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マーヴィン・ゲイ少年時代を語る①〜父親から受けた虐待、歌との出会い、そして性的嗜好への困惑

2019.03.24

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1939年4月2日の日曜日、彼はワシントンDCにあるフリードマン病院で産声をあげた。
出生名はマーヴィン・ペンツ・ゲイ・ジュニア。
父親はワシントンDCでキリスト教(ペンテコステ派)の説教師をやっていた。



「僕の子供時代には、いわゆる“普通の”という単語はなかった。まず我々一家が住んでいた地域が普通ではなかった。そこは“シンプルシティー”と呼ばれるスラム街だった。半分都会で半分田舎のようなところで、屋根がある家もあったがハーレムにある長屋よりも貧しい暮らしだった。幼い僕にも(社会の)最下層に住んでいるってことだけはわかっていたよ。」




厳格な父親との関係や育った環境のせいで、普通の少年時代を過ごすごとが出来なかった彼は、どこか自信なさげで、精神状態も不安定な子供だったという。
日曜日は福音書の朗読、そしてひたすら祈りを繰り返すことに費やされ、家族は父親による絶対的権力に支配されていた。



「彼の父は、息子に対して何か妬んでいるようだった。自分の子供に対して高すぎるほどの期待をしていたのかもしれない。」




そう観察していたのは、彼の母親の従姉妹にあたるビートリース・カーソンという女性だ。
彼女は1946年(マーヴィンが7歳の頃)から5年間に渡ってゲイ一家のアパートに居候をしていた。



「私はその家に住み着いて、そこで起こっていたことを見て傷ついたものだわ。息子のマーヴィンがおねしょをすると、父親が容赦なく叩いていたのよ。マーヴィンは父親のことを死ぬほど恐がっていたわ。」




マーヴィンは1982年(当時43歳)のインタヴューで、その頃のことを振り返ってこう語っている。



「父が幼い僕を殴っていたのは単純な話ではないんだ。もちろん、あまりに酷い仕打ちだったけどね…。僕が12歳になるまで体中、父に殴られたアザだらけだったんだよ。父と共に住むということは、王様と一緒に住むようなものだった。風変わりで、残酷で、すぐに豹変する絶対君主。もしも母親までがそんなだったら、僕はおそらく新聞でよく見る子供達の自殺と同じ道を辿っていただろう。だけど、母親はそうじゃなかった。いつも優しくしてくれて、僕の歌を褒めてくれたんだ。」





地元の教会で聖歌隊に参加したことがシンガーとしての第一歩だった。
彼は歌と同時にピアノやドラムといった楽器の演奏技術も習得し、音楽キャリアの下地を養った。
音楽的才能だけでなく、運動のセンスもずば抜けており、アメリカンフットボールなどのプロスポーツ選手になることを夢見た時期もあったという。
しかし、そんな夢も父親に反対されて諦めるしかなかった。
彼はそのはけ口を求めるように音楽へと向い、いつしか父親への反抗の手段としてR&Bにのめり込むようになったという。
父親はブルースやジャズは聴いていたものの、世俗的な音楽(R&B)は悪魔のものだと考えていた。
彼にとって音楽に没頭することは、父による躾の範囲を越えた虐待から“逃避”でもあった。
12歳まで続いた父親からの暴力は、後の彼の人生にトラウマとして遺ることとなった。
さらに輪をかけていたのが、父親の性的嗜好で…それは問題をより複雑にしていた。




「僕の父は女性用の洋服を着るのが好きだった。それは彼がホモセクシュアルだということではない。事実、父はいつも“女好きの男”として知られていたんだ。彼は単にドレスアップするのが好きだったんだな。父の髪がとても長く、カーリー(巻き毛)にしてある時もあれば、それとは逆に女っぽい部分を微塵も見せない時もある。まだ幼かった僕は、そのことに随分と困惑させられたよ。」





そんな父の下で育った彼もまた、大人になって同じような趣味を持つこととなる。
彼の場合も父親と同じく、男性を惹きつけるためのものではなかったという。
ただ自分を“女性と見立てる”ことに一種の快楽を覚えていたのだ。



「何か怖いもの見たさのようなものかな。内輪だけの親密な時にしか楽しめないよ。でも、そうして楽しんだ後は、何週間も罪の意識と恥ずかしさを抱えるんだ。道楽は悪魔なんだよ…その求めるものが何であれね。危ないものは致命的。だけど、父も僕もそういう危ないものから離れられない運命だったんだ。」






<引用元・参考文献『マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル』デイヴィッド・リッツ(著)吉岡正晴(翻訳)/スペースシャワーネットワーク>
<引用元web『マーヴィン・ゲイの栄光と影』西田美穂(著)>

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