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ポール・スタンレー少年時代②〜ビートルズの洗礼、エレキギターを手に入れるまでの苦難のエピソード

2019.01.27

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1964年2月、12歳になったばかりの彼はTV番組『エド・サリヴァン・ショウ』でビートルズの洗礼を受ける。

「彼らの歌う姿を観て、俺は明確な目標を立てたんだ。俺も有名になり、尊敬され、好かれ、憧れられ、あるいは嫉妬の的となる。こんな冴えない毎日から抜け出すための切符は“これしかない!”ってね。」


彼はそれまでギターを弾いたことなど一度もなく、当然曲を書いたこともなかった。
なんの根拠もないまま、彼はロックアーティストになるという目標を打ち立てたのだ。
まず、ビートルズのメンバーの髪型を真似たくて、彼は髪を伸ばし始めた。

「あの髪型が俺にとってなぜ魅力的だったか?理由はハッキリしている。右耳のことを隠せることができるからね。」


『エド・サリヴァン・ショウ』でビートルズを観た日から程なくして…
彼はある日の午後、近所に住むマット・ラエルという少年とばったり出会った。
マットは、自分がエレキギターを持っていて、音楽活動をやっていることを話してきた。
すっかり感化された彼は“今、俺に必要なのはエレキギターなんだ”と熱望するようになる。
そこからの11ヶ月間、イギリスがアメリカに対してビートルズのみならず、ローリング・ストーンズ、キンクス、アニマルズなどなど_“ブリティッシュ・インヴェイジョン”という現象を通じて数々のバンドを送り込んできた間、彼は両親にずっと懇願し続けたという。

「13歳の誕生日にはエレキギターを買って欲しいんだ!僕にとっては凄く大事なことなんだ!」


1965年1月20日、彼は13歳の誕生日を迎えた。

「ベッドの下を見てみなさい。」


母親がそう言った。
興奮しながらかがみ込み、ベッドの下を覗き込んだ彼の目に映ったのは、ワニ皮の型押しプリントがしてある段ボールのケースだった。

「開けた瞬間…俺は心底落胆したよ。それは欲しかったエレキギターでなく、ナイロン弦が張られた日本製のアコースティックギターだった。俺はどうしようもないくらい落ち込み…ケースの蓋を閉めると、ベッドの下に押し込んだ。弾きたいとは思わなかったんだ。」


彼の両親は、息子が以前から望んでいたものを与えないことで“自分たちの考え”をはっきりと示したのだという。
両親からプレゼントしてもらったギターを、息子が拒否した途端、彼らはそのことで罪悪感を抱かせるように仕向けたのだ。

「俺はその日から一年間、金を貯め、さらに14歳の誕生日にもらった金をそこに足して、いよいよ楽器屋へと乗り込んでいったんだ。」


それは1966年の2月のある日、48丁目にある“マニーズ”というギターショプでの出来事だった。

「このギターを見せてもらえますか?」

「今日買うのか?」

「ええ!」

「金を見せてみろ。」


彼は自分の持ち金を店のカウンターに全部並べた。
店員は彼が指差したギターを取って、彼に手渡した。
それはVOX社製の3/4サイズのストラトキャスターだった。

「俺に買えるのはそれだけだったんだよ。他のどのギターよりも安かったんだ。それに俺はまだギターを殆ど弾けなかったし、ギターのことを何も知らなかったからね。」


こうして彼は、冴えない毎日から抜け出すための切符を手にしたのだ。
エレキギターを手にするや否や、彼は曲を書くことを試みた。
好きな曲を耳にすると、まずはそれを真似てみようとする。
そして、その曲に似たコード進行やフレーズを編み出してゆく。
それは自然な成りゆきだったという…

「まずはザ・フーの“The Kids Are Alright”へのオマージュだった。」



コードを弾くのが好きで早くから作曲を始めた彼は、歌いながらギターを弾くため最初からリズムギターを志向していたという。
リードギタリストになりたいと考えたことは1度も無かった。
1970年、商業デザイナーになるため通っていた、ニューヨークのハイスクール・オブ・ミュージック&アートを卒業。
アートカレッジに進むも…その頃の彼は、すでに「俺はロックスターになる!」と断言しており、美術に対する興味を失っていたため1週間で自主退学をする。
同年、旧知の仲だったジーン・シモンズのバンドWicked Lesterに加入し、KISS誕生への一歩目を踏み出すこととなる…



<引用元・参考文献『ポール・スタンレー自伝 モンスター 仮面の告白』ポール・スタンレー(著)ティム・モア(著)増田勇一(監修)迫田はつみ(翻訳)/ シンコーミュージック>

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