アルバムの1曲目に収録された「青の国」。アカペラの多重録音にて歌われるこの曲の、最初の数秒を聴くだけで、雷に撃たれたような衝撃を受ける。彼女の声は、聴き手の脳裏にあるさまざまな記憶を引きずり出し、胸の奥のあらゆる感情を激しく震わせていく。そして、むき出しになった心の襞に大きくあたたかな母性のような愛を染み渡らせてゆく。

1992年生まれのシンガー・ソングライター、優河。18歳の頃、渋谷にあるライブハウス〈サラヴァ東京〉に出会ったことで本格的にシンガー・ソングライターとしての活動を開始したという彼女は、都内を中心にライブを展開。高野寛やおおはた雄一など実力派ミュージシャンたちとの共演も行い、これまでに2枚のアルバムをリリースした。

昨年11月28日にリリースされた、優河にとって初のオリジナル・フル・アルバム『Tabiji』。自身のバンドanonymassや、高橋幸宏とのMETAFIVE、pupaでの活動をはじめ、YMOやくるり、UAなど数多くのレコーディングやライブに参加してきた音楽家、ゴンドウトモヒコをプロデューサーに迎えて制作された本作には、森は生きている、ノアルイズ・マーロン・タイツのメンバーなど個性的なミュージシャンたちが参加。いわゆるシンガー・ソングライター作品の呪縛から解き放たれたように、ジャンルや国籍をも超越したユニークでミステリアスなアレンジが耳に楽しい。そうしてくるくると表情を変えていく音のアプローチに呼応するように、優河の歌の持つ無限の可能性を引き出されていく。

加藤和彦や大貫妙子、竹内まりや、フリッパーズ・ギターなどを手がけてきた日本の音楽プロデューサーの草分けの一人である牧村憲一が彼女の歌に惚れ込み、本作のエグゼクティブ・プロデューサーを買って出たということも、その非凡な才能を裏付ける。しかし、そんなエピソードや回りくどい解説も吹き飛ばしてしまうほど、彼女が発する声の一音一音に込められた説得力と、豊かな表現力に圧倒されるばかりだ。現在24歳という優河は、この先の長い人生でどんな歌を聴かせてくれるのか──時に激しく時にゆるやかに、時に曲がりくねったりしながら、大河のたおやかな流れのような豊かな物語を見せてくれそうな逸材の登場だ。

優河
『Tabiji』

（FIS）

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