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ルイ・アームストロングの少年時代〜祖母に預けられて育った幼年期、ホンキートンク(安酒場)から聴こえてきたバンド演奏に惹かれて…

2019.07.07

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20世紀の幕開けから間もない1901年8月4日、アメリカのルイジアナ州ニューオーリンズにある“ジェイムズ横町”と呼ばれる黒人地区でルイ・アームストロングは生まれた。
(※彼の死から20年の歳月が経過するまで誕生日は1900年7月4日(20世紀最初の独立記念日)とされていた)

「あんた!今なんて言ったのさ!」
「聞きたければ何度でも言ってやるぜ!お前には、ほとほと愛想が尽きたんだ!」
「なにさ!あんたみたいなウスノロには、私も飽き飽きしたわ!」


そんな罵り合いが彼の両親の日常的な会話だったという。
彼がまだ幼いころに父親が家族を捨てて出て行ってしまったため、母親は家族を支えるために売春婦として働いていた。
彼が生まれた街は政府公認の売春地域だった。
そこには、ならず者、ギャンブラー、泥棒、売春婦など様々な人間がひしめきあっていた。
路上では喧嘩や発砲騒ぎが絶えなかったことから“バトルフィールド(戦場)”の異名を持つ街だった。
貧しい環境で育った彼は、兄妹と共に祖母のもとに預けられたりしながら幼少期を過ごすこととなる。
祖母はジェイムズ横町の住民にふさわしく、黒人特有のたくましい身体と、どんな貧困にも打ちひしがれることのない陽気な性格を持ち合わせていた。
当時は90代だった曾祖母も健在で、とてもエネルギッシュな女性だったという。
彼はそんな家系の血を受け継いでいて、生まれつき病気知らずの子供だった。
暮らしこそ貧しかったが、いつも明るく、その日の食べるものさえあればけっして不満を口にしなかった。
その日の糧でさえいつ途絶えるかわからないし、家族もいつ別れ別れになるかもしれない。
失うものを持たないその街の住人たちは「不幸」という言葉を知らなかった。
黒人家庭では、ほとんどの女性が働いていた。
男たちが家に入れる金だけでは暮らせないのが普通だった。
当時、祖母は白人家庭の選択仕事をしていた。
幼い彼は、祖母がアイロンをかけ終えた洗濯物を届ける手伝いをして5セントのお駄賃をもらっていたという。
彼が5歳になったある日、母親が病気で倒れて困っているという知らせが届く。
彼は母の看病をするために、祖母の家を出て行くこととなる。

「ルイ、おばぁちゃんだってお前と離れるのは辛いのさ。だけどママが困っているんだから行ってあげなきゃ。手伝ってあげるんだよ。いいかい?」


祖母は涙をぬぐいながら彼の背中を押しやった。
彼は使いの人に手を引かれて市電に乗った。
生まれて初めて乗る電車は、彼をジェイムズ横町から新しい世界へと運び去った…
辿り着いたのは同じニューオーリンズにあるストーリーヴィルと呼ばれる歓楽街(売春地区)だった。

「お前、ママを見舞いにきてくれたんだね。おばぁちゃんはよく許してくれたね。お前には今までなにもしてやれなかったのに…。ルイや、ママはこれからはしっかりするからね。」


その一言によって、彼にとって遠い存在だった母親がかけがえのない人に戻った。
彼はすぐに新しい環境に馴染んだ。
ジェイムズ横町と同じく、そこも路上での喧嘩が多く、娼婦同士が取っ組み合いをしたり、ナイフを振りかざす場面も日常のことだった。
夜になると通りの角ごとにある“ホンキートンク”と呼ばれる安酒場でバンドが演奏し始める。
路上を歩いていると、夜ごとコルネットやクラリネット、ベース、ドラムと様々な楽器の音が店から漏れてくる。
子供は店に入れてもらえないが、彼はその漏れ聴こえてくる音に耳をそばだてていた。
呼び込みのために開店時間に合わせて店先で30分ほどバンドが演奏する。
彼は毎日人の輪をかき分けて最前列に立ち、かぶりつきで演奏を聴いていたという。
やがて彼は、ジャズコーラスの原初的な形態であったバーバー・ショップ・カルテット(19世紀のアメリカで生まれた男声コーラスグループ/演奏形態の総称)で歌うようになる。
学校に通いながら、母を手伝うために新聞配達など色々な職をこなしていた。
11歳で学校を辞めた年のある日、パレードを祝う祝砲を鳴らそうとして誤ってピストルを発砲したところを逮捕され…少年院に収容されてしまう。
その少年院で、彼はコルネットの演奏方法と音楽について学ぶこととなる。
少年院を出た後は、ニューオリンズでバンドリーダーとして活躍し、13歳の頃にはコルネット奏者として注目を集めるようになり“ジャズメン”としてのキャリアをスタートさせる…



<引用元・参考文献『ルイ・アームストロング―少年院のラッパ吹き』川又一英(著)/メディアファクトリー>

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