&スライドショー)


↓チケットご予約&公演詳細はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12634659162.html






【佐々木モトアキ独り唄いTOUR“歌ものがたり2021”春夏】


5月1日(土)岡山Desperado 
5月2日(日)島根(出雲)Bar Soul  
5月3日(月・祝)鳥取(米子)シンワンメイク
5月4日(火・祝)昼-鳥取(米子)スナックCandy  
5月4日(火・祝)夜-鳥取(米子)LiveたちQ赤ラベル
5月8日(土)山口(下関)T-Gumbo 
5月9日(日)福岡(みやま)柿原酒店 
5月16日(日)茨城(水戸)音食座敷 開化亭
5月22日(土)青森Be on cafe 222  
5月23日(日)盛岡FEELGOOD 
5月28日(金)京都 夜想
5月29日(土)兵庫(宝塚)IL grazie
5月30(日)八幡DELSOL café
6月5日(土)広島OK鉄板
6月6日(日)佐賀LIVE BAR雷神 
6月12日(土)埼玉(新座)エアストリームカフェ
6月13日(日)新潟(三条)Gallery Bar Veronica 
6月25日(金)群馬(前橋)Cool Fool 
6月26日(土)東京(高円寺)MOONSTOMP
6月27日(日)埼玉(川越)大黒屋食堂  
7月3日(土)田川Diamond Moon
7月4日(日)行橋Rock ‘n Roll Bar Memphis 
7月6日(火)福岡(薬院)遊来友楽 
7月10日(土)熊本(八代)bar 7th chord
7月11日(日)山口(柳井)みんなの広場 Live Village 
7月16日(金)蒲郡Chot Bar VOODOO LOUNGE
7月17日(土)名古屋 喫茶ニューポピー 
7月18日(日)浜松(弁天島)LIVE & DISCOマルガリータ 
7月24日(土)群馬(渋川)Casa Midori 
7月29日(木)仙台 ホームラン酒場
7月30日(金)岩手(宮古)カントリーズcafe
7月31日(土)岩手(二戸)HOUSE OF PICNIC 
8月1日(日)秋田(能代)ハックルベリー 
8月3日(火)小郡 ジラソーレ 
8月7日(土)群馬(下仁田)otenki食堂
8月21日(土)久留米 農と音
8月22日(日)山口(萩)玉ネギ畑  
8月23日(月)東広島pasta amare
8月27日(金)福岡 Bassic. 
8月28日(土)LIVE BAR雷神
8月29日(日)大牟田 陽炎


↓チケットご予約&公演詳細・共演者情報はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12660274732.html




新作ミニアルバム『You』のタイトルナンバー「You」のミュージックビデオです♪
映像編集、ポートレート(写真)撮影共に、佐々木モトアキ本人が手掛けております。
とてもシンプルな技法ですが、何よりも登場する皆さんの表情が素敵です✨
人が“目を閉じている”表情。
その“瞼(まぶた)に浮かんでいる”誰かの顔。
繋がってゆく“一人ひとりの想い”が、100通りの、いや1000通りのドラマを描いてくれています。





佐々木モトアキ
執筆、動画編集、音楽・食・商品・街(地域)に関わるPRなどなど…様々なお仕事承ります。

例えば執筆・編集のお仕事として、、、
「ロック」「ジャズ」「ブルース」「R&B」「シャンソン」「カントリーミュージック」「フォークソング」「歌謡曲」「日本の古い歌」など、ほぼオールジャンルのページ企画・特集に対応いたします。
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音楽以外のライティングとして、WEBページの作成・リニューアル、各種パンフレット作成に伴う「店舗のご紹介」「メニューご紹介」「企業・会社のご紹介」「商品のご紹介」などなど様々なPRに関わるお仕事も承ります。


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あらゆるものに存在する、ルーツや“人の想い”を伝えながら「誰が読んでもわかりすい読み物」をお作りいたします✒︎
お気軽にご依頼のご相談・ご連絡ください♪
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090-2669-2666

【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki

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