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秋の夜長に聴きたくなるポール・ロジャースの歌声

2019.11.07

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フリー。
1969年にデビューした彼らは母国イギリスでも伝説のバンドとして語られることが多いが、日本でも熱狂的なファンが少なくない。
ブルース・バンドの人気が高い日本。
日本人ベーシスト、テツ・ヤマウチが参加したという縁。
いろいろな理由があるが、おそらく日本人がフリーを愛する理由のひとつは、ボーカリスト、ポール・ロジャースの声とその人柄だろう。
フリー解散後、バッド・カンパニーを結成し、アメリカでも成功を収めたポール・ロジャースだが、彼の名前を知らなくても、1970年代の刑事ドラマの挿入歌で彼の歌声を知った日本人も多かったに違いない。

フリーを解散し、バッド・カンパニーを結成する狭間にあたる1974年、彼は当時の妻、清水マチと来日する。
マチは女優、野添ひとみの従姉妹で、ファミリーには他にも芸能界と縁が深かった。
そして彼らは、大映テレビのプロデューサーであり、マチの叔母にあたる野添和子氏の世話になるのだが、彼女が当時担当しようとしていたのが「夜明けの刑事」だった。
恩返しにと、ポール・ロジャースは妻の叔母がプロデュースする刑事ドラマの挿入歌を作る。
たったひとりでレコーディングしたので、コーラス部分の「夜明けの刑事」を日本語で歌ったのも当然、ポール自身である。

そんなポールが歌うブルースは、不思議と日本人好みの哀愁を帯びていた。
フリーが解散した原因のひとつは、ギタリストだったポール・コゾフのドラッグ問題だが、「ウィッシング・ウェル」はそんなポール・コゾフに対する愛情が注ぎ込まれた作品である。

♪ 帽子を取って
  靴も脱いじまえよ
  もう、どこにも行かないんだから ♪


歌は、脱退を口にするポール・コゾフに語りかけるような歌詞で始まる。

♪ ブルースを歌って
  町中を走り回ってりゃいいさ
  どこにも行くことはないんだから ♪


そして、情に訴えるような歌詞が続く。

♪ いつもいい友達だったじゃないか
  それなのに、おさらば、かい? ♪


ウィッシング・ウェル。
よくなることを願い、という意味だが、この歌の中では、願いの井戸(ウェル)のことだ。

♪ おまえが満足なのは
  願いの井戸に足を突っ込んでる時だけなのさ ♪


ポール・ロジャースは親友のギタリストがドラッグに溺れたことを責めたりはしないのである。
純粋さゆえに、と解釈するのだ。

♪ 君の願いはわかってるさ
  愛と平和な世界
  愛と平和な世界
  愛と平和な世界    ♪


ポール・ロジャースの願いも空しく、ポール・コゾフは再起をかけたツアー中の1976年、ロスからニューヨークへ向かう飛行機の中で心臓麻痺を起こし、この世を去っている。

秋の夜長。
突然の夜風に震えた時には、ポール・ロジャースの歌声が聴きたくなる。

クイーンのボーカリストとしてステージにあがった彼もいいし、バッド・カンパニーも悪くないが、この季節には、フリー時代のポールの優しい歌声が似合うように思うのだ。



(このコラムは2015年10月7日に公開されたものです)

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