TAP the ROOTS

目の前で愛する人が殺された時、人は…

2016.02.11

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♪ ブリキの兵隊とニクソンがやってくる
  ついに僕らだけになってしまった
  ドラムの響きを聞いて過ごした夏
  オハイオでは4人の死者が出た ♪


1970年、オハイオ州ケント州立大学で、州兵が学生集会に集まった若者たちに発砲し、4人が死亡するという事件が起きた。

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この事件を知ったニール・ヤングは、その場で「オハイオ」を書き上げる。曲はすぐさまレコーディングされ、事件から10日後には発売された。

ケント州立大学は何人かのミュージシャンを輩出しているが、事件当時、学生集会に参加していたのが、後にディーヴォを結成することになるジェリー・キャセールである。
ジェリーはその日のことを次のように語っている。

「私は(ケント大学の)学生でした。そして私はSDSのメンバーでした。民主(D)社会(S)を求める学生(S)たちという反戦グループです。リンドン・ジョンソンとニクソンが蹄鉄を打ちつけようとしていた民主主義を、元ある姿に復元しようとしたのです」

ジェリーが参加していたSDS以外にも、その日は多くの反戦グループが抗議行動に参加していた。ベトナム戦線をカンボジアへと拡大しようという動きを阻止するためだった。
「(カンボジアへの)侵攻は、秘密裏に行われました」とジェリーは続けた。
「ニクソンがやったことを、私たちは、いや国民全体はその次の日に知ることになったのです。彼らは国会で法案を提出したわけでも、法律を通したわけでも、話し合いを持ったわけでもありませんでした。それは憲法違反です。だから私たち3500人のケント大学の学生は、その日の正午、そこに集まったのです」

当時のオハイオ州ローズ知事は、好戦的な人物として知られていた。彼は学生たちがコロンビアで何が起こったかを知るや、大学構内の暖房施設に州兵を配置していた。
そして「事件」当日、時計が朝の9時を告げるのを待って戒厳令を発令した。その日の午後、いよいよ学生たちの前に州兵が姿を現したのである。

「集まった若者たちが歌を合唱し、叫び声をあげると、州兵たちは催涙弾を撃ち始めました。咳き込み、嗚咽し、嘔吐しながらも、州兵を押し返そうとする学生たちもいましたが、ほとんどの学生たちは銃を手にした州兵たちから、50ヤードから100ヤードのところにいました。実際に弾薬が入ってると思った学生はほとんどいなかったのではないでしょうか。しかし次の瞬間、州兵たちは突然、隊列を作ったのです。そして最初の兵隊は膝をついて、2人目は立ったまま、学生たちに向かって発砲してきたのです」

そして4人が命を落とした。
彼らは何故、命を落とさなくてはいけなかったのだろう。学生集会に参加したからなのか。反戦グループに所属していたからなのか。
いや、亡くなった4人のうち2人は、そのどちらでもなかった。
ジャーナリズムの学部ビルから授業が終わって出てきたところだった。そこで次の授業がある建物に向かう途中、抗議行動の群れに吸収される形になっていたのである。
「ショックでした」とジェリーは言った。「私の中のヒッピー的な要素は、その瞬間、どこかに吹き飛んでいきました」

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ジェリー・キャセールの家は裕福ではなかった。彼が大学に通うためには奨学金が必要だった。彼はそのために特待生制度を利用した。夏休みの間3ヶ月、彼は自らの後輩となる特待生を選ぶための仕事に従事した。そして入学が決まると、授業の選び方などをアドバイスした。
「亡くなったうちの2人、ジェフリー・ミラーとアリソン・クラウスは事件のあった前の年の夏、私が知り合った特待生たちでした。ですから、お腹から背中に大きな穴をあけられ、血を流して倒れている女の子がアリソンだとわかった時、私は気絶しそうになって、その場に倒れ込んだのです」

♪ もし君が彼女を知っていて
  その彼女が倒れ、命を落としたのを目にして
  どうして逃げることができるんだ ♪


ニール・ヤングの「オハイオ」の歌詞はそう続く。
もちろん、ニール・ヤングはこの歌を書くにあたって、若き日のジェリー・キャセールにインタビューしたわけではない。だが、その歌詞からはジェリーの魂の叫び声が聴こえてくるような気がする。

「オハイオ」は当然のように、放送禁止となった。
そしてジェリーは、ケント州立大学の友人とDEVOを結成することになる。

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「退化(De-Evolution)」と名づけられたそのバンドは、もちろん、方向転換をしたアメリカの夢に対する批判を意味していた。



(このコラムは2015年2月5日に公開されたものです)

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