TAP the ROOTS

『アーガス』の鉄兜が見ていたものとは?

2016.07.21

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炎の中、その王はやってくる
雷は轟き、パイプと太鼓の音がする
邪悪なる息子たちは群をなし
犯した罪の数を数える
最後の審判がやってくる

 ウイッシュボーン・アッシュの3作目のアルバムであり、メロディーメーカー誌が1972年のベスト・アルバムに選出した『アーガス』(邦題:『百眼の巨人アーガス』)に収められている「ザ・キング・ウィル・カム」は、バンドのベーシスト、マーティン・ターナーが聖書にインスパイアされて書いた作品である。
「確かに、あの曲にはある種の情緒がある」と、バンドのギタリスト、アンディー・パウエルは語っている。
「普遍的な情緒がね。そして、ヘビーだったあの頃という時代において、人々が聖書的な情緒を欲していたんだと思う。ただ、アルバムの中には聖書以外の宗教からとったテーマの曲もある」

 明日が見えない時代。
 神が現れて善悪を裁いてほしい、というようなムードが広がっていた、ということだろう。

 だが、日本人がウイッシュボーン・アッシュに惹かれたのは、宗教的な情緒というよりは、そのツインギターのサウンドであり、『アーガス』に関していえば、アルバム・ジャケットの素晴らしさだった。ジャケ買い、の対象になりうる作品だった。

『アーガス』のジャケット・デザインを担当したのは、ヒプノシスのストーム・ソーガソンとオーブリー・パウエルだった。
 ヒプノシスは、1968年にストームとオーブリーが結成したデザイン・チームで、ピンク・フロイドのセカンド・アルバム『神秘』を手がけたことをきっかけに、次々と名作と言われるアルバム・ジャケットを手がけていた。
 1971年。彼らがピンク・フロイドの『おせっかい』、Tレックスの『電気の武者』を手がけた年、ウイッシュボーン・アッシュはセカンド・アルバム『巡礼の旅』で、ヒプノシスと初共演を果たしていた。

「アーガス」のジャケットには、鉄兜をかぶり、マントを纏い、槍をもったガーディアンの後姿が描かれている。
 ガーディアンというコンセプトは、ギリシア神話に登場するアーガスからとられた。百の眼を持つとされるアーガスは、眼が交代交代に眠りにつくので、つまり、常に起きているので監視役にはぴったりというわけである。

 だが、アルバム・ジャケットのガーディアンの衣装はギリシア神話というよりは、中世の騎士物語のようにも見える。
 実際、ストーム・ソーガソンは1971年に公開されたケン・ラッセル監督の「肉体の悪魔」のセットから、鉄兜とマントを借りてきている。
「肉体の悪魔」の原作はオルダス・ハクスリーの「ルーダンの悪魔」。17世紀のフランスで起こった事件のノンフィクションである。
 槍は、オーブリー・パウエルが、やはり1971年に公開されたロマン・ポランスキー監督の「マクベス」から借りてきたものだ。

 ところで、1972年といえば、当然のことながら、CDはまだなく、レコードであった。そしてレコード・ジャケットにはレコードを収めるだけのものと、見開きタイプの豪華なものとがあった。
「アーガス」は後者。つまり、見開きタイプのジャケットだった。
 そしてジャケットを開いてみると、鉄兜のガーディアンの視線の先には、何と、UFOが飛んでいたのである。


夜と昼のチェッカー盤
死にゆく者と救われる者
空は落ち、地は祈る
最後の審判の日がやってきたことを
告げる、その時に

ufo

 ジョージ・アダムスキーがUFO信者を集めていた時代、最後の審判の時、イエスではなく、空飛ぶ円盤が人を選び、救ってくれるのだと信じている人たちもいた。
 そんな人たちにとっても、このジャケットは、素晴らしい啓示にうつったのである。



Wishbone Ash『Argus』
MCA

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