♪ もし君が今去っていくというのなら
それは僕の大部分を持ち去っていくに等しい
ノー、ベイビー
行かないでおくれ ♪
1976年、シカゴのベーシスト、ピート・セテラが書き、歌った「イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ」は全米、全英でナンバーワンを記録する。
ピートが高音で歌うバラードは、まったく新しいファンを獲得していくことになった。「イフ・ユー~」を収録したアルバム『シカゴX』も当然のように大ヒットを記録する。
レコード会社は、バラード路線を続けるように、バンドを説得するようになった。
そして作られた11枚目のアルバム『シカゴXI』からは、「ベイビー・ホワット・ア・ビッグ・サプライズ(朝もやの二人)」が大ヒットする。これも、ピート・セテラが書いたバラードだった。
レコーディング・ルームでは、ホーン・セクションのメンバーたちがストレスを抱え始めていた。周囲が求めるラブ・バラードに、ホーン・セクションの出る幕はないように思えたからだ。
トロンボーン奏者のジェイムス・パンコウは、自分たちの存在が日に日に薄くなっていくことに危機感を抱いていた。そしてある日、彼はミックスの現場で声をあげる。
「なんでホーンの音のレベルをもう少し上げてくれないんだ」
♪ もし君が今去っていくというのなら
それはまさに僕の心の大切な部分を持ち去っていくこと
ノー、ベイビー
行かないでおくれ ♪
シンプルなラブ・バラードは、オリジナル・メンバーにとって、「かつてのシカゴ」からの別れの歌のように響いたのかも知れない。
レコードに収録されているアコースティック・ギターは、シカゴのマネージャーであり、楽曲のプロデューサーでもあったジェイムズ・ウィリアム・ガルシオがプレイしたものだ。
ガルシオは、かつてビーチボーイズのバックをつとめたこともある人物だった。彼がプレイしたデモ・トラックのあとに、シカゴのギタリスト、テリー・キャスが録音したのだが、結局、彼のテイクは使われることはなかった。
11枚目のアルバムを発表した後、ふたつの悲劇がバンドを襲う。
ひとつは、バンドと確執を生じたマネージャー、ガルシオの解雇。
そしてもうひとつは、シカゴの顔でもあった、ギタリスト、テリー・キャスの(ロシアン・ルーレットによるとも言われる)突然の死であった。
♪ イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ
もし君が今去っていくというのなら。。。♪
完璧に思えたラブ・バラードは、結果、様々な別れの物語を紡いでしまったことになる。