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「バード」の正体を探る。

2016.05.19

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欲しいものは何でも手に入れたと君は言う
そして君のバードは歌う、とね
でも君は僕のことは手に入れちゃいない
手に入れちゃいないのさ

ジョン・レノン自身が駄作と言い切る「アンド・ユア・バード・キャン・シング」。
だが、ジョージ・ハリスンとポール・マッカートニーのツイン・ギターの迫力と、難解ながらもイメージが広がっていく歌詞も相まって、お気に入りの曲としている人も少なくない。
そのうちのひとりがポール・ウェラーで、ジャム時代にこの曲をカバーしている。



しかし、不思議な歌詞である。
君のバード(鳥)は歌う?

まず、噂されたのが、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーだった。バードには、イギリスのスラングで「女の子」「彼女」の意味があるが、だとすれば、

君のバードは歌う、は、君の彼女は歌う、という意味にも取れる。

当時、ミックにはマリアンヌ・フェイスフルというシンガーの彼女がいた。そしてミックはかなり声高に、その自慢話をしていたというのである。

確かに、そんな理由で書いた曲なら、ジョンが駄作だと自作曲をかたづけるのもわかる気がする。
だが、もう少し歌詞を追ってみよう。


ありとあらゆる音を聞いてきたと君は言う
そして君のバードはスイングする、とね
でも、君には僕の音が聞こえない
僕の声が聞こえないのさ

ここで、待てよ、ということになる。
マリアンヌ・フェイスフルは歌うが、スイングはしない。
では、歌い、スイングするバードの正体は?

2007年に発表されたジョナサン・グールド著「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は、フランク・シナトラ説を取り上げている。
かつて、長澤潔氏が書いたコラム(こちらを参照)にもあったように、1966年のエスクァイア誌のコラムで、ゲイ・ガリーズはフランク・シナトラについて書いている。そしてそのコラムの中で、シナトラが仲のいい友人のことをバディではなく、「バード」と呼んでいることが明かされているのである。

もちろん、それだけで、ジョンがこの歌を書くわけはない。
きっかけは、ゲイ・タリーズがフランク・シナトラについての文章を収めた単行本を出版した時のことである。出版社はリリースに合わせて、この本に宣伝文をつけた。これが、ジョンの目にとまったのである。そこには、こう書かれていた。

「メロンの木箱を覆い隠すほどの、モップのような髪型をした子供の音楽に飽き飽きしているあなたに。。。」


ジョンはこの宣伝文を書いた男に言いたかったのだろう。
俺の歌をわかっちゃいないな、と。
だが、ジョンはこうも歌っているのだ。


君のバードが怪我をしたら
落ち込むんだろうな
でも、目が覚めるかも知れないぜ
僕がそばにいる、僕がそばにいるとね 

大人たちがジョンの歌に理解を示し始めるのは、ビートルズ解散後のことだった。




ザ・ビートルズ『リボルバー』
ユニバーサルミュージック

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