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Old Black Joe〜奴隷解放宣言前に“アメリカ民謡の父”と呼ばれた男が一人の黒人のために書いた歌

2018.03.04

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陽気にはしゃいでいた若き日々は過ぎ去り
綿花畑で出会った友も逝ってしまった
この地上から離れて…もっといい場所へ
僕には聞こえるんだ…彼の優しい声が
オールド・ブラック・ジョー

僕も行くよ すぐに行くよ 
もうすっかり腰も曲がってしまったしね…
僕には聞こえるんだ…彼の優しい声が
オールド・ブラック・ジョー


この「Old Black Joe」という歌は、ティーブン・フォスターが1860年(当時34歳)に楽譜出版した楽曲だ。[※1853年に出版したという説もある]
フォスターといえば「おおスザンナ」(1848年)、「草競馬」(1850年)、「スワニー河」(1851年)、「主人は冷たい土の中に」(1852年)など多くの楽曲を手掛けた才人で、後に“アメリカ民謡の父”と呼ばれた人物である。
彼はペンシルベニア州ピッツバーグの隣町ルイスヴィルで生まれ、アイルランド移民の曽祖父の家系を引く比較的裕福な家庭に10人兄弟の末っ子として育つ。
父は音楽趣味を持ち、母は詩情豊かな教養に富む女性だったという。
幼児期より音楽の才能を開花させていた彼は、アカデミックな音楽教育はほとんど受けなかったにもかかわらず、18〜19歳の頃にはすでにいくつか歌曲を出版していたという。
二十歳の頃オハイオ州シンシナティに転居し、兄の蒸気船海運会社で簿記係を務める。
当時のシンシナティ(オハイオ川)には蒸気船がひっきりなしに行き交い、南部の黒人音楽や荷揚げ作業人夫たちが口ずさむ労働歌があちこちから聴こえていたという。
そんな環境の中、彼は当時独立戦争後のアメリカで最初に流行することとなった「おおスザンナ」を発表する。
同曲は1848年~9年のカリフォルニアのゴールドラッシュの賛歌としても広く知られることとなる。


この時代(19世紀半ば)のアメリカでは“ミンストレル・ショー”が爆発的人気を呼んでいた。 
白人が黒人の格好を真似て歌い踊りジョークを聞かせるこの舞台(寸劇)を通じて、当時多くの歌が大衆に広まっていったという。
黒人を蔑視したこのショーは“自分より下の人間を見下して楽しむ”という差別意識が根底にある人々(特に白人の中でも貧しかった労働者階級)に広く受け入れられていた。
フォスター歌曲の多くも、当時ミンストレル・ショーで歌われて時流に乗ったが、彼が書いた楽曲は(白人作品の中では珍しく)黒人奴隷の苦しみに共感を示したものもあった。




フォスターとアメリカ音楽文化の関係性を研究した元ニューヨークタイムズマガジンの編集者ケン・エマーソンの著書によれば、この「Old Black Joe」に登場する“彼(ジョー)”は架空の人物ということになっているが、一説では実在した人物だったという資料も残っている。
フォスターは、この歌を書く3年前(1850年・当時24歳)にピッツバーグの名医の長女であるジェーン・マクダウェルと結婚をする。
当時、彼女の実家で執事をしていたジョーという名の黒人の老人がいた。
ジョー爺さんは、結婚前からその家をしばしば訪問していたフォスターに対しても心を込めて仕えてくれたという。
フォスターはそんな彼に感謝して「いつかお前のことを歌にするよ」と約束をしていたという。
アメリカではこの歌が発表された翌年(1861年)から南北戦争が開戦となる。
さらにその翌年(1862年)にはリンカーン大統領による奴隷解放宣言が布告される。
この歌は“その後のアメリカ”に大きな影響を与えた転換期に誕生したものだった。
1864年に37歳で他界したフォスターの晩年作となったこの歌が発表された時には、すでにジョー爺さんもこの世を去っていたことになる。
慈悲深いフォスターの純粋な心情がうかがえるこの曲は(当時の黒人奴隷にとって)苦しみの絶えないこの世を逃れ、自由と安らぎを願いながら天国に憧れる黒人たちへの鎮魂歌とも言えるだろう。

心は痛みを感じないのに なぜ涙が出るんだろう?
友は戻ってこないのに なぜため息をつくのか
遠い昔に旅立った在りし日の姿に深く悲しみながら…
僕には聞こえるんだ…彼の優しい声が
オールド・ブラック・ジョー

幸せと自由を感じた日々は何処へいってしまったのだろう?
膝に乗せて可愛がった子供たちも先に旅立って行ってしまった
僕が行きたいと願っている あの岸辺へと…
僕には聞こえるんだ…彼の優しい声が
オールド・ブラック・ジョー



<参考文献『世界の民謡めぐり』江波戸昭(著)日本書籍>








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