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中村佳穂──底知れぬ才気に満ちあふれた、新鋭シンガー・ソングライターの傑作アルバム

2019.01.16

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有名に 繰り上がる頃には
誰かの悪者になるのかな。
いつか見たその先を覗いたよ、食う寝る
いい日に生きて、あの感じになろうね

頑張りが認められる頃には
誰かと比べられているのかな。
心の灯があなたを目指す、食う寝る

(「You may they」より)


吸い込まれるようなシンセのリフ、独特の言語感覚のリリック、どこかプリミティブでイノセントな風合いを残した歌声が、一発で耳を捉える。そこに多重録音のコーラスが折り重なったかと思えば、カオティックなビートが乱れ飛び、心は激しく掻き毟られる。しかしその直後、一転してリズムが四つ打ちを刻み始めると、その先は自在に転がる声と音の世界になすがままだ──アルバム『AINOU』の冒頭を飾る「You may they」の、めくるめく世界に触れるだけで、このアーティストの非凡さは十二分に伝わることだろう。



1992年生まれ。京都在住のシンガー・ソングライター、中村佳穂。幼い頃から歌うことと絵を描くことが大好きだったという彼女は、京都精華大学に入学した20歳の頃から本格的に音楽活動を開始した。ソロ、デュオ、バンドとフレキシブルな演奏形態でライブを展開。「各地で出会った人たちをRPG方式でメンバーに誘ってはライブを繰り広げています」と自ら述べているが、そうしてセッションを重ねた音楽家たちのエッセンスを吸収していくごとに、まさにRPGの主人公のように成長していく。

岸田繁(くるり)や高野寛といったミュージシャンから、その才能に早くから賞賛が寄せれていた中村佳穂は、卒業制作的な感覚で作ったというアルバム『リピー塔がたつ』を2016年7月に発表。大学の講師でもあったBOSE(スチャダラパー)や高野寛、さらにはスティーヴエトウといった面々がゲスト参加した本作で、大きな注目を集める。同年の8月には「FUJI ROCK FESTIVAL 2016」に出演。そこでステージを目撃したジェイムス・ブレイクのサウンドメイクに衝撃を受けて、中村佳穂は2年以上の月日をかけて新たな音楽表現を模索することを決意したという。


tofubeatsやgroup_inou、ペトロールズの作品への客演や、Kan Sanoとのコラボ作を挟みながら制作された、2ndアルバム『AINOU』を2018年11月にリリース。レミ街、CRCK/LCKSのメンバーなど若き鬼才ミュージシャンたちとともに作り上げていった本作は、ネオ・ソウル、現代ジャズ、ビート・ミュージックなど、今の時代の先鋭的な音楽と共振しながらも、中村佳穂の歌と声の圧倒的な力が自由自在に遊びまわるような、ちょっと今までに聴いたことのないようなポップ・アルバムに仕上がった。

ニュージャックスウィング時代のポップスを彷彿させながらも明らかに〈今〉な「GUM」。普遍的なピアノ・ポップスの衣を纏いながらも震えるほどにファンキーなリード曲「きっとね!」、どこか知らない国のわらべ唄のような「FoolFor日記」と、曲を進めるごとに無限に色彩を変えていく。一方「永い言い訳」ではシンプルなピアノ弾き語りで美しいバラードを聴かせる。


後半は、ファンク/ソウル濃度の高いナンバーで攻めたかと思えば、祈るように歌われるピアノ・バラード「忘れっぽい天使」、アイリッシュ音楽の影響も透けて見える「そのいのち」と、さらに新たな側面を見せてくる。中村佳穂の底知れぬ表現の深度に驚くばかりのアルバム『AINOU』。一度足を踏み入れたら抜けられない深い深い沼のような、抗えない魅力に満ち溢れた作品だ。


中村佳穂『AINOU』

中村佳穂
『AINOU』

(AINOU/SPACE SHOWER MUSIC)




Live Schedule
2019年1月20日(日)愛知・今池 得三(w/おとぎ話)
2019年2月19日(火)東京・渋谷 WWW(w/さとうもか、ジオラマラジオ)
2019年2月21日(木)愛知・名古屋クラブクアトロ(w/GRAPEVINE)
2019年2月22日(金)大阪・心斎橋 BIG CAT(w/GRAPEVINE)
2019年3月1日(金)東京・赤坂 マイナビBLITZ赤坂(w/GRAPEVINE)
2019年3月24日(日)福岡・Zepp Fukuoka「帰ってきたエフエックス」(w/KEMURI、the band apart他)
2019年3月29日(金)広島・広島クラブクアトロ「MOCKY JAPAN TOUR」(w/MOCKY)

official website
https://nakamurakaho.com/

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