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かもめ児童合唱団──三浦半島の港町に暮らす子供たちの、太陽のような歌声

2016.02.01

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世界じゅうの敵に降参さ 戦う意思はない
世界じゅうの人の幸せを 祈ります

世界の誰の邪魔もしません 静かにしてます
世界の中の小さな場所だけ あればいい

おかしいですか? 人はそれぞれ違う、でしょ?でしょ?でしょ?

だからお願い かかわらないで そっとしといてくださいな
だからお願い かかわらないで 私のことはほっといて
(「私の世界」より)


三浦半島の最南端に位置する港町・三崎。まぐろの水揚げでも有名なこの地域
に暮らす子供たちによって40年以上活動を続けているのが〈かもめ児童合唱団〉だ。

1972年に結成されたかもめ児童合唱団は、三崎地区と城ヶ島地区に住む3歳から13歳までの児童で構成。地元在住の声楽家・小島晁子の指導により、三崎にゆかりのある北原白秋や小村三千三の作品を中心に、老人施設や地元のイベントなどで歌ってきた。結成当初はお行儀良い普通の合唱団だったが、活動から20年ほど経った頃に指導者である小島の考えで、「みんなで歌えば、それが合唱!」というコンセプトのもと、三崎の子供たちの元気の良さを活かした大きな声でのびのびと歌う現在のスタイルへと変化させていったという。

2008年からCD制作も開始。前作『焼いた魚の晩ごはん』(2010年)には矢沢永吉やTHE BOOM、スピッツ、ミルトン・ナシメントなどの童謡以外のカバーや、黒沢秀樹作曲のオリジナル曲も収録。いわゆる合唱曲の域を超えた幅広いレパートリーも注目を集めた。

かもめ児童合唱団の存在が広く知れ渡るきっかけとなったのが、2013年に放映されたドラマ『泣くな、はらちゃん』。本作の脚本を手がけた岡田惠和が作詞を担当し、井上鑑が作曲した挿入歌「私の世界」は、ユニークな語り口で平和を祈る歌詞と無邪気な子供たちの歌声の相性の良さも相まって、放送開始直後からSNS上で話題となる。楽曲が配信のみでリリースされるとレコチョクで1位を獲得した。その後も坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)とのコラボ「あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団」をはじめ、由紀さおり、ゆず、杉田二郎らの作品への参加も果たした。

前作から約6年ぶりのアルバムとなる『インターネットブルース』は、先述した「私の世界」「あなたもロボットになれる」に加え、ネット社会をシニカルに眺めた表題曲や、地元の三崎の情景をスケッチした「恋の色」「古い港のシャンゼリゼ」といったオリジナル曲や、ギターに伊藤銀次が参加したナイアガラ・トライアングル「幸せにさよなら」
をはじめ、高石ともやとザ・ナターシャ・セブン、曽我部恵一、湯川潮音、木村充揮のカバーを収録。その多くは、子供の歌ではなく〈大人の歌〉である。大人びた歌をいわゆる普通の合唱団のようなお仕着せの歌声で歌われたら興ざめしてしまうところだが、かもめ合唱団の子供たちの飾り気のない元気で自然な歌声で歌われると、楽曲そのものが持っているメッセージや物語がスッと心に入ってくるような気がするのが不思議だ。その分、大人が少しでも思惑を歌詞に入れこもうとするとそれすらもストレートに表出させてしまう可能性もあるのだが、アルバム『インターネットブルース』は奇跡的なバランスでポップな仕上がりに着地させている。

とにもかくにも、かもめ児童合唱団のように明るく朗らかな子供たちの歌声が、いつまでも高らかに響きわたる世の中でいてほしい。そんな想いも強くさせてくれる作品なのだ。


かもめ児童合唱団『インターネットブルース』

かもめ児童合唱団
『インターネットブルース』

(ユニバーサルミュージック)



かもめ児童合唱団 offcial website
http://www.kamome-miura.net/
http://www.universal-music.co.jp/kamome

かもめ児童合唱団「インターネットブルース」 MV
かもめ児童合唱団「私の世界」 空き地ライブ(2013)
坂本慎太郎「あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団」 MV
「かもめ児童合唱団、鎌倉へ行くっ!」公式ライブ映像

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