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デヴィッド・ボウイ 死を迎えるまでの日々

2019.08.11

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2016年1月10日、デヴィッド・ボウイが旅立った。
彼はその二日前の1月8日、69歳の誕生日に最新シングル「Lazarus」のミュージックビデオを公開したばかりだった。
同時発売されたアルバム『★(Blackstar)』は、発売一週目で14万6千枚(UK)18万1千枚(US)を売り上げ、「Lazarus」の動画はダウンロード数1千7百万に達した。


なんというタイミングなのだろう…
自らが演出したかのようなその死は、まさに“彼らしい”最期だった。
Lazarusとは聖書に登場するイエスが蘇生させたユダヤ人の男である。
このミュージックビデオに出てくる顔の覆いや白い服、そしてラストシーンでクローゼットの中に戻ってゆくボウイの姿は、洞穴に葬られたLazarusのイメージと重なってゆく…
<新約聖書―ヨハネによる福音書11章・Lazarusの復活>
http://art.pro.tok2.com/Bible/CLater/17Lazarus/17Lazarus.htm


その死からさかのぼること9年…
2007年1月、彼は60歳の誕生日を迎えた。
妻のイマン・アブドゥルマジドによると、彼が誕生日を特別騒ぎ立てるようなことはなかったという。

「たぶん幸せだったからじゃないかしら。私たちはごくシンプルに家庭生活を送っていたわ。その頃、彼はもうアルコールも絶っていたし、日常的に運動もしていたわ。」


この年、彼はイギリスの人気俳優リッキー・ジャーヴェィスのTVドラマ『Extras(スターに近づけ!)』にゲストとしてカメオ出演した。
主人公のリッキーに“哀れな小太り男”の歌を弾き語るシーンは、同ドラマの全話の中で最も面白かったシーンとして批評家達に称賛されたという。


当時、彼は自分自身に起きた心臓発作や母親の死をめぐり、人は誰もがいつかは死ぬ運命にあると感じるようになっていた。

「終わりというのがおぼろげに姿を見せはじめているのを実感している。僕にはあとどれだけの人生が残されているのだろう?これ以上に悲しいことはないよ。妻や幼い子供、愛するものすべてといつかは別れを告げなければならないことがわかっているんだから…」


2010年、63歳になった彼はカリブ海に浮かぶセントルシア島に別荘を購入した。
その家は、ピトンの火山を望む最高のロケーションに建っていて、ボウイと妻イマンはその息をのむような絶景に惚れ込んだという。
しかしそこはあくまで別荘であって、彼らの生活のベースはマンハッタンの自宅であることに変わりはなかった。
ニューヨークではファンや一般人の目を気にせずにのんびりと暮らすことができたからだ。

「その辺を歩き回ってもまったく平気だよ。誰も振り返らないしね。ニューヨークの人たちは、誰かが自分のものだなんて思っちゃいない。だからそれぞれの人生を歩むことができるんだ。」


2013年1月8日、それは66歳の誕生日の朝だった。
午前5時ジャスト、なんの前触れも告知もなしに彼はニューシングル「Where Are We Now?」をミュージックビデオと共に配信/公開した。


曲は数時間もしないうちにダウンロード数をぐんぐん伸ばし、あっというまに1位に躍りでた。
そして2ヶ月後にリリースされた10年ぶりの新作アルバム『The Next Day』も、先行予約販売のチャートでも見事1位を記録した。
当時の関係者はこう語る。

「彼にはPR班なんて必要ないね。あの時彼がやってのけたことを見れば一目瞭然さ。まさか告知なしでレコードをリリースするなんてね。」


「普通は彼くらい名声のあるアーティストだと、久しぶりに新作を出すとなったら派手に宣伝するものだよ。ところが彼は非常に賢くて、新しいレコードを作っているなんて誰にも一言も言わなかった。あの日のリリースは、それだけで一つのニュースになった。誰もが驚いたよ。彼は“何もしない”ということによって報道を増やしていったんだ。」


そして2015年、68歳となった彼はオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『Lazarus』の制作を手掛けた。
それは1976年に自身が主演した映画『地球に落ちてきた男』を元にした舞台作品で、彼のキャリアの集大成とも言えるものだった。
舞台監督/演出を務めたイボ・バン・ホーベは、当時のことをこう語る。

「制作にとりかかる一年ほど前から彼が肝臓ガンに侵されていることを知っていたよ。彼は文字通り、死の床についても書き続けていたよ。男の意地を見たね。彼はずっと獅子のように闘い、獅子のように働き続けたんだ。感服するしかなかったよ。」



その年の12月12日、デヴィッド・ボウイはミュージカル『Lazarus』のプレミア上演に出席し、久しぶりに公の場に姿を現した。
何も知らされていないマスコミは、彼が非常に健康的でとても元気そうだと書きたてた。
共に舞台を作ってきたイボ・バン・ホーベは、その日のことを鮮明に憶えているという。

「演壇の陰で、彼は極度の疲労で倒れてしまったんだ。あの時だよ…もしかしたら彼に会えるのはこれが最後になるかもしれないって悟ったのは。」



その日の約一ヶ月前(11月19日)に、彼の28作目にして遺作となったアルバム『★(Blackstar)』からの1stシングル「Blackstar」がリリースされている。
そして、彼の69歳の誕生日にあたる2016年1月8日、アルバム『★(Blackstar)』がリリースされ、2ndシングル「Lazarus」のミュージックビデオ公開と共に絶賛を浴びる。
その二日後…“地球に落ちてきた男”は空に昇り★(星)となった。
彼は最後の最後まで全ての時間とエネルギーを作品に注ぎ込み、自分の音楽に集中し続けたのだ。
それまでの自分と何も変わることなく…最期の瞬間まで。



<引用元・参考文献『デヴィッド・ボウイ 気高きアーティストの軌跡』ウェンディ・リー(著)江上泉(翻訳)/ヤマハミュージックメディア>


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