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スラッシュの少年時代②〜両親の離婚、そして母親の愛人デヴィッド・ボウイから受けた刺激と影響

2019.04.28

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「母親と一緒に見てきた楽屋裏やステージの光景の一つひとつが、俺になにやら不思議な魔法をかけたんだ。当時は何が起きているのかさっぱりわからなかったけど、それでも様々なアーティストたちのパフォーマンスに魅せられて現在に至っている。楽器をずらりと並べて、バンドを待ち構えるステージが俺をドキドキさせた。ギターを見ると今でも俺は興奮する。そこに相応しいプレイヤーたちが揃えば、現実を超越する力を秘めているんだ。」


彼の両親のレコードコレクションは完璧だった。
ベートーヴェンからレッド・ツェッペリンまであらゆるジャンルが揃っていた。
彼は十代になってからも、両親のライブラリーから未発掘の“宝の石”を発見し続けていた。
また、彼は母親に連れられて様々なアーティストのコンサートを観たという。

「母親は俺を仕事場にも連れて行っていた。だから幼くしてエンタテインメント業界の裏事情に触れていたんだ。テレビや映画の撮影現場も見ていた。ジョニ・ミッチェルのレコーディング風景やリハーサルは何度も見ている。リンダ・ロンシュタットがトゥルバドールに出演した時も俺はそこにいた。スティーヴィー・ワンダーやダイアナ・ロスにも会ったよ。母親の話ではジョン・レノンにも会ったことがあるらしいが、残念ながらそれはまったく憶えていない。」


父親のアンソニーは妻のオーラが彼女の母親と親しくするのを快く思っていなかった。
義理の母親が財政援助をすることが、彼のプライドを傷つけていたからだ。
アンソニーは徐々に不満を募らせて酒に溺れていったという。

「典型的な酒癖の悪さでね…。酒が入ると機嫌が悪くなった。暴力を振るうまではいかなかったが、手当たり次第に難癖をつけてくる。俺はまだ8歳だったが、何か本当にまずいことが起こっていることに気づいていたんだ。」


数ヶ月後、彼の両親は別居を始める。
彼は絶望し、たった一つの“安定の場所”を失った。
その別居は約3年間続き…彼が11歳の時に、結局離婚する形となった。

「二人が別れた時、弟のアルビオンはまだ2歳だった。俺も弟も母親と暮らすこととなった。母は仕事であちこち飛び回りながらも、最善を尽くして俺たちを育ててくれた。次第に母親がある男と一緒にいる姿を頻繁に目にするようになったんだ。母親に紹介をされたその人の名前は…デヴィッド・ボウイだった。」


1975年、オーラは『Station Station』のレコーデイング中だったボウイと親しく仕事をするようになった。
『Young Americans』の頃から、衣装デザインを担当していたのだ。
ボウイが映画『地球に落ちてきた男』(1976年)に主演することになると、オーラも映画の衣装担当として雇われた。
撮影地はニュー・メキシコで、長いロケ現場となった。
オーラとボウイは、この撮影時期を通じて本格的に“親密な関係”となってゆく。


「ボウイはよく奥さんのアンジーや息子のゾウイを連れて家に遊びに来ていたよ。70年代っての実にユニークだった。ボウイが女房と子供を連れて愛人のところに来るのが、まったく自然に思えたんだから(笑)みんなで遊ぼう!みたいな。」


その当時、オーラとボウイは同じ形式の超越瞑想を実践していた。
二人は寝室に据えていた大袈裟な神棚に向かって、毎日念仏を唱えていたという。
11歳の少年はボウイのことがわかってくると、彼を受け入れるようになった。

「ボウイは頭がいいし、面白いし、半端なくクリエイティヴな人だった。母親と一緒に彼のステージを何度も観に行ったよ。キャラクターになりきった彼を目の当たりにして、俺はすっかり魅了された。彼のコンサートは最初から最後までパフォーマンスの真骨頂だった。デヴィッド・ボウイは、ロックのスターダムを徹底的に煮詰めた男だった。」


ビバリーヒルズ高校に進学した彼は15歳で中退し、ヒモやドラッグの売人で生活費を稼ぎながらバンド活動を行うようになる。
ブラックシープ、ロードクルーといったバンドを経て、二十歳を迎えた1985年にガンズ・アンド・ローゼズを結成。
1987年にデビューアルバム『Appetite for Destruction』を発表し新世代のロックアイコンとなってゆく。
スタイルや表現は違えど、彼のミュージシャンとしてのルーツにデヴィッド・ボウイの姿があることは確かなようだ。

<引用元・参考文献『スラッシュ自伝』スラッシュ(著), アンソニー・ボッザ(著), 染谷和美(翻訳)/シンコーミュージック>

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