TAP the ROOTS

「クルマ」が人の夢を壊す時。

2015.10.01

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♪ 妹はアイスクリーム・コーンを手にフロントシート
  母さんはひとりでバックシート
  父さんはゆっくりとハンドルを切って
  ミシガン・アベニューへの試運転へと車を動かすのさ ♪


「ユーズド・カーズ」は、ブルース・スプリングスティーンが1982年に発表した『ネブラスカ』に収録されている。

Nebraska

物語は、主人公がまだ小さな頃、家族と一緒に中古車を買いに出かけた時の思い出から始まる。
描写されるのは彼の父親、妹、そして母親である。
ハンドルを握る父親。その隣の席にいるであろう妹。母親はひとり、後部座席に座っている。

主人公はどこにいるのだろう、と僕は考える。
古いアメリカの車なら、前の座席に3人座ることも可能だろう。
でも、妹と一緒に前の座席に座っているとしたら、いくら回顧シーンだとしても、主人公はこんな描写をするだろうか。
主人公は、家族と一緒に中古車の試乗をしなかったのだ、と僕は考えてみる。
だがそれも、少し不自然な気がする。
だとすれば、主人公はその時の自分の姿を消し、その情景を俯瞰で見ながら、自らの姿を父親に重ね合わせているのだろう。

主人公の視線は、後部座席にひとり座る母親の仕草に向けられる。

♪ そして母さんは結婚指輪をいじりながら
  セールスマンが父さんの手に視線を向けるのを眺めてる
  勘弁してくださいよ、できるだけ勉強してるんですから、と彼は言う
  正直、いっぱいいっぱいなんですから               ♪


主人公が生まれる前、母親が夢見たであろう結婚生活。
その思いの痕跡を残す指輪に触れながら、彼女は今ある現実を眺めるのだ。
敗れかけた夢の中の、ほんの一握りの希望。
そしてそんな母親の姿を見て、主人公は言い放つのである。

♪ 宝くじが当たったら、中古車なんて乗らないさ ♪


だが、主人公と家族はその中古車を手に入れる。
そして彼ら家族は、家へとその車で戻ってくるのである。

♪ 新しい中古車を停めると
  近所の連中があちこちから集まってくる
  父さんがアクセルを思い切り踏み込んで
  てめえらとはおさらばだ、と叫んでくれればいいのに ♪


そして、時が流れる。。。
少年は、青年となっている。
過去は、その時の未来である現在になっている。
だが、彼ら家族はまだ同じ土地で同じように暮らしているのだ。

♪ 父さんは同じ仕事で四六時中汗を流してる
  俺は生まれ落ちたこの泥んこ路を通って家へと向かう
  1ブロック先ではフロントシートに座った妹がクラクションを鳴らす
  その音がミシガン・アベニューを木霊する ♪


車には何故か、夢がつきまとう。

環境のことを考えて車を買った人たちがいる。
だが、その車が実は空を汚していたことが、つい最近判明した。
ヴォルクスワーゲン社の不正ソフトウェア問題は、明らかな詐欺事件である。

そして、多くのドライバーは今日もその車に乗り続けるしかないのだ…


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